私にかまわないでください

雨夜澪良

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第一部 新しい居場所

妖精召喚

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「妖精召喚に関する本ね。確かこの辺りだったかな……」

 ユースティアとネロの二人は階段を上り、最上階の本棚の前までたどり着いていた。

「こんな上にあったのか……」

 ネロは一冊の古びた本を手に取ると、目をぱちくりさせているユースティアに手渡した。

「これだけじゃあ、召喚できない。魔法陣を描かないとね」

「魔法陣?」

「……もしかして見たことない?」

「うん」

 今度はネロがユースティアの無知さに驚きを呈する。

 魔法陣は魔法を学ぶ上で始めに習うものだ。魔法陣を描いて魔法を発動させることで、自分の魔力を認識する。つまり、自分の魔力を認識するための始めの儀式とも呼べる。
 魔力量が多く生まれた人はそんなことをしなくても魔力をはじめから認識しているが、魔法を学ぶ上で一度は習うものだ。それを知らないと言うことは……

「魔法、学んだことはある?」

「ないよ?」

 ネロは首をかしげた。ユースティアもつられて首をかしげる。

「でも、魔法使ってるよね?」

 そこがネロには引っかかっていた。魔法を使えるのに魔法を学んだことがない。
 ネロはユースティアを試すようにユースティアが己にかけている魔法を、なんの魔法の気配も感じさせずに解除する。
 すると、本がドサリと床に落ち、口元を押さえた。そして、全身の力が抜けたように床にだらりと座り込んだ。

「…………えっ……?」

 誰が呟いた言葉なのか分からなかった。
 目の前の光景にネロは唖然とする。

 まさか、こんなことになるとは思っていなかった。使っているのは身体強化ぐらいだと思っていたのだから。ただ、魔法を使っている自覚がないのかも知れないと思っただけだった。魔法を解除すれば、魔法を使っていることを自覚するのではないかと。

 ユースティアはすぐさま、魔法をかけ直す。アランのおかげで傷の悪化は防げていたが、それまでだった。傷が治ったわけじゃない。
 息を荒らしながら、魔法をかけ終えると、ネロを現実に引き戻すように裾を引っ張った。

「ネロ……?」

 呆然としていたネロだったが、ユースティアの声ではっとする。

「いきなり解除してごめん。勘違いしてた」

「?」

 ユースティアはネロの言っていることがよく分からなかった。だがこれ以上このことについて話す雰囲気ではないことは分かり、口を閉じた。

「下に下りて魔法陣を描こうか。魔法を使えるユースティアならきっとこの魔法陣は簡単さ」

 ネロは床に落ちた本を掴むと、階段を下りていった。ユースティアもネロの後に続いて階段を下りていく。



 ネロに教わりながら、初めての魔法陣を描き終えたユースティアは、最後の仕上げに己の指に針を突き刺し垂らした。
 魔法陣が発光し、風が巻き上がる。
 ユースティアは腕でそのまぶしさを緩和させながらも魔法陣をじっと見続けた。
 発光と風が収まり始める。

 ユースティアは腕をどかし、魔法陣内にいる妖精と目を合わせた。

「あなたが私を呼んだの~?」

 ユースティアは初めて妖精を目の辺りにし、咄嗟に言葉が出てこなかった。

(妖精ってもっと小さいかと思ってた)

 目の前にいる妖精はユースティアよりも大きく、もっと言えば大人の女性ぐらいの大きさはある。

 目の前の妖精は緑色の長髪を揺らしながら、反応のないユースティアの顔を覗きこんだ。

「大丈夫~?」

「大丈夫」

「それならよかった~」

 妖精はほっと胸をなで下ろすと、微笑みながらそうユースティアに言う。

「私、エアリエルって言うんだ。よろしくね?」

「――待って。君は…………」

 後ろにいたネロがユースティアの「よろしく」という言葉を発する前に待ったをかける。ユースティアは後ろを振り向き、どうしたんだろうといった顔でネロを見つめた。

 そのタイミングを見てか、エアリエルと名乗った妖精は口元に手を当てた。

(しゃべるなってことか……)

「何か言おうと思ったけど、何を言おうとしたのか忘れちゃった」

「そうなんだ?」

 ユースティアはそんなときもあると納得し、再び妖精の方を向いた。

「エアリエル、シュウを探して欲しいの。もし見つけられたら良いもの見せてあげる。お願いできる?」

「良いものってな~に?」

「それは本当に見つけられてからのお楽しみ」

「いいよ。探してあげる。シュウって人がどんな人か教えてくれる?」

 ユースティアは自分の知っているシュウについての情報をエアリエルに提供する。
 エアリエルは頷きながら、ユースティアの話を聞いていく。ネロは一人、後ろでその様子を見守っていた。

 話を聞き終えたエアリエルはしばしの間、目をつぶり考え込んでいるような仕草を取っていたが、

「――――見つけた」

 目をゆっくりと開けた。

「本当!」

 ユースティアは朗報にぱあっと目を輝かせた。

「よかったね、ユースティア」

「うん」

 ネロに肩をつかまれながら、ユースティアはうれしそうに頷いた。

「エアリエル、シュウはどこにいるの?」

「本当に教えていいのかな……」

「どういうこと?」

 煮え切らないように話すエアリエル。ユースティアとは異なり、エアリエルは少し暗い表情をしていた。

「なんか、息しているのかよく分かんないんだよね。ボロボロだし……」

「エアリエル、急いで連れて行って!!」

 ユースティアはエアリエルの肩をつかみ、案内するようにお願いする。

「分かった。しっかりついてきてね」

 こうして三人は書庫を後にし、シュウのいる場所へと向かった。

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