氷の契約魔導士、戦線復帰す

ツヅラ

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第三作戦 炎と氷

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 群島型デドリィせん滅作戦海域から、少し離れた海域にて、藤堂たちも戦況を固唾を飲んで見守っていた。

 作戦通りに進むならば、このまま契約魔導士を含む魔導部隊を回収して、輸送任務に移れる。
 だが、もし契約魔導士が落とされるなどの不測の事態が起きれば、海上戦力でデドリィを対処する必要が出てくる。

「しかし、ロシアのも凄まじいものだな……」

 今のところ、デドリィとの直接的な戦闘の必要は無く、作戦を終了できそうだ。

 つい先ほど、魔力の計器が大きく警告音を響かせ、大きく船が揺れた直後、モニターされているデドリィたちの核の反応が一斉に消えた。
 サーモグラフィーでの探知も一部を除いて、あまりの高温に白く飛んでいる。

イフリートの完全顕現……この距離でも、甲板で戦況を見ていた隊員が悲鳴を上げていましたよ」
「軟弱だな。炎が飛んできたわけでもあるまい」

 あくまで熱気だけだ。
 突然、高温の風に晒されこそしたが、火傷を負うほどではない。

「戦闘海域方向の監視任務についている者は、ゴーグルの着用を指示しろ。戦闘は、継続している。次は、炎が飛んで来るやもしれんぞ」

 契約魔導士の完全顕現での戦闘の余波は、広範囲に及ぶ。

 かつて、加賀谷が東京湾を凍らせ、数週間海路が使えなくなったように、どの契約魔導士が完全顕現をしたとしても、功績と共に、その被害は大きい。

「艦長は、完全顕現した契約魔導士との共闘経験はおありなのですか?」
「風ならある。下手な指示を出せば、船が軽く横転するのは、ベテランとて舵を握るのが恐ろしかったと言っていたな」
「それをたった一人の人間が起こしているとは……考えたくはないですね」
「そう言ってやるな。彼らは、皆、最も命を危険に晒して、戦っているのだ」

 デドリィなどというバケモノを相手に、誰よりも前で戦い続ける。
 それこそ、命が尽きるその時まで、デドリィと戦い続けることが定められている魔導士。
 それが、契約魔導士だ。

 副艦長は、静かに目を閉じた後、おもむろに艦長に問いかけた。

「共闘する契約魔導士を、もし選べるとしたら、艦長はどなたを選びますか?」
「ふむ……性質だけで話をするなら、重力だな」

 ”重力”
 契約魔導士の中でも、特に数が少ない。
 前回の大規模の戦いにおいて、もっとも功績を遺した、終戦の魔導士と呼ばれているマイクが、重力の精霊と契約している。

 それ故に、戦場での武勇伝を含めた記録も多く残っているが、その一部は、もはや現実に起こるとは思えないような事実も書かれていた。

「自分は、空を飛ぶ船は、観光地だけで十分と思っていますが」
「ハッハッハッ! それは私もご免被りたいな! しかしまぁ、アレは既に沈んだ船の話だろう」

 すぐに副艦長の頭に浮かんだのは、船を浮かせて、デドリィに叩きつけたという武勇伝。

 記録の上では、船員も既に脱出済みの沈没しかけていた船であったというし、全てが全て事実であるかは、わからない。
 とにもかくにも、契約魔導士たちの起こす攻撃は、規格外過ぎて、記録すら全てを信じていいのか、疑いたくなる。

「だがまぁ、氷山による座礁、炎に焙られステーキ気分、不意に触った壁で感電、強風による横転、高波による横転……うん。消去法だな! 全く!!」

 選ぶ余地がほとんどないと、正直どれでもいいとばかりに笑う藤堂に、聞き耳を立てていた船員たちも、苦笑いになってしまう。

「では、艦長は、加賀谷契約魔導士殿より、マイク契約魔導士の方が好みであると」
「まさか。恩人たる我が国の契約魔導士殿を差し置くことなどないさ」

 座礁は私も怖いがな。と付け加える藤堂に、副艦長も含め、少し頬が引きつるが、聞こえてきた警告音に、すぐにモニターへ目をやる。

「随分と、魔力を放出してるな」
「群れのリーダーの反応は、既にロストしてますが、不測の事態でしょうか……」

 先程と同様、画面が真っ白になるような温度に、この警告音を鳴らしているのは、ガリーナの方であることが想像がつく。
 モニターでは、群島型デドリィの群れのリーダーである核の破壊を確認しているが、それ以外に何か潜んでいたということか。

 状況を確認するよう、甲板での監視任務についていた船員たちへ指示が飛ぶ中、藤堂はひとり、怪訝そうにそのモニターを睨んでいた。

「外にいる隊員たちに、即時艦内に入れる位置で待機するよう伝えろ」

 藤堂の言葉に、副艦長を含めた全員が、表情を強張らせた。


 その現場にいたオニたちは、荒れ狂う熱波に、ガリーナを恐ろしいものでも見るかのように、見上げていた。
 炎の矢の射撃の威力も、精度も、速度も上がり続ける中、ただガリーナだけが苦し気に背を丸め、喘いでいた。

「副隊長! アレ!」

 隊員たち全員の脳裏に過ったのは、同じ文言だった。

「暴走……」

 契約魔導士が、その精霊の力を制御できず、魔力が溢れ出す状態であり、暴走状態に陥った契約魔導士は、無差別な自然災害と変わりない。
 そんな力に、隊員が巻き込まれれば、死ぬ可能性が高い。

「隊長! しっかりしてください! このままでは我々も――」
「わかってる!!」

 オニの声に、ガリーナも怒鳴り返すが、体の中から溢れ出す焼かれるような魔力の奔流を抑えきれない。

 炎の精霊と契約してから、感じることがなかった、皮膚の焼け付く痛みと、ベタつくような嫌な匂い。

「なんで……! また……っ!!」

 視界を覆い尽くすような炎の波。
 焼ける、熱い。痛い。苦しい。

「――ッッ」

 違う。私は、あの試練を、この炎の波を突破した。
 だから――――

『ガリーナ・ニムファ。契約魔導士としての使命を全うせよ』

 無線から聞こえてきた、しわがれた声。

 契約魔導士になってから、何度も聞いたその声。
 自分の最期を言い渡すと定められていた、その声の命令。

「ぁ……っっ了解」

 せめて、ここに残ってるデドリィたちは、全員、道連れにしてやる。

「総員、退避。日本の連中も、さっさと離れなさい」

 絞り出すようなガリーナの命令に、隊員たちも一瞬、ガリーナに目を向けるが、すぐに距離を取るように背を向けた。
 ただ一人、オニだけは足を止めていたが、海上のデドリィたちに向かうガリーナを見送ると、他の隊員たちと同じようにガリーナへ背を向けた。

「クソ、クソクソクソっ……!! なんで、なんでよ……!!」

 まだ何も成し遂げていない。
 まだ誰も助けられていない。

 こんな、デドリィと戦って死ぬわけじゃなく、精霊に負けて死ぬなんて、イヤだ。
 これじゃあ、私は、弱いままだ。

「いやだ……」

――まだ、死にたくない。

 溢すことすら許されない言葉の代わりに、小さく呼吸が震えた。

『――高度を上げろ!!』

 全身を焼き焦がす音を切り裂いて、鼓膜を震わせる声が響いた。
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