氷の契約魔導士、戦線復帰す

ツヅラ

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第二作戦 大隊結成

05

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「まさか、一息つく間もなく出撃とは……」

 久保がもらした言葉は、全員の心を代弁していた。
 第三十七魔導大隊は、現在航空機の中で揺られていた。

 それは、一時間前のことだ。

 第四フロートの軍港で、加賀谷が劉に、再度二度と忍び込まないよう伝えている時のことだった。

「劉大尉!」

 駆けてきたユニリッドの兵士は、一度加賀谷に目をやるが、劉に先を促され、姿勢を正す。

「第十二フロートにて、デドリィの魔力を感知。小隊が出撃したのですが……」

 フロートは、安全域から作られていき、ナンバリングがされている。
 第十二フロートは、比較的初期に作られた、すでに放棄された基地が設置されている。ここから航空機で、1時間かからない。

 海はデドリィの領地のため、いくら安全域の海上にフロートを作ったところで、海底から襲撃されることが、絶対にないわけではない。

「妙な魔力を感じたと、楊大佐まで出撃されまして……」
「ジジィが出たなら問題ないだろ」
「問題なのは妙な魔力じゃ……」
「失礼。その魔力に関して解析は?」
「貴官、所属は?」
「ユニリッド日本支部 第三十七魔導大隊所属、坪田大尉であります」

 三十七魔導大隊、聞き覚えはない。

「申し訳ないが、大佐の命でな。もし、救援を寄越すにしても、契約魔導士だと言われている」
「ほぉ……」

 妙な魔力に興味はないが、楊がそこまでいう敵には、劉も興味を引かれる。
 そっと劉が、加賀谷へ目をやれば、目の合った加賀谷の表情が強張った。
 だが、すぐに考えるように視線を伏せ、おずおずと坪田に目をやった。

 楊李が、本当に助けを求めているなら、動くことは構わない。
 ただ、今回は命令も要請も出ていない。緊急対応として動くこともできるが、同じ日本の部隊ではない上に、海上フロートを管理している国との問題もある。
 その上、今の今まで護衛任務をしていた隊員たち疲労。

 つい先日まで、高校生をしていた加賀谷には、さすがに判断がつけられなかった。

「貴官の慌てぶりからして、救援が必要な状況と判断するが、支援は必要か?」
「日本の契約魔導士とジジィは、懇意にしているからな。他に比べて、呼びつけやすいが、さて」
「そうでありましたか……では、ぜひ」
「相分かった。連絡をつけておこう。お前は戻り、状況を伝えろ」
「はっ!」

 兵士が去っていくと、劉はニヒルに笑いながら振り返る。

「――だ、そうだ。契約魔導士殿」

 あくまで、支援に留まろうとした坪田の判断を抑えるような一言が決定的だった。
 坪田も久保も苦笑いを隠すつもりはなく、おそらく加賀谷も似た表情をしていることだろう。

「どうせ、ジジィに抗議文書送るのだろう? 直接言えばいい」
「そういう問題じゃ……」
「安心しろ。正式に要請は送る」
「……久保。到着遅れる連絡を頼む。俺は航空機の手配をしてくる。我妻!」


 そして、現状に至る。

 移動中の戦闘は予想外にしても、荷物を片付ける間もなく、倉庫に放り込んで、航空機に乗り込むとまでは思っていなかった。

「隊長。大丈夫ですか?」

 この隊の中で、純粋な体力がないのは、加賀谷だ。

「は、はい。大丈夫です」
「今回は、あくまで部隊の救出です。退路の確保さえできれば、問題ないかと」

 浮かび上がる地図にいくつか印が光っている。
 これから救出する部隊の位置だ。

「確かに、デドリィが小隊を囲うようにいますね。海への退路にも」
「発見されてる、停泊した船をデドリィから守るのは、さすがに骨が折れますね」
「だが、これが無ければ、中国部隊の移動は難しいだろう」

 装備さえあれば、加賀谷たちのように、魔導士が空を飛ぶこともできるが、中国はそういった魔導士の運用に、あまり力を入れていなかった。
 魔導士と通常兵の混合した大規模な部隊の運用に長けるが、代わりに移動手段は、従来と同じ、船か航空機のどちらかだった。
 加賀谷たちのように、単独で飛行して逃げることはできない。

「船のデドリィは、老師に任せて問題ないと思います」
「楊大佐にですか?」
「はい。老師の契約している精霊は”雷”ですし、周りに他の船はいないみたいですし、老師が乗ってる船なら、避雷針はつけられているはずです。船に戻れば、すぐに倒せると思います」

 現状、船周辺にデドリィがいるということは、楊が地上部隊にいることを証明していた。
 性格的にも、おそらく、その妙な魔力について、自分自身で調べに行ってしまっているのだろう。

「では、我々は、船までの退路確保および、地上デドリィの追撃阻止。中国部隊離脱後、撤退。これでよろしいでしょうか?」
「問題は、妙な魔力ですね。何か情報は?」
「全く」

