Aコードコンチェルト

ツヅラ

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第1作戦 帝国侵入

03

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 帝国本土についたものの弥、拓斗、遼太は近くにあったコンビニの外で座っていた。

「このあとは?」
「新幹線で首都に行って、そこから電車だ。うまくいけば今日の夜には着ける。着かなくても、近づけはする」
「新幹線かぁ……俺、初めてだな」
「酔い止め買っとくか? 和樹の二の舞にならないように」

 そう。船に乗ってる最中から、和樹が船に酔い、本土についたがすぐに移動というわけにもいかず、コンビニで酔いを覚ましているところだった。
 付き添いとして、木在がついて行き、心配なのかルーチェまでついて行った。

「船みたいに外に吐けないもんな」
「中にトイレあるらしいぞ」
「マジか!?」

 ヴェーベには島ということもあり、新幹線は存在しない。初めての乗り物に興奮している拓斗を他所に、弥がもう一つ提案する。

「今日はこっちで泊まって、明日、朝一で向かうのは?」
「旅費の意味だとそっちの方が懐に優しい……が、別に今回は旅行ではないので、経費で落とす。そのへんの心配は要らないぞ。弥」

 確かに宿泊代も首都に近づけば高くなり、安く済ませるなら、今日はこの近くに泊まるというのも手だ。和樹の体調のこともそうだが、全員、船旅で少しは疲れている。
 首都に近づけば、何が起きるかわからないのは事実なのだから、休める時に休む、弥の提案は現実的ではあった。

「できれば、今日中に首都近くまで行っておきたい」
「?」
「ルーチェが狙われてるなら、ヴェーベから来る能力者は特に警戒してるだろ。さっき船を降りた時に、遠巻きに見てる奴が何人かいただろ。つまり、情報はすぐに向こうに届くわけだ」

 顔は帽子で半分は隠れているものの、ルーチェに気づく可能性は大いにある。しかも、ヴェーベから能力者どころか子供がくることは少ないため、簡単にバレるだろう。

「でも、能力者が本土にくる時は、船の名前と時間は必要。バレてない?」
「そこは大丈夫だ。今、急ぎで船の手配してるから、わかんねぇって誤魔化しといた。あとで書き足しといてくれるってさ」

 意外に融通が効くことに驚きながらも、遼太は首都周辺の地図を見せた。大きな建物を中心に、電車の線路がヴェーベと同じようにクモの巣状に張り巡らされている。

「相手が、この時間ならもう研究機関についてるって思ってくれてるのが、一番いいんだが、そうじゃなかった場合、どう逃げるにしろ、地の利がないんだ。逃げ道が大量にある首都近くの方がいい。どっちにしろ、目的地も首都を超えた先だしな」
「なぁ、ずっと思ってたんだけど、研究機関にたどり着いても、そこが襲われたら意味なくね?」
「冴えてるのか、冴えてないのか、微妙なところだな。拓斗。
 ま、そこは安心しろ。研究機関の敷地は、帝国の内部だが、不可侵条約が結ばれていて、意味も無く襲うなら、研究機関からの助力はもう受けられないってことになる。ついでに、周りの国から非難される」

 それは、怪人の最大の研究機関と能力者の武器開発の最大の機関を失うことでもあり、周りの国を全て敵に回し、孤立するということにもなる。国防を考えるならば絶対に行えない選択だ。つまり、ルーチェを狙うなら、研究機関に着く前までとなる。
 まだ少し青い顔をした和樹が戻ってくると、早速、新幹線に向かった。途中で買った酔い止めを飲みながら、新幹線を待っていると、遼太が難しい顔で電光掲示板と睨み合っていた。

「和樹さん、大丈夫ですか?」
「平気平気。ピークは過ぎたし、新幹線って、初めて見るし、興奮してるから」

 もはや暗示に近いが、これ以上悪化しないことを祈るだけだ。心配そうに見上げるルーチェの頭を撫でていると、新幹線に興奮する拓斗がルーチェの肩をつかみ、新幹線の方に向き直らせた。

「これが新幹線だぜ! ルーチェ!」
「あ、あんまり近づくと危ないですよ」
「白線の内側に下がれって言われてるだろ」
「内側ってどっちだー! こっちかー!」
「逆です!!」
「怒られたー」

