氷の契約魔導士、戦線復帰す

ツヅラ

文字の大きさ
21 / 30
第三作戦 炎と氷

06

しおりを挟む
 遊撃部隊の出撃命令は多く、加賀谷とガリーナの部隊が、すれ違うことも度々あった。

「向こうの魔導士は、まだ揃ってないみたいだな」
「いや、揃ってるだろ。日本人ってのは、小さいからな!」

 空母の上で、ロシア人がわざと聞こえるように笑う様子に、静かに一ノ宮が視線をやるが、ゆっくりと目を伏せると、海上へ目をやった。

「おいおい。女の子がいなくなってるじゃねーか。日本の大切なカミカゼなんだろ?」
「日本は、物を落としても、戻ってくるから、海に落としたら戻ってこないってことも知らね――ぐっ」
「いい加減にしなさい」

 笑う軍人の腹を殴ったガリーナは、苛ついた様子で、待機している坪田たちに一瞬だけ視線を送り、船内に戻っていった。

「おいおい……いつも、喧嘩売ってるのは、レージャの方だろ」
「女の子だなぁ……」

 すれ違うたびに、加賀谷に嫌味を言うのは、ガリーナだというのに、今日に限って何も言わないガリーナに、隊員たちは不思議そうに見送る。

「みなさん、焼き殺されたくなければ、あまり品位を損なう発言をしないように」
「へいへい。了解だ」

 ガリーナの副官であるオニの注意に、隊員たちは、反省した様子もなく返事を返した。

「なんなの、アイツら。契約魔導士の役割も知らないわけ? 頭でも茹だってるの?」

 用意された船室で、ガリーナは荒々しく椅子に腰かけると、後ろについてきたオニへ、苛立ちを隠す様子もなく怒鳴る。

「そんなんだから、年々うちの戦力は落ちてるのよ。前の奴だって、碌に大きな戦いでもなかったのに……」

 ロシアの契約魔導士の排出人数は、アメリカに次いで2位であり、契約魔導士のいない空白期間が少ない国として、有名だ。

 だが、それでも、ここ数年間の戦績は、下がっていた。
 単純に、デドリィの活動が減少していたことが大きな要因ではあるが、放棄された水上フロートの問題も大きかった。

「ですが、日本は、契約魔導士がいるにも関わらず、ここ、8年の戦績は振るっていないようですから、わざわざ、ちょっかいをかける必要はないかと」
「ちょっかいって……! 私は別に――」
「傍から見れば、随分とご執心のように見えますよ。もし、個人的な感情でなければ、もう少し控えるべきかと」
「ッ……わかった。少し気を付けるわ」

 なにか言いかけたガリーナは、少し眉を震わせると、頬杖をつき、顔を逸らして、助言を受け入れるのだった。

 その頃、加賀谷は、海面に近い海上に、第一中隊と共にいた。
 そこで、険しい表情で、海中に凍結術式を展開していた。

「デドリィ活動値低下傾向。現在、約90%が活動を停止しています」
「水温 -1℃。軽度凍結みられるが、規定以下。問題なし」
「作戦継続」

 それぞれの属性の精霊と契約した魔導士に与えられる、特殊な任務。
 氷の契約魔導士は、海中にいるデドリィを刺激せず、倒すことが、その任務にあたる。

 方法は単純で、海水を冷やすことで、デドリィの核温度を低下、活動を停止させる。
 海中で、待機しているデドリィを排除し、予備兵力を削る方法で、今後の作戦や奇襲の危険度に直結する。

「全デドリィの活動停止を確認」
「水温 -1.2度。凍結規定以下。問題なし」
「作戦終了。隊長。お疲れ様です」
「よかった……うまくいった……」

 安心したように、ようやく息を吐き出した加賀谷に、久保も含めた、第一中隊全員が、安心したように表情を綻ばせた。

「まさか、海水温を魔術で測ることになると思いませんでしたよ」
「私も、楠葉さんから言われた時は、びっくりしました……でも、おかげで、初めてうまくいきました」

 この作戦そのものは、加賀谷も数回したことがある。

 どれも、今回ほど、うまくいかなかった。大きな氷塊ができたり、デドリィを刺激してしまったりと、結果的に事態を収めることはできたが、成功かと言われると少し怪しい部分がある。

 それを気にして、楠葉に教えられたのは、複数人での術式を展開する方法だ。
 デドリィの活動状況を確認する隊員、海水の氷結状況を確認する隊員と共に、目視できない海中を魔術的に確認しながら、行う方法。
 これなら、魔力を込めすぎて、海が凍結することも、デドリィを刺激したり、逆に倒せていないことも無くなる。

「正直、デドリィを刺激しちゃったら、倒せばいいんですけど……氷塊が浮いてくる方は、本当に大変らしくて……」
「まぁ、航路に影響出るでしょうし」

 作戦海域の近くではあるが、軍艦が待機している海域からは、離れていると思ってはいたが、過去の加賀谷のやらかしのせいかと、久保も言葉なく納得した。

 デドリィの奇襲には、軍艦も対策を行っているが、海中から浮き上がってくる氷塊に、対策は行っていない。
 この場所と、軍艦の距離については、それらへの対策かと、久保は、今回の結果を踏まえ、少しだけ満足気に口端を上げた。

「しかし、この調子でいけば、水上フロート近くでの作戦も任されるかもしれませんよ」

 そうすれば、遊撃隊以外にも、重要拠点防衛の要となれる可能性もある。
 幸い、現在、氷の精霊と契約しているのは、加賀谷だけだ。競合はいない。

「そうすれば、あのロシアの連中も、少しは静かになりますね」
「久保さん、結構気にしてます……?」
「そりゃもう。坪田大尉から聞いてましたが、隊長の胆力に感心するばかりです」

 ちくりと笑顔で放たれる嫌味に、加賀谷は小さく呻くことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...