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第一部 新しい居場所
危機
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「っ……!」
目が覚めると全身に痛みが襲いかかってきた。
後ろ手と足を強く縛られ、猿ぐつわを噛まされていたシュウはうめき声を上げることも、悶えることも許されず、必死にその痛みに耐えること、それだけが許されていた。
痛みに耐え続け、その痛みに幾分か慣れたシュウは状況を確認しようと目を開けるが、視界は真っ暗だった。そこで初めて自身が目隠しされていることに気づく。
視界がダメなら音はどうかと耳を澄ますが、その音ですらほとんど聞き取ることはできなかった。
(これは……、鼓膜まで破られているな)
次に匂いならどうかと嗅覚を研ぎ澄ます。すると、ジメジメとした木の臭いと錆びた鉄の臭さに侵され、鼻を押さえたくなった。
(くそ、今はどういう状況だ……! 臭いだけだとよく分からん)
シュウは舌打ちをうちたくなったがそれも叶わない。時間がどのくらい経ったのかすら把握できない。
同じ体勢でずっといるのもつらくなり、少しでも体勢を変えようと体を動かした、そのとき――――
ガシャリと音が鳴り、シュウの首元を締め付けた。
(首輪までつけるとは用意周到なことだな……!)
顔が苦渋に染まる。
それから何もできずに時間は無情にも過ぎていった。
体力を、血を少しでも減らさないために体を動かさず、じっと耐えた。しかし、体はどんどん寒くなるばかり。強く縛られ過ぎて血の気が四肢から引いていっているのが分かる。ただでさえ、誘拐される前にいたぶられたのだ。状況を見るにろくな治療を受けられていないのだろう。
意識が途絶えようとまぶたが落ちかける。それでも今閉じたら死ぬと分かっていたシュウは意識を保とうと体を少し動かそうと試みる。だがその直後――みぞおちに強い衝撃が走った。
痛みで顔が歪むが、頬にぬくもりが触れ、シュウの顔は少しばかり穏やかになった。
犯人だろうにどうかしていると分かってはいたが、暗闇にずっといたため、そのぬくもりはシュウの心に一時的にでも安息をもたらした。本当に一時的だったが……
「やっと目を覚ましましたか」
誰のせいだと思っているのか。他人事のように話す犯人にシュウは苛立ちをつのらせた。
「好きでしたよ。でも、あなたはいらないの。ふさわしくない。だから、たくさん苦しんで?」
耳に吐息がかかる。
声が聞き取りづらくても耳元で言われればその言葉は嫌でも伝わる。ぬくもりの主はどうやら、相当俺のことが嫌いならしい。きっと、声音からして笑っているのだろう。
シュウは犯人の思うつぼにはさせないと気丈に振る舞った。ここで涙や苦しむ顔を見せれば犯人を喜ばせるだけだ。
犯人はそんなシュウが気に食わないのか、シュウの首を拘束している鎖の末尾を壁から外し、自分の手に収めると思いっきり鎖を引っ張った。
「――っ!!」
体が引きずられ、首が締め付けられる。咳き込みたいのに猿ぐつわでそれは叶わず、呼吸困難に陥った。
犯人はそんなシュウを気遣うはずもなく、追い打ちをかけるように鎖を上に持ち上げ、前髪を強く掴んだ。強制的に顔が上へと向かせられる。
「やっと、見れる顔になった。そうそう、それでいいの。もっと苦しんで。命乞いでもして。――ああでも今話せないんだよね?」
耳元で聞こえたかと思えば、その近くでガシャリと床に鎖が叩きつけられる音が響き渡った。
何のつもりかと眉をひそめるのとほぼ同時。脇腹に強い衝撃が走る。
明らかに先ほどのみぞおちの比にならない威力にシュウは気絶しかけるが、そうさせないと上から水が注がれる。
すでにシュウは瀕死だった。息を上手く吸うこともできず、意識は朦朧としている。
「もう迎えが来たのかも知れない。外が騒がしい。○□△、外見てきて?」
犯人の焦るような言葉でシュウの意識が一気に覚醒する。だがその希望はすぐに絶望へと叩き落とされる。
「あははは。嘘だよ。今、安心した? 希望を持った? でも残念だったね。きっと誰もあなたのことなんて探してないよ。無能力者なんて誰からも必要とされるわけない。きっと王も王妃もシュウ王子が死んだら泣いて喜ぶだろうね?」
一番気にしている事を言われ、シュウの心に罅が入る。意識が途絶えようとする中で、最後に見たのはユースティアの後ろ姿だった。
「気絶しちゃったみたい。少しだけ治療してくれる、○□△? まだ、メインディッシュが残っているんだから」
相手の返事を待たずして犯人は愉快そうに鼻歌を歌いながら、この場を後にした。
目が覚めると全身に痛みが襲いかかってきた。
後ろ手と足を強く縛られ、猿ぐつわを噛まされていたシュウはうめき声を上げることも、悶えることも許されず、必死にその痛みに耐えること、それだけが許されていた。
痛みに耐え続け、その痛みに幾分か慣れたシュウは状況を確認しようと目を開けるが、視界は真っ暗だった。そこで初めて自身が目隠しされていることに気づく。
視界がダメなら音はどうかと耳を澄ますが、その音ですらほとんど聞き取ることはできなかった。
(これは……、鼓膜まで破られているな)
次に匂いならどうかと嗅覚を研ぎ澄ます。すると、ジメジメとした木の臭いと錆びた鉄の臭さに侵され、鼻を押さえたくなった。
(くそ、今はどういう状況だ……! 臭いだけだとよく分からん)
シュウは舌打ちをうちたくなったがそれも叶わない。時間がどのくらい経ったのかすら把握できない。
同じ体勢でずっといるのもつらくなり、少しでも体勢を変えようと体を動かした、そのとき――――
ガシャリと音が鳴り、シュウの首元を締め付けた。
(首輪までつけるとは用意周到なことだな……!)