 笑いながらも、しっかりと白線の内側ギリギリに立つ。ギリギリに立っていたため、新幹線がホームに入ってくると、強い風が体に吹きつけられ、よろけそうになるが、拓斗に後ろから抱え込まれるような姿勢だったおかげで、耐え切れずよろけるようなことはなかったが、帽子は飛んでしまった。

「ぁ……」

 慌てて振り返った先に、拓斗の変な声と共に顔面に張り付いている帽子があった。

「ナイスキャッチ」
「さすがスターやることが違う!」
「笑うな!」

 拓斗の姿に大笑いしている和樹と木在に怒鳴り返しながらも、顔から帽子を外し、ルーチェの頭に乗せた。

「地味にバッチが痛てェ……」
「あ、それは白菜さんが、ワンポイントって」
「なんかハクサイにしてやられた感ハンパねェ……!」

 バッチが当たった部分なのか、頬を撫でながら、白菜のしてやったりという顔を想像し、悪態をついていると、ふとスーツの男と目が合う。これだけ騒いでいるのだから、遠巻きに見られることは不思議ではない。拓斗は、笑ってごまかすと、こちらに歩いてくる遼太の方へ顔を向けた。

「何、俺がいないところでおもしろいことになってるんだよ」
「なりたくてなったわけじゃねぇよ!」

 新幹線に乗り込むと、和樹はすぐに寝始め、ルーチェはその隣で心配そうに和樹のことを見ていた。そんな様子を、前の席から顔を出して笑っている拓斗と木在、そして、ルーチェの後ろの席で携帯を操作している遼太。

「なにかあった?」
「研究機関に行く電車が事故で動いてないらしくてな。復旧の見込みは今のところないって話だから、今日泊まる宿を探しておくかと思ってな」

 新幹線が動き出してから、数分。拓斗が探検してくると、どこかに行ってしまった。普段なら、和樹も一緒なのだろうが、生憎、今は眠ってしまっている。

「あいつは元気だなぁ……」

 和樹の眠気に誘われたのか、ルーチェもすっかり眠ってしまっていた。船旅の疲れか、新幹線の妙な静けさからか、遼太も少し眠そうに目をこする。隣の弥も少し船を漕ぎ出している。
 体力のある弥がこうして居眠りをするのは、珍しいことだ。写真でも撮って後でネタにしてようかと、携帯を構えると、通路を挟んだ向こう側の人までもが眠っている姿が画面に入った。普通と言えば、普通かもしれないが、嫌な予感に立ち上がれば、この車両にいる全員が眠っていた。

「マジかよ……」

 異様すぎる光景に、どんどん動きの鈍る頭。遼太の意識も、徐々に眠りの中に落ちていった。
 全員が眠った頃、車両に入ってきたガスマスクをつけた人たちは、五人を抱えると、最後尾に移動させた。

「あと一人、見つかりませんが、どうしましょうか」
「ほっとけ。どの車両にいたところで、今頃、夢の中だ。首都まで送ったら見つけられる訳がない」

 途中駅で、最後尾のみが外され、別の場所へ向かって動き出した。

***

 目が覚めて最初に目に入ったのは、打ちっぱなしのような天井、それにドーム状の何か。そして、監視カメラ。体を起こせば、ドアとその横に小さなドア。手には手錠がかかっていて、あとは何もない。

「はよ」

 あくび混じりに、そのドアの近くで小さなドアを開け閉めしている和樹に声をかければ、笑顔で返された。

「見てくれよ! この小さなところから、牛乳とパンは差し入れてくれるみたい!」
「牛乳とパンだけだと栄養が偏るから、生野菜を付けてくださいってお願いしてくれ。あと喉乾いた。牛乳くれ」
「いや、牢屋だとかそういうのいいわけ?」

