オオカミの背を追いかけて

ツヅラ

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1話 女子高生追跡魔

07

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 料理をしている間、宿題でもして待っててほしいと言われたが、正直、集中できない。

「やっぱり、何か手伝います」
「おや……じゃあ、惣菜を分けておいてもらえるかな?」

 割引シールの貼られた惣菜パックを開けて、小皿に分けていく。

「バイト先は、駅の近くだったかな?」
「はい。10分かからないくらいのところです」
「そうか。最近は、女子高生を狙った不審者がいるそうだから、遅くなるようなら、駅まで迎えに行くよ」
「え゛、いいですよ。別に」

 そこまでしてもらうのは悪い。
 蛭子だって、仕事だってあるだろうし、学生の動きに合わせてもらうのは悪い。

「ダメだよ。本当は、言ってはいけないんだけど、この辺で、その不審者が事件を起こしていてね」
「あ……もしかして、雨宮さんが聞き込みきた事件ですか?」

 バイトの先輩で、昨日、急に連絡もなくバイトに来なかったため、千秋が時間いっぱいまでシフトへ入っていたことを伝えれば、蛭子は驚いたように目を瞬かせていた。

「千秋君のバイト先の先輩だったのか」
「世間て狭いですね……」

 雨宮の言った通りだ。

「詳しくは話せないけど、その事件だね。すごく近いでしょ?」
「近いですね」
「だから、せめて、その事件が解決するまでね」

 明確に提示される期間と理由に、千秋は何とも言えない表情になってしまう。

「別に、私なんか襲わないでしょ」

 自分のことが大切ならば、相手に迷惑をかけてもいいと思える間柄ならば、頷けるのだろう。
 だが、どちらも千秋にはなかった。

「……いいかい? 彼らはね、穴があればいいんだ。なんだったら、性別だって、女なら高確率で力で抑え込めて、穴の数がひとつ多い位の認識だ」

 さすがの千秋も、あまりに直接的な言葉に、驚いて箸を置く手を止めて、蛭子の方へ目をやってしまう。

「そ、そうなんだ……」
「そうなの」

 わかってくれたならいい。と、もう一度、遅くなるなら、メールするように注意される。

「まぁ、明るくても、ゼロってわけじゃないから、怪しいと思ったら、コンビニとか逃げ込んで、連絡するんだよ。110番よりは気楽でしょ」
「結局、同じなのでは?」

 繋がるのは、警察なのだし。

 すでに他人事のように、視線をテーブルの方へ落とす千秋に、蛭子は何とも言えない表情を向ける。

「もし、逃げ込む場所がなかったら……顎か、股間に一発入れた後でいいから、ちゃんと逃げるように。間違っても、追撃しないこと」
「私を何だと思ってます?」

 テンプレートのような当たり障りのない、振り解いて逃げろとか、叫べとか、そういうことを言われるのかと思ったら、随分な物理的な解決法を提示してきた。
 千秋自身が、以前似たようなことを言った気がするが、あの約束とは少し違う。

 本当に、この人は警察なのだろうか。

「いやだって、君、確実に仕留めた方がいいって顔してるじゃない」
「…………」

 少し事実なので、逃げるようにテレビの方に視線をやるのだった。
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