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実力差
しおりを挟む「っ!? なんだ!? ぷべっ!」
パラパラと石や硝子が崩れ落ちる音、そして太陽の光を瞼越しに感じた私は、ゆっくりと目を開ける。
たくさんの光が入ってきたのは、建物の壁が壊されたからだった。小窓があった位置に大きな穴が空いている。
そして、目の前にいたはずのサイラスの姿は何処かへと消えており、その代わりに私の前に背を向けながら立っている人がいた。顔は見えなかったけど、私にはわかる。
だってその後ろ姿は、何度も何度も見てきたものだったから。
「……リック?」
「すまないアイリス。――遅くなった」
息を切らした様子のリックは、横目で私の様子を確認すると、正面へ向き直る。
「――俺は自警団の者だ。これはお前らの仕業だな? 女性一人に寄ってたかって……暴行の現行犯だ、全員牢屋にぶち込んでやるから覚悟しろ」
「はぁ!? なんだお前は! 自警団だかなんだか知らねえが、一人で俺たちの前に立つとは、いい度胸だな!」
リックの派手な登場にざわつき始める男たち。
逆に私はリックの姿を見て、安心したのか若干落ち着きを取り戻してきた。
「この時間、この場所には自警団の巡回は無いことは調査済みだというのに……まったく、余計な手間をかけさせてくれるぜ」
「……おい、待て。自警団の中には恐ろしく強い野郎がいるって話だ。そいつは人を殺すことを何とも思ってないような醜悪な目付きをしているという。その目……まさか、お前があの『狂犬』なのか……?」
「『狂犬』!? ってぇと物凄い暴れっぷりで、単独にも関わらずいくつもの組織を潰してきたっていう、あの『狂犬』か!? ……おい、本物だとしたらヤバいんじゃねぇか!?」
「――お喋りはそこまでだ。俺が誰であろうとお前らの罪は変わらねぇよ」
リックってば有名人なの? 『きょうけん』ってなんだろう……? 強い剣?
そんなことを考えていたら、遠くで物音がした。
何だろうと不思議に思ってその方向を見ると、サイラスが瓦礫の中から立ち上がっていた。どうやらリックに吹っ飛ばされてたらしい。
「貴様……! よくも僕の美しい顔に傷を……! どうやってここを嗅ぎ付けたかは知らないが、僕ら宵闇の騎士団の邪魔をしたことを後悔させてやる……! おい、お前たち何をしている! 相手はたった一人だ、さっさと片付けてこい!」
「いや、サイラスさん……こいつは相手が悪いっすよ」
「黙れ! いいからさっさと行かないか!」
飛ばされた衝撃で口の中を切ったのか、怒りに歯を食いしばったサイラスの口の端からは血が滴り落ちていた。頬も少し腫れている。結構吹っ飛ばされてたし、とても痛そうである。
傷付けられたことに怒り心頭なサイラスに檄を飛ばされ、渋々ながらも取り巻きの男たちが命令に従い、リックと対峙する。
「リック! 私のことはいいから逃げて! このままじゃ、あなたまで……!」
サイラスを含め、相手は七人いる。リックが助けに来てくれたのは嬉しかったけど、この状況じゃどう考えても勝ち目は無いと思う。
一緒に逃げようにも、残念ながら私は立ち上がることすら満足に出来そうもない。
私だけだったら奴隷商人に売られるみたいだし、死ぬことはないと思うけどリックは別だ。口封じに殺されるのが普通だろう。
でも何故かリックは退く気はないようで、そのまま組織の連中と向かい合ったままでいた。
「こんな時でも他人の心配とは、アメリアらしいな。……でも、心配するな。お前は必ず俺が守る」
背を向けていたのでリックの顔は見えなかったけど、とても優しい声色だった。一体どんな顔をしていたのだろう。
こんな状況なのに、変なことが気になってしまっていた。
「くっ、ええい! 一か八かだ! みんな、行くぞ!」
「おおっ!」
男たちは一斉にリックへと襲いかかる。その手には刃物が握られていた。
対するリックは腰に帯びていた木剣を手にする。ああ……やっぱり無謀だ。
街中で武器を携帯するには国の許可が必要なんだけど、許可証の取得は一般市民にはまず無理だ。リックは自警団に所属しているので、殺傷能力の低い木剣のような武器の所持は許可されている。
でも、相手は犯罪組織。許可なんて取らずに遠慮なく刃物を持ち歩いているのだろう。数でも有利、更には武器の優位性までもが完全に相手の方が上だった。
その結果、どうなるかは明白。私はリックが傷付く姿を見たくなくて、恐怖のあまり目をぎゅっと瞑っていた。
「ぐえっ!」「がはっ!」「ぐぁっ!」
覚悟して身構えていたんだけど、蛙が踏み潰された時のような声がいくつも上がるのを不思議に思った私は、恐る恐る目を開いた。
すると、倒れていたのはリックではなく、組織の男たちだった。泡を吹いて気絶している人もいれば、悶絶してうずくまってる人もいた。
――え? 今の一瞬であの人数を……しかも刃物を持った人を倒したの……?
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