世界に色を付ける系アイドル始めました

ツヅラ

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1話 アイドル家出します

04

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 悲鳴のする方へ目をやれば、魔力を持った化け物”怪魔”に子供が襲われていた。
 強い部類の怪魔ではなさそうだが、魔力を持っている分、ただの動物よりも危険であり、夕方の駅前公園という大人の多い場所でも、子供を助けようとする人はいなかった。

「助けて……!!」

 泣いて助けを求めたところで、大人たちは青い表情で遠巻きに見つめる。
 警察は呼んだか?
 魔法士はいないのか?
 なんて、他人頼りの言葉ばかりが辺りを満たす。

「いや、いやァ!!」

 泣いて助けを求める子供を見捨てる。

「誰か……! 助けっ……!」

 彩花のように、多少魔力を持っている魔法使いであっても、怪魔と呼ばれる攻撃性の高い魔物は危険だ。魔法士の学校ですら、まず逃げるように教わるのだから。
 だから、魔力を持たない一般人なら尚更、その選択は正しい。

「ッッ」

 正しいんだ。

「だぁぁぁっ!!!」

 だからと言って、子供を見殺しにしていいはずがない。

 全身を使ってスーツケースを振りかぶり、怪魔を殴る。
 効果があるかどうかなんて知らない。とにかく注意を引いて、子供を逃がす。

「大丈夫!?」

 スーツケースの中身が勢いよく飛び出す音を聞きながら、急いで子供に駆け寄る。
 怯んではくれたが、きっと怪魔はすぐに攻撃されたことに気が付き、襲ってくる。
 急いでこの場を離れなければと、子供の助け起こせば、泣いていた子供は、目を輝かせていた。

「彩花ちゃん? わたしのこと、助けにきてくれたの?」

 ”魔法少女”
 それは、アイドルのジャンルであり、怖い怪魔と戦う強くてかわいい魔法使い。
 大人にとっては”ヤラセ”とわかっている戦いであっても、子供のとってそれは事実で、彩花は魔法少女あこがれだった。

「……そうだよ。貴方を助けに来たんだ」

 テレビの中のように怪魔を倒すことができないなんてことは、自分が一番わかっている。
 それでも、彼女を勇気づけることができるならと、精いっぱいの笑顔を見せた。

「さぁ、ここは危ないから逃げて!」

 ありきたりでセリフで、彼女の想像する”強くてかわいい魔法少女”を演じる。
 ここにいる誰よりも、自分が彼女を救えるのだと鼓舞して。

「ちょっと、あれってマズくない?」

 少女が嬉しそうに走って離れる音と共に、背後から聞こえる怪魔の迫る音。
 ”魔法少女”であろうとした瞬間から、この場から逃げることはできない。

「大丈夫だって。幸延彩花って、あの幸延家の魔法使いだからさ。ちゃんと戦える系魔法少女って聞いたし。絶対バズるって」

 呆れてしまうような野次馬の言葉に、ちくりと胸が痛む。
 野次馬の望む魔法少女に一番憧れているのは自分だ。

 かわいくて、ちゃんと怪魔と戦える強い魔法少女に、もし、もしなれたのなら、父さんも母さんも、私をのことを見てくれたのかな。
 認めてくれたのかな……?

 でも、現実は理想よりずっとかけ離れていた。

「――――」

 腕を振り上げる怪魔に、ついため息をつきそうになったその時、強い風が吹いた。
 あまりに強い風圧に尻餅をついてしまえば、目の前には先程までなかったはずの小さなクレーター。

「ンだよ……つまらねェ……」

 振り下ろした槍を肩に担ぎながら、食い足りないとばかりに周りに目をやる赫田の迫力に、撮影をしていた野次馬たちも小さく悲鳴を上げる。

「赫田……」
「ア゛? あぁ、テメェか。何してんだ」
「何って……気づかないで助けてくれたってこと? そう、だったんだ……とにかく、助かった。ありがとう」

 お礼を言えば、赫田は不思議そうな表情をしていたが、周りに怪魔がいないことを確認すると、槍を仕舞い、遠巻きにこちらにカメラを向けている人へめんどくさそうに目を向ける。
 自分はともかく、一般人である赫田が撮られるのは良くないと、止めるために立ち上がれば、下から聞こえる声に目をやる。

「中身、散らばってるけど大丈夫?」
「灯里……!? って、あ゛!」

 いつの間にか、先程の衝撃で中身が飛び散っているスーツケースの傍に座っている灯里に、慌てて駆け寄り、中身を仕舞う。
 ノートパソコンなどは固定していたから問題なさそうだが、適当に詰め込んだ衣服の類が、飛び散っていた。つまり、色々と人に見られたくない物も散らばっていて、慌てて回収しては、スーツケースを閉めた。

「旅行……?」
「あ、いや、その……」

 確かに、スーツケースの中身は小旅行にいくような内容だ。
 ただ明日から新学期というこのタイミングに持っているのは、おかしな内容。

「家出、しちゃって……」

 ぽろりと溢した言葉に、恥ずかしくなる。
 高校生にもなって、兄と喧嘩して、勢いで家出するなんて、子供みたいじゃないか。

「家出?」

 不思議そうに首を傾げる灯里に尚更、胸が締め付けられるような気がして、スーツケースを閉める手に力が入る。

「ちがっ――」
「じゃあ、ウチくる?」
「…………へ?」

 意外な言葉に、つい声を漏らしてしまえば、灯里は顔を上に向けて、赫田を見上げていた。

「部屋結構空いてたみたいだし、ダメかな?」
「寮だぞ。手続きどうすんだよ」
「でも、家出だったら、別に部屋借りるわけじゃないし、いいんじゃない? ダメなら、おじさん洗脳すればいいし」
「い、いいの? というか、寮暮らしだったの?」

 色々気になる言葉はあったものの、どうにか聞き返せた言葉に、灯里は首を傾げながら頷く。
 赫田は、すでに諦めたように小さく息を吐いている。

「じゃあ、とっとと帰ろうぜ。周りがうぜェ」

 相変わらず、周りはこちらのことを伺っていて、撮影しようとしている野次馬を警察が止めに入っているようだ。
 そんな中、助けた少女が目を輝かせているのが見えて、少しだけ手を振った。
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