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8話 ライブをする理由
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休憩中に、自販機で飲み物を買っていれば、ふと聞こえた足音に意識が集中してしまう。
関係者しか入れないビルの中で、灯里もいつものように魔法で守ってくれていることは知っているとはいえ、近頃は物騒なことが多すぎて、過敏にもなる。
それでも、明らかに警戒されたら、向こうも気にするだろうし、できる限り自然体に見えるように努力しておく。
角の向こうから、小さく音を立てて、一定のリズムで近づいてくる足音。
その音は、どこか父や兄の足音に似ていて、ついその足音のする方へ目をやってしまう。
「…………」
現れたその影は、明らかに鍛えた体をしていて、すぐに彩花の姿を捕らえ、足を止めた。
そして、一言、
「久しぶりだな」
そう言って笑った。
「――――あ! 灯里のお父さん!?」
言われて、フラッシュバックのように脳裏に浮かんだのは、白墨事件の記憶。
当時より、随分と体は鍛えられているが、そこはさすがに大人だからか、顔は大きく変わった様子はない。
「いや、灯里のオヤジじゃない。叔父だ。そういえば、あの時は名乗らなかったな。嵜沼だ」
嵜沼は、東京を拠点に各地を飛び回っているらしく、あの日は遊びに来ていた灯里と赫田の面倒を見ていたらしい。
「報告では聞いていたが、元気そうでよかった」
「おかげさまで。そういえば、魔法士の方でしたよね」
「いや、俺は魔法が使えなくてな。一応、警察の方だ」
妙に歯切れの悪い言い方に、彩花が首をかしげていれば、中々戻ってこない彩花を気にしてから、小林が呼びに来て、嵜沼の姿に驚いていた。
「先輩だよ。僕が彩花ちゃんのマネージャーにつく少し前だったかな? 急に異動になってね」
「色々あるんだよ」
「今は警察なんです? それとも、民間?」
「警察だよ。それより、灯里知らないか? 話があってな」
「灯里ならレッスン場にいますよ。呼んできますね」
彩花が灯里を呼んでくれば、少し感心した様子で灯里を見た。
「本当に、ヒロの奴いないんだな。ちゃんと寮に帰れるか?」
「彩花ちゃんいるから大丈夫だよ」
皮肉というには、本当に心配している様子の見える嵜沼の言葉に、彩花もまさかと思ったが、当たり前のように返した灯里に嵜沼は頭に手をやった。
「迷惑をかける」
「いえ、大丈夫です。それに、さすがに灯里だって、そろそろ寮の場所くらい――――」
言葉の途中で、明後日の方向へ目をやる灯里と、その灯里へやる視線が冷たい嵜沼に、続けていた言葉が尻すぼみになる。
ここ最近は毎日のように通っているし、ちょっと抜けているところがあるとはいえ、バカではないはず。寮の場所くらい、ちゃんと覚えているはず。
「乗り換えが無ければ大丈夫」
「帰りはヒロ呼ぶか……」
「どっかいくの?」
「魔法管理局。一度、顔出してくれだと」
魔法管理局という言葉に、小林も彩花も驚いたように声を上げるが、ブリリアントカラーライブには魔法士も関わっている。
Sランクである灯里が参加するというなら、一度顔を合わせておきたいということもあるのだろう。
「あ、あの……! 私が着いていきます」
赫田は、他の場所で護衛の仕事をしているはずだ。詳しい時間までは覚えていないが、遅くなると言っていたはずだ。
その後、灯里の迎えに行かせるのは、さすがに悪い。
この後、予定はないし、自分がついていくと提案すれば、嵜沼と小林は少し微妙な表情をしたが、頷いてくれた。
*****
魔法管理局。
実際に入ったことはないが、父の職場であることや兄たちが出入りしているため、話には聞いたことがある。
