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私の騎士様
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「んぁ~……ん? 朝……?」
ゆっくりと体を起こし、寝ぼけ眼を擦ると、見慣れた部屋が目に入る。カーテンの隙間から差し込む朝日と鳥のさえずりから、自分の部屋でいつも通りの朝を迎えたのだと理解する。
「あれ? 夢……だったのかな?」
いつも通りすぎる日常の風景のせいで、さっきまで見ていたのは夢じゃないかと思ってしまう。
でも、僅かに感じる体の痛みが、あの出来事が現実だったのだと教えてくれる。
「夢じゃない。て、ことは……」
昨日の出来事を思い出して、私の顔は真っ赤に染まってしまった。
いや、だってちょっと精神的に弱っていたとはいえですよ。
あんなふうにリックに抱きついて泣きわめいて、色々慰めてもらって……次に会うときどんな顔して会えばいいの!?
恥ずかしすぎるんですけど!
「もー、やだー! よし、こうなったら神に祈るしかないわね! ああ、神様どうか時間を戻してください! できれば一週間ぐらい前に!」
当然私の祈りは神様には届くはずもなく、無情にも時は過ぎていく。神様のケチ。
などと私欲にまみれた祈りを捧げていたところ、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「アーちゃん、起きたの~? 開けるわよ~?」
「あ、はーい」
お母さんの声だ。昨日からずっと眠ってたみたいだし、心配かけちゃったかな?
がちゃりと扉が開かれ、お母さんが部屋の中に入ってくる。……と、そこまではよかったんだけど、予想外の人物が続けて部屋に入ってきた。
「リ、リック!? な、ななななんで!?」
お母さんと一緒にリックも私の部屋に入ってきたのだ。ヤバいヤバい! 昨日はお風呂も入ってないし、寝癖もついてる。
こんな姿見せられない――――あれ? なんで私リックに対して見映えを気にしてるんだろう。部屋に入れるのだって初めてじゃないし、朝起こしに来てくれたことだってあったのに。
なんていうか、今までは家族に近い感覚で接してたんだけど……私どうちゃったんだろう。
「もう、アーちゃんたら。リッ君が昨日眠っちゃったアーちゃんを家へ運んでくれたのよ? 今日だって心配して朝早くから様子を見に来てくれたんだから」
「おう、アイリス。調子はどうだ?」
リックの声を聞いた瞬間、顔が赤くなるのを自覚した。
何度も顔を合わせているし、声だっていつも聞いてるのに……どうしてだろう。やっぱり昨日のことを思い出して恥ずかしくなっちゃってるのかな?
「あ、うん……大丈夫。心配してくれてありがとうね、リック」
「お、おう……」
心なしかリックも少し頬を赤らめていた。あれ、私何か変なこと言ったかな……?
「あら? あらあら? お母さん、もしかしてお邪魔だったかしら? それじゃ、後はお二人でごゆっくり~」
「お母さん!? ちょ……!」
お母さんは私とリックとの間に流れる微妙な空気を察してか、すたこらと下へと戻って行った。
いや、できればここにいて欲しかった……! 私だってこんなの初めてだし、どうすればいいかわからないんだよ!?