 牛乳を飲みながら振り返れば、呆れ顔の木在と弥、それから知らない老人がいた。ルーチェと拓斗はいない。

「寝た時点で、正直死んだと思ったしなぁ……お前ら飲まないのか? ぬるい牛乳ってまずいぜ? 毒なら、もう和樹が毒味してるし、平気だぞ」

 すでに和樹がパンも牛乳も食べ終えていた。なんでも、一度よく寝たら船酔いは治って、お腹がすいていたらしい。
 和樹が物珍しそうに、ドアの近くでいろいろやっている間、三人と老人は丸くなって座り、今の状況を話し合っていた。

「そちらさんは?」
「ここにお住まいの長老だって」
「お邪魔してます」
「いやいや、君らのような若いもんが来るのはひさびさじゃな。何もおもてなしはできんが、ゆっくりしていってくれ」

 すっかり馴染んだ様子で、朗らかに笑っているものの、時折、和樹の様子を鋭い視線で見つめていた。小さな扉を何度も開けたり閉めたりしては、中をのぞき込み何も入ってないことを確認して、がっかりして扉に寄りかかる。この繰り返しだ。

「拓斗とルーチェは?」
「あいつはゾンビになって踊ってても不思議じゃないし、ルーチェは大丈夫だ」
「そっか。ルーチェが生きてるなら良かった」
「まぁ、情報奪ったり届かないようにしたいだけなら、睡眠ガスよりも毒ガスとか、それこそ牛乳これに毒でも仕込めばいい話だしな。あっちも情報が欲しいんだろ」

 では、何故生かしているのかということになるが、メモリーチップには暗証番号が必要で、それはルーチェしか知らない。無理矢理中身を見ようとして、消失する可能性があるなら、脅せば答える可能性が高い子供から聞き出すだろう。そうなれば、情報を引き出すまではルーチェが生きている。
 そして、遼太たちだが、怪人を研究するようなところだ。能力者を研究していてもおかしくはない。能力者の中でも、A級ともなれば全体の一割に満たない程度の人数。そんな貴重なA級能力者を無傷で捕まえておいて、無断で非合法な実験に使い放題ともなれば、これ以上嬉しいこともないだろう。

「で、それをやってる奴は誰なわけ?」
「俺が知るかよ。長老。大家さん知ってますかね?」
「大家のことは知らぬなぁ……わしは大家が雇われてる社長は知っとるんだが」
「じゃあ、仮にロリコン太郎にしておく」
「じゃあさ、この変身ができないのは、ロリコンのせい?」

 実は、この部屋に入れられてからというもの、変身に必要な仮面が作り出せなかった。変身さえしてしまえば、手錠も壁も簡単に壊せてしまえるのだが、変身なしではさすがにできない。

「アレだな」

 そういって指したのは、天井についたドーム状のそれ。

「能力者が犯罪犯した時のための、制御装置だ。変身して逃げられたら、たまったもんじゃないからな。変身できないようにする技術もできてるんだよ」
「セキュリティーバッチリですね。長老」
「そうじゃろ? ジジィだからって狙ってくる奴もおってな」

 それに自分も捕まっているというのに、全く気にしないこの長老はもしかしたら、このチームと似た人間なのかもしれない。しかし、その手に、四人と同じような手錠はかけられていなかった。

「さすが、ロリコン大家」
「ホント、ロリコンの名は伊達じゃないな」
「ロリコンだけど」
「いやーロリコンだからだろ」
「ロリ――」

≪ ロリコンロリコン連呼するんじゃない!! ≫

 部屋いっぱいに怒声が響きわたる。
 その怒声を上げた男はというと、モニターを見ながら、顔を赤くし、席から立ち上がって息を荒らげていた。その後ろには、手足を縛られ怯えた表情のルーチェの姿。
 牢屋の画面には、不思議そうな表情でこちらをみる五人の顔。

「間抜けな顔しやがって……こっちにはガキがいるってこと忘れんじゃねぇぞ」

≪つまり、ロリコンはまだルーチェからパスワードを聞き出してない≫
≪ロリコンなのに女の子の扱いわかってないの?≫
≪君たち。ロリコンだって初めてはあるんじゃよ。飴を上げてれば、許してくれるような子も少なくなったしのぉ≫