ここで働く魔法士は、Bランク以上。しかも、東京の拠点を任されるのは、実績を持っている魔法士だけ。
「少し殺気立ってるが、気にしないでくれ。ブリカラやら国際会議やら色々あるんだ」
なにもブリリアントカラーライブだけが魔法士の仕事ではない。
要人の護衛も大切な仕事だ。
日本は比較的安全な国の位置づけではあるが、それでも危険は伴う。むしろ、一度でも何かが起きてしまったら、”比較的安全な国”というレッテルが剝がれてしまうため、いつも警備には細心の注意が必要だった。
「そういえば、顔出すって、何するの?」
「あぁ、魔法機器をメンテナンスしておきたいらしい」
”魔法機器”
魔法を使うための補助器具であり、使用しなくても魔法を使うことはできるが、魔力のロスが大きかったり、魔法の術式を短縮できたりなど、魔法を使うなら使うことが推奨される機器。
形は様々で、日常的な使用目的なら、杖やペンの形が人気がある。
魔法士などの戦闘目的に使用する場合は、実際の武器を模していることが多く、武器そのものに使用頻度の高い魔法の術式が組み込まれているなどのカスタムが行われている。
魔法少女のライブでは、かわいらしいマジカルステッキやマイクが、魔法機器に辺り、ライブの演出に使われている。
他にも、コラボ商品として魔法機器が発売されることも多く、今回のブリリアントカラーライブコラボのペン型の魔法機器が販売されていた。
しかし、彩花の記憶では、灯里が魔法機器を使っているのを見たことがない。武器はもちろん、ペンも見たことはない。
「一応、最近はつけてるよ」
彩花の視線に気が付いたのか、灯里が見せてきたのは、右手につけられたシルバーのシンプルなブレスレット。
確かに、ここ最近はつけているのを見た気がするが、やはりあまりつけている印象がない。
「………………だって、コラボの壊れたイヤじゃん」
「普通のは?」
「…………忘れる」
嵜沼と小林が、言葉なく呆れた空気を感じた。
Sランクともなれば、魔力のロスなど小さなことなのだろう。戦闘も普通にこなしていたし。
むしろ、せっかく買ったコラボ商品が壊れる方が問題らしい。
関係者しか入れないビルの中で、灯里もいつものように魔法で守ってくれていることは知っているとはいえ、近頃は物騒なことが多すぎて、過敏にもなる。
それでも、明らかに警戒されたら、向こうも気にするだろうし、できる限り自然体に見えるように努力しておく。
角の向こうから、小さく音を立てて、一定のリズムで近づいてくる足音。
その音は、どこか父や兄の足音に似ていて、ついその足音のする方へ目をやってしまう。
「…………」
現れたその影は、明らかに鍛えた体をしていて、すぐに彩花の姿を捕らえ、足を止めた。
そして、一言、
「久しぶりだな」
そう言って笑った。
「――――あ! 灯里のお父さん!?」
言われて、フラッシュバックのように脳裏に浮かんだのは、白墨事件の記憶。
当時より、随分と体は鍛えられているが、そこはさすがに大人だからか、顔は大きく変わった様子はない。
「いや、灯里のオヤジじゃない。叔父だ。そういえば、あの時は名乗らなかったな。嵜沼だ」
嵜沼は、東京を拠点に各地を飛び回っているらしく、あの日は遊びに来ていた灯里と赫田の面倒を見ていたらしい。
「報告では聞いていたが、元気そうでよかった」
「おかげさまで。そういえば、魔法士の方でしたよね」
「いや、俺は魔法が使えなくてな。一応、警察の方だ」
妙に歯切れの悪い言い方に、彩花が首をかしげていれば、中々戻ってこない彩花を気にしてから、小林が呼びに来て、嵜沼の姿に驚いていた。
「先輩だよ。僕が彩花ちゃんのマネージャーにつく少し前だったかな? 急に異動になってね」
「色々あるんだよ」
「今は警察なんです? それとも、民間?」
「警察だよ。それより、灯里知らないか? 話があってな」
「灯里ならレッスン場にいますよ。呼んできますね」