「まあ……その、なんだ。朝早く押し掛けて悪かったな。とりあえず昨日の連中は、あの後駆けつけた本物の騎士団に引き渡した。相応の罰が下されるだろうぜ」
「そっか、それを言うために来てくれたの?」
「ああ、それとアイリスの様子を見にな。その様子ならもう大丈夫みたいだし、今日はもう帰るとするよ」
「あっ、ちょっと待って……!」
寝起きの私に気を利かせてくれたのか、二人きりになるや否やリックは踵を返そうと後ろへ振り返るが、特に理由もなく咄嗟に呼び止めてしまった。
恥ずかしさでいたたまれない雰囲気ではあったけど、別にリックに帰って欲しいわけじゃない。
いや、むしろもう少し居て欲しいとすら思っていた。
「……? どうかしたのか?」
「あ、うん。えと……改めてお礼をしなきゃと思って。ありがとね、リック」
「バーカ。礼なんていらねぇよ。お前は昔から騎士様、騎士様って言って周りが見えなくなるとこがあるからな。危なっかしくて目が離せないんだよ。これに懲りたら少しは大人しくしてろよ?」
「……うん。心配かけてごめんね。今度からは気を付ける」
相変わらず小馬鹿にしたような物言いなので、普段なら言い返してやるところだけど、今回は完全に私が悪かったので素直に謝っておく。
すると、私の反応が意外だったのか、リックは少し戸惑った様子だった。
「お、おう。わかったならいいけどよ。……いや、なんか今日はやけにかわ…………素直だな。もしかしてあの時頭でも打ったのか?」
「――もう! 私だって反省してるんだから、茶化さないでよ!」
「ははは、それだけ元気だったら大丈夫そうだな。でもまあ、今日ぐらいはゆっくりと休めよ? それじゃあまたな、アイリス」
言うだけ言ってリックは部屋を去っていった。
そんなリックの後ろ姿を見送った後、ぼーっとしている頭の中にふと本の騎士様の言葉が頭に浮かんだ。
それは、騎士に憧れた少年への言葉だ。
『人は誰だって騎士たり得る。本物の騎士とは、身分や見た目で決まるものではない。大切な何かを守りたいと思う気持ち。高潔なるその心と行動が伴っていれば、例え棒切れ一本しか持たなくても、その者は騎士であると言える。そう、大切なのは心なのだ』
……本当にその通りだ。今回の件で痛感した。
穴があくほど読み込んだ本なのに、本当に大切なことなのに、なんで忘れていたのだろう。
今まで私は見た目や、騎士という称号に必要以上に囚われていたんだと思う。
私の憧れた騎士様は容姿端麗で、姫を護ったことで立派な称号を得た。でも騎士様の本当の魅力は、その騎士道精神だったのだ。
なのに私ときたら、見た目に騙されて舞い上がって、たくさん迷惑をかけて……大事なことを見落としていた。そんな浅はかな自分が恥ずかしい。
でも、こんな目にあったからこそ気付いたこともある。
ピンチに駆けつけてくれて、落ち込んだ時傍にいてくれる。そして沈んだ心を掬い上げてくれた人。私だけの騎士様。
今までは傍にいてくれるのが当たり前のように思っていたけど、それはきっと特別で幸せな事だったんだなと、今ならわかる。
そうとわかれば、これからはもっと彼のことをきちんと見て、聞いて、話して……もっともっと深く知っていきたい。
「覚悟しなさいよね。お節介な私の騎士様……!」
芽生えたばかりの、恋心と共に――――
ゆっくりと体を起こし、寝ぼけ眼を擦ると、見慣れた部屋が目に入る。カーテンの隙間から差し込む朝日と鳥のさえずりから、自分の部屋でいつも通りの朝を迎えたのだと理解する。
「あれ? 夢……だったのかな?」
いつも通りすぎる日常の風景のせいで、さっきまで見ていたのは夢じゃないかと思ってしまう。
でも、僅かに感じる体の痛みが、あの出来事が現実だったのだと教えてくれる。
「夢じゃない。て、ことは……」
昨日の出来事を思い出して、私の顔は真っ赤に染まってしまった。
いや、だってちょっと精神的に弱っていたとはいえですよ。
あんなふうにリックに抱きついて泣きわめいて、色々慰めてもらって……次に会うときどんな顔して会えばいいの!?
恥ずかしすぎるんですけど!
「もー、やだー! よし、こうなったら神に祈るしかないわね! ああ、神様どうか時間を戻してください! できれば一週間ぐらい前に!」
当然私の祈りは神様には届くはずもなく、無情にも時は過ぎていく。神様のケチ。
などと私欲にまみれた祈りを捧げていたところ、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「アーちゃん、起きたの~? 開けるわよ~?」
「あ、はーい」
お母さんの声だ。昨日からずっと眠ってたみたいだし、心配かけちゃったかな?
がちゃりと扉が開かれ、お母さんが部屋の中に入ってくる。……と、そこまではよかったんだけど、予想外の人物が続けて部屋に入ってきた。
「リ、リック!? な、ななななんで!?」
お母さんと一緒にリックも私の部屋に入ってきたのだ。ヤバいヤバい! 昨日はお風呂も入ってないし、寝癖もついてる。
こんな姿見せられない――――あれ? なんで私リックに対して見映えを気にしてるんだろう。部屋に入れるのだって初めてじゃないし、朝起こしに来てくれたことだってあったのに。
なんていうか、今までは家族に近い感覚で接してたんだけど……私どうちゃったんだろう。
「もう、アーちゃんたら。リッ君が昨日眠っちゃったアーちゃんを家へ運んでくれたのよ? 今日だって心配して朝早くから様子を見に来てくれたんだから」
「おう、アイリス。調子はどうだ?」
リックの声を聞いた瞬間、顔が赤くなるのを自覚した。
何度も顔を合わせているし、声だっていつも聞いてるのに……どうしてだろう。やっぱり昨日のことを思い出して恥ずかしくなっちゃってるのかな?