 連絡のあった妙な魔力については、全く連絡がない。
 今作戦で最も重要な部分になりそうだが。

「隊長は何か感じます?」
「この辺は、海底のデドリィの魔力が多くて……観測術式も試してみましたが、なんとも……」

 大きな魔力を感じるわけでもない。
 むしろ、モホロビ級のような大きな魔力は、付近に感じない。楊だけでも、十分とも思える戦況。
 契約魔導士の支援云々については、単に、格下が来るのは足を引っ張るだけだと、遠回しに支援を拒否したかっただけなのかもしれない。
 それを、部下が心配しただけ。

「……」

 ないとは言い切れない。

「まぁ、ここは劉大尉の言う通り、直接、抗議を申し立てる口実ということにしましょう」
「そ、そうですね」

 ポイント到着後、航空機から降下すれば、足元には、海中に向かい砲撃を繰り返す軍艦。
 押されている様子はない。

「予定通り、このまま孤立した部隊のところまで行きます!」
「了解」

*****

 デドリィの強さは、それほどでもない。
 むしろ、強敵は軒並み倒された跡がある。残っているのは、取るに足らない雑魚ばかり。

「…………」
「大佐? どうかされましたか?」

 部下の声に、先を睨むのをやめ、振り返る。
 頼んでもいない援軍が、こちらに向かってきているようだ。

「ん?」

 どこかの部隊が勘違いしたかと思ったが、どうやら違うらしい。
 なにより、懐かしい気配がする。

 小型化された航空魔導装備を身に着けた、日本の魔導部隊。
 それを率いているのは、まぎれもなく、知り合いの少女だった。

「久しいな。悠里」
「老師! 無事ですね」

 ユニリッド共通回線による通信。

「囲まれてます。撤退してください」
「この程度で”囲まれる”と言うか?」
「……老師的に問題が無くても、戻ってください。どちらかといえば、船の方が大変です」
「ハハハ。そうかそうか。足がなくなっては、泳がなくてはいけないな」

 表情が引きつる部下たち。軟弱者どもだ。

 しかし、船へデドリィが、集まり始めていることも事実。
 これ以上は、部下を危険に晒しかねない。

「…………」

 確認したいことはあったが。

「老師」
「ん?」
「妙な魔力ってなんですか? ただ運動したいだけだったなら、撤退してください」

 彼女独特の頑とした目で、撤退を促される。
 姿こそ変わったが、変わりのないことに安心半ばに、見上げた。

「嘘でも冗談でもない。そうさな、あの廃棄場だ」
「廃棄場?」

 加賀谷が目を向ければ、煙突があった。かつて除染したヒマワリの廃棄処理場が、その地下に埋まっているそうだ。
 そこに、妙な魔力を感じたという。

 デドリィの再生の危険がある廃棄処理場に、未確認の魔力。

「……久保さん。一緒に来てくれますか?」
「こういう時は、『来い』でいいんですよ。隊長」

 冗談めかしに笑う久保に、安心したように表情を崩すと、坪田に目を向ける。
 この条件が揃って、無視はできないだろう。

「未確認の魔力については、私と久保さんで確認してきます。もし、ダメでも、久保さんひとりなら、抱えて逃げられますし、何かあれば、老師と対処できます」
「了解しました。我々は、撤退の支援を。隊長。どうか、危険と判断したら、すぐに退避を」
「はい。ありがとうございます」

 部隊内の話し合いを終えると、楊へ向き直り、今のことを伝えれば、頷かれた。

「では、手を借りさせてもらおう」
「はい。後ろから追ってくるデドリィは任せてください。港までの道は、老師いるなら、何とかなりますよね?」

 だいぶ雑な連絡の仕方だが、老師は気にした様子も「もちろん」と返すだけ。

「じゃあ、お願いします」
「相分かった」
「久保さん」
「了解」

 廃棄処理場へ向かえば、デドリィはいない。
 観測術式を展開し、内部の様子を確認する。

「……?」

 確かに妙な魔力がある。
 デドリィとは違うが、魔導士とも違う。

「隊長?」
「確かに、何かいそうです」

 加賀谷の警戒の表れなのか、髪の色は白く染まり、吐き出す息は白い。
 自らの隊長の冷気で動けなくならないよう、発熱術式を使用しながら、周囲を警戒する。

「……」

 しかし、ふたりの警戒を他所に、最深部であるヒマワリの置き場まで来てしまった。
 そこにあったのは、復活したデドリィの死骸。

「楊大佐は、ここまで、辿り着いていなかったはずですよね」
「たぶん」

 となれば、このデドリィは誰が倒したのか。

 考えられるのは、最初に発見した、魔導士ではない一般兵が倒した。そして、その数に自らで倒すのは諦め、魔導部隊へ連絡をし、避難した。
 千葉での戦闘を考えれば、一般兵が倒したのであれば、また再生する可能性がある。

 ただ、それだけでは、妙な魔力についての説明がつかない。

「現場保存も兼ねて、この部屋をこのまま凍り付かせるというのは、ありですかね」
「ありだと思います。前代未聞でしょうが」

 このデドリィの死骸を調べるにも、このまま放置しては、デドリィが再生し、大量発生してしまうことになる。
 ならば、焼却術式で燃やすよりも、凍り付かせた方が調べやすいはずだ。

 加賀谷が腕を振れば、部屋に冷気に満たされ、部屋のすべてが凍り付いた。
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