顔が苦渋に染まる。
それから何もできずに時間は無情にも過ぎていった。
体力を、血を少しでも減らさないために体を動かさず、じっと耐えた。しかし、体はどんどん寒くなるばかり。強く縛られ過ぎて血の気が四肢から引いていっているのが分かる。ただでさえ、誘拐される前にいたぶられたのだ。状況を見るにろくな治療を受けられていないのだろう。
意識が途絶えようとまぶたが落ちかける。それでも今閉じたら死ぬと分かっていたシュウは意識を保とうと体を少し動かそうと試みる。だがその直後――みぞおちに強い衝撃が走った。
痛みで顔が歪むが、頬にぬくもりが触れ、シュウの顔は少しばかり穏やかになった。
犯人だろうにどうかしていると分かってはいたが、暗闇にずっといたため、そのぬくもりはシュウの心に一時的にでも安息をもたらした。本当に一時的だったが……
「やっと目を覚ましましたか」
誰のせいだと思っているのか。他人事のように話す犯人にシュウは苛立ちをつのらせた。
「好きでしたよ。でも、あなたはいらないの。ふさわしくない。だから、たくさん苦しんで?」
耳に吐息がかかる。
声が聞き取りづらくても耳元で言われればその言葉は嫌でも伝わる。ぬくもりの主はどうやら、相当俺のことが嫌いならしい。きっと、声音からして笑っているのだろう。
シュウは犯人の思うつぼにはさせないと気丈に振る舞った。ここで涙や苦しむ顔を見せれば犯人を喜ばせるだけだ。
犯人はそんなシュウが気に食わないのか、シュウの首を拘束している鎖の末尾を壁から外し、自分の手に収めると思いっきり鎖を引っ張った。
「――っ!!」
体が引きずられ、首が締め付けられる。咳き込みたいのに猿ぐつわでそれは叶わず、呼吸困難に陥った。
犯人はそんなシュウを気遣うはずもなく、追い打ちをかけるように鎖を上に持ち上げ、前髪を強く掴んだ。強制的に顔が上へと向かせられる。
「やっと、見れる顔になった。そうそう、それでいいの。もっと苦しんで。命乞いでもして。――ああでも今話せないんだよね?」
耳元で聞こえたかと思えば、その近くでガシャリと床に鎖が叩きつけられる音が響き渡った。
何のつもりかと眉をひそめるのとほぼ同時。脇腹に強い衝撃が走る。
明らかに先ほどのみぞおちの比にならない威力にシュウは気絶しかけるが、そうさせないと上から水が注がれる。
すでにシュウは瀕死だった。息を上手く吸うこともできず、意識は朦朧としている。
「もう迎えが来たのかも知れない。外が騒がしい。○□△、外見てきて?」
犯人の焦るような言葉でシュウの意識が一気に覚醒する。だがその希望はすぐに絶望へと叩き落とされる。
「あははは。嘘だよ。今、安心した? 希望を持った? でも残念だったね。きっと誰もあなたのことなんて探してないよ。無能力者なんて誰からも必要とされるわけない。きっと王も王妃もシュウ王子が死んだら泣いて喜ぶだろうね?」
一番気にしている事を言われ、シュウの心に罅が入る。意識が途絶えようとする中で、最後に見たのはユースティアの後ろ姿だった。
「気絶しちゃったみたい。少しだけ治療してくれる、○□△? まだ、メインディッシュが残っているんだから」
相手の返事を待たずして犯人は愉快そうに鼻歌を歌いながら、この場を後にした。
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