「あ、うん……大丈夫。心配してくれてありがとうね、リック」
「お、おう……」
心なしかリックも少し頬を赤らめていた。あれ、私何か変なこと言ったかな……?
「あら? あらあら? お母さん、もしかしてお邪魔だったかしら? それじゃ、後はお二人でごゆっくり~」
「お母さん!? ちょ……!」
お母さんは私とリックとの間に流れる微妙な空気を察してか、すたこらと下へと戻って行った。
いや、できればここにいて欲しかった……! 私だってこんなの初めてだし、どうすればいいかわからないんだよ!?
「まあ……その、なんだ。朝早く押し掛けて悪かったな。とりあえず昨日の連中は、あの後駆けつけた本物の騎士団に引き渡した。相応の罰が下されるだろうぜ」
「そっか、それを言うために来てくれたの?」
「ああ、それとアイリスの様子を見にな。その様子ならもう大丈夫みたいだし、今日はもう帰るとするよ」
「あっ、ちょっと待って……!」
寝起きの私に気を利かせてくれたのか、二人きりになるや否やリックは踵を返そうと後ろへ振り返るが、特に理由もなく咄嗟に呼び止めてしまった。
恥ずかしさでいたたまれない雰囲気ではあったけど、別にリックに帰って欲しいわけじゃない。
いや、むしろもう少し居て欲しいとすら思っていた。
「……? どうかしたのか?」
「あ、うん。えと……改めてお礼をしなきゃと思って。ありがとね、リック」
「バーカ。礼なんていらねぇよ。お前は昔から騎士様、騎士様って言って周りが見えなくなるとこがあるからな。危なっかしくて目が離せないんだよ。これに懲りたら少しは大人しくしてろよ?」
「……うん。心配かけてごめんね。今度からは気を付ける」
相変わらず小馬鹿にしたような物言いなので、普段なら言い返してやるところだけど、今回は完全に私が悪かったので素直に謝っておく。
すると、私の反応が意外だったのか、リックは少し戸惑った様子だった。
「お、おう。わかったならいいけどよ。……いや、なんか今日はやけにかわ…………素直だな。もしかしてあの時頭でも打ったのか?」
「――もう! 私だって反省してるんだから、茶化さないでよ!」
「ははは、それだけ元気だったら大丈夫そうだな。でもまあ、今日ぐらいはゆっくりと休めよ? それじゃあまたな、アイリス」
言うだけ言ってリックは部屋を去っていった。
そんなリックの後ろ姿を見送った後、ぼーっとしている頭の中にふと本の騎士様の言葉が頭に浮かんだ。
それは、騎士に憧れた少年への言葉だ。
『人は誰だって騎士たり得る。本物の騎士とは、身分や見た目で決まるものではない。大切な何かを守りたいと思う気持ち。高潔なるその心と行動が伴っていれば、例え棒切れ一本しか持たなくても、その者は騎士であると言える。そう、大切なのは心なのだ』
……本当にその通りだ。今回の件で痛感した。
穴があくほど読み込んだ本なのに、本当に大切なことなのに、なんで忘れていたのだろう。
今まで私は見た目や、騎士という称号に必要以上に囚われていたんだと思う。
私の憧れた騎士様は容姿端麗で、姫を護ったことで立派な称号を得た。でも騎士様の本当の魅力は、その騎士道精神だったのだ。
なのに私ときたら、見た目に騙されて舞い上がって、たくさん迷惑をかけて……大事なことを見落としていた。そんな浅はかな自分が恥ずかしい。
でも、こんな目にあったからこそ気付いたこともある。
ピンチに駆けつけてくれて、落ち込んだ時傍にいてくれる。そして沈んだ心を掬い上げてくれた人。私だけの騎士様。
今までは傍にいてくれるのが当たり前のように思っていたけど、それはきっと特別で幸せな事だったんだなと、今ならわかる。
そうとわかれば、これからはもっと彼のことをきちんと見て、聞いて、話して……もっともっと深く知っていきたい。
「覚悟しなさいよね。お節介な私の騎士様……!」
芽生えたばかりの、恋心と共に――――
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