彩花が灯里を呼んでくれば、少し感心した様子で灯里を見た。
「本当に、ヒロの奴いないんだな。ちゃんと寮に帰れるか?」
「彩花ちゃんいるから大丈夫だよ」
皮肉というには、本当に心配している様子の見える嵜沼の言葉に、彩花もまさかと思ったが、当たり前のように返した灯里に嵜沼は頭に手をやった。
「迷惑をかける」
「いえ、大丈夫です。それに、さすがに灯里だって、そろそろ寮の場所くらい――――」
言葉の途中で、明後日の方向へ目をやる灯里と、その灯里へやる視線が冷たい嵜沼に、続けていた言葉が尻すぼみになる。
ここ最近は毎日のように通っているし、ちょっと抜けているところがあるとはいえ、バカではないはず。寮の場所くらい、ちゃんと覚えているはず。
「乗り換えが無ければ大丈夫」
「帰りはヒロ呼ぶか……」
「どっかいくの?」
「魔法管理局。一度、顔出してくれだと」
魔法管理局という言葉に、小林も彩花も驚いたように声を上げるが、ブリリアントカラーライブには魔法士も関わっている。
Sランクである灯里が参加するというなら、一度顔を合わせておきたいということもあるのだろう。
「あ、あの……! 私が着いていきます」
赫田は、他の場所で護衛の仕事をしているはずだ。詳しい時間までは覚えていないが、遅くなると言っていたはずだ。
その後、灯里の迎えに行かせるのは、さすがに悪い。
この後、予定はないし、自分がついていくと提案すれば、嵜沼と小林は少し微妙な表情をしたが、頷いてくれた。
*****
魔法管理局。
実際に入ったことはないが、父の職場であることや兄たちが出入りしているため、話には聞いたことがある。
ここで働く魔法士は、Bランク以上。しかも、東京の拠点を任されるのは、実績を持っている魔法士だけ。
「少し殺気立ってるが、気にしないでくれ。ブリカラやら国際会議やら色々あるんだ」
なにもブリリアントカラーライブだけが魔法士の仕事ではない。
要人の護衛も大切な仕事だ。
日本は比較的安全な国の位置づけではあるが、それでも危険は伴う。むしろ、一度でも何かが起きてしまったら、”比較的安全な国”というレッテルが剝がれてしまうため、いつも警備には細心の注意が必要だった。
「そういえば、顔出すって、何するの?」
「あぁ、魔法機器をメンテナンスしておきたいらしい」
”魔法機器”
魔法を使うための補助器具であり、使用しなくても魔法を使うことはできるが、魔力のロスが大きかったり、魔法の術式を短縮できたりなど、魔法を使うなら使うことが推奨される機器。
形は様々で、日常的な使用目的なら、杖やペンの形が人気がある。
魔法士などの戦闘目的に使用する場合は、実際の武器を模していることが多く、武器そのものに使用頻度の高い魔法の術式が組み込まれているなどのカスタムが行われている。
魔法少女のライブでは、かわいらしいマジカルステッキやマイクが、魔法機器に辺り、ライブの演出に使われている。
他にも、コラボ商品として魔法機器が発売されることも多く、今回のブリリアントカラーライブコラボのペン型の魔法機器が販売されていた。
しかし、彩花の記憶では、灯里が魔法機器を使っているのを見たことがない。武器はもちろん、ペンも見たことはない。
「一応、最近はつけてるよ」
彩花の視線に気が付いたのか、灯里が見せてきたのは、右手につけられたシルバーのシンプルなブレスレット。
確かに、ここ最近はつけているのを見た気がするが、やはりあまりつけている印象がない。
「………………だって、コラボの壊れたイヤじゃん」
「普通のは?」
「…………忘れる」
嵜沼と小林が、言葉なく呆れた空気を感じた。
Sランクともなれば、魔力のロスなど小さなことなのだろう。戦闘も普通にこなしていたし。
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