「ロリコンと呼ぶな!! 私はロリコンではない!」

 机を叩きつけると、ルーチェが肩を震わせるが、男には怒りでそれも見えていないらしい。

「この小人内等歩しょうにんだいらふをここまで侮辱する奴らは、生まれて初めてだ。お前たちは、超ド級の危険な実験をしてやる!! 生きていることが嫌になるくらいのなァ!!」
「ッやめてっ! お願い……お願い、します」
「ん~~? あぁ。そうか、お前もいたな。そうだ! お前の護衛のあいつらが、どんなふうになるか見てろよ。おもしろいぞ」

 両目いっぱいに涙を浮かべたルーチェを、気分良さげに見下ろしていると、また監視カメラが音声を拾った。今度は、先程までの挑発ではない声だ。

≪小人内って、あの若くして帝国直属の研究機関の一角を任されたっていう!?≫

「なんだ。知ってる奴もいたのか。ほぉ……確かに、お前は一番頭がよさそうだったな」

 画面の中で、知っているのかと驚いている木在たちに、遼太は大きく頷いた。異例の若さで帝国直属の研究機関の一角を任され、功績もある。自身の頭の良さを自負していた。

≪でも、意外だな。あんまりヴェーベに本土のそういう情報流れてこないじゃん≫
≪昔、ボードゲーム大会の優勝者とゲストマッチで、招待されたことがあってな。その時に、優勝者に勝ったって話題になったんだよ。俺もその時、大会に出てたから、近くで見ててさ、すっげーの!≫

「ほぉ……あの時の勝負を見ていたのか。君はまだ初等教育時期くらいだろう? 私の素晴らしさをわかるとは、少しは見どころがあるな」

 褒められてか、少し機嫌良く笑う小人内に、遼太も興奮したように大きな声で語りかける。

≪私もいつか研究に携わりたいと思っておりまして、小人内さんの研究の足しになるなら……! あ、そうだ! この湊は、能力者の中でも珍しい全属性使いなんです!≫

「何ィ!? 全属性使い!?」

 小人内が驚くのも無理なかった。能力者は、大抵一から二種の属性を持っており、それ以上持っている人もいるが、複数の属性を使えても、実戦に使えるレベルとなれば少なくなり、三属性もあれば珍しい部類に入る。
 それが全属性ともなれば過去の記録を振り返ったところで、両手あれば十分足りてしまう人数しかいない。相当、貴重な存在だった。

「そ、そうか。なら、まずは奴のDNAを調べなければ……」

 なにやら忙しなさそうにブツブツと呟きだすと、準備を始めた小人内にはすでに監視カメラの映像もルーチェも見えていないらしい。

「これじゃあ、また……」

 涙で霞む視界の中で、みんなで集まっている様子だけが見えた。

***

 和樹が戻ってくると、全員が円になるように座り込む。

「正確に言うと、全属性じゃない」
「いいんだよ。んなこまけぇこと」

 先程は興味を引くように、ワザと弥のことを全属性使いと言ったが、正確には弥は全属性使いではなかった。確かに擬似的に、すべての属性を同威力で戦いに用いることができるため、全属性といえば全属性ではあるが、正確な属性は付加属性というものだった。
 それもそれで十分珍しい属性ではあり、自分に合わない属性は体にフィードバックがあるものだが、それもほとんどないという意味で珍しいことではあるが、全属性使いの珍しさには負ける。
 加えて、付加属性は消耗品である結晶を必要とする場合が多く、それが無くなると、誰かの補助を受けなければ属性攻撃ができなくなるという、なかなか難しい能力でもあった。

「で、和樹。見張りは?」
「外に一人いるけど、結構遠く。たぶん、ここ地下じゃないかな? 他の音も聞こえないし」

 和樹の言う情報を元に、おおよその地図を頭に描いていく。そして、一度頷くと、長老に向き直る。

「アンタはどうする? 俺たちは、明日にはもう出てくけど」
「ほぉ……この状況で出ていくとな?」
「外まではついてこられれば出られるけど、そっからは知らないぜ?」
「その自信……よし、乗った。わしも一緒に行こうかの。しかし、良いのか? ルーチェとかいう女の子を助けんでも」

 逃げたと知れたら、どうなることか。木在と和樹も心配そうに遼太をみるが、しかし、遼太は口端を上げた。

「任せろって」
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