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真実と嘘
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「リック……どうしてこの場所に? もしかして私のこと助けに来てくれたの?」
こんな街外れの人気の無い場所、そうそう訪れるものではない。
それなのに、どういうわけかリックは来てくれた。純粋にその理由が気になったので直接尋ねてみる。
「別に……たまたま巡回してた時に悲鳴が聞こえたから来ただけだよ。これも仕事のうちだ」
――嘘だ。
リックのいつもの癖が出ている。片手で私を支えて、もう片方の空いた方の手で鼻の頭をぽりぽりと掻く。目線も合わない。リックが嘘を吐く時の癖だ。
ここへ来たばかりの時、リックは息を切らしていた。そこら中を駆け回って探してくれていたんだろうか?
だとしたら、嘘を吐く必要があるんだろうか。
私に言えないような理由なのだろうか。……そう思うと、なんだか少し悲しくなってきた。
「そっか……それにしても、リックって凄い強かったんだね。私、知らなかった」
悲しい気持ちを紛らわすために、話題を逸らす。
「まあ……仕事柄鍛えておくのは当然だろう?いや、そんなことよりお前は大丈夫なのか? 怪我はないか? 何かされなかったか?」
「あ、うん……大したことは……」
鼻の頭を掻くのは変わらなかったけど、今度はちゃんと私の目を見ながらリックは答えてくれた。
半分本当で半分嘘ってことなのかな……?
リックに心配されたのがきっかけで、さっきの連中とのやり取りが鮮明に頭に浮かぶ。
騙されたこと、暴力を振るわれそうになったこと、薬を盛られたこと。そして私の容姿や、体に染み付いた臭いについて酷いことも言われた。
騙されたのは自分の浅慮さが原因でもある。体臭などに関しても、香水を使うのを忘れていたのが原因だと言えばそれまでなんだけど、私が今の生活を続ける限り切り離すことができない問題なのだ。
とっくの昔にこのトラウマを克服したと思っていたんだけど……やっぱり面と向かって悪く言われると、心臓が締め付けれたかのように痛い。
それも、見た目だけだったとはいえ、私が憧れていた騎士様の口から出た言葉だ。現実は非情だった。夢に裏切られたような気分だ。
気付けば、目から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「お、おい。どうしたアイリス……?」
「ねえリック……私ってやっぱり魅力ないのかな?」
元々自分に自信があったわけじゃないけど、今回の一件で自分という人間の価値の無さを突きつけられたような気がしてならない。
リックに対して、こんな変なことを聞いちゃうくらいには、私の気持ちは落ち込んでいた。
急に泣き出し、嗚咽を漏らす私に戸惑った様子のリックだったけど、私の真剣な声色を察してか、真っ直ぐに私の瞳を覗き込む。
「――いいかアイリス。あいつらに何を言われたかは知らない。……でもな、俺はアイリスの寝起きだとぼさぼさになる髪も、いつも元気なお前らしく愛嬌があっていいと思う。髪や瞳の色だって派手な色よりかは、アイリスみたいな落ち着いた色合いの方が、安らぎを感じられて俺は好きだ」
「リック……」
「……つまり、その……だな。何を言いたいかと言うと、お前が理想とするような煌びやかさはないかもしれないが、お前にはお前の良さがあるんだ。だからもっと自分に自信を持てよ。な?」
――今度は、嘘じゃない。
リックは普段言い慣れない歯の浮くような台詞が恥ずかしかったのか、頬を赤く染めながらも真っ直ぐに私の目を見つめながらそう言った。
いつもの癖が出ていないことから、その言葉が本心からであるのが私にはわかった。
「でも……臭いのせいで私と一緒に食事をするのも嫌だって……!」
「何言ってるんだ。お前に薬草やらの臭いが染み付いてしまったのは、小さい頃から家業の手伝いをしているからだろう? 子供の頃からあんな難しい仕事をするなんて誰にも出来ることじゃない。もっと誇りを持て」
「う、うん……」
「それに、お前のことを知っていればそんな心の無い言葉を言う筈がない。そうだろう? 思い出してみろ。俺や、ソフィおばさん、常連の客、近所の住人たち……お前をよく知る人たちは毎日アイリスが頑張ってることを知ってるんだ。みんなお前に普通に接してるだろ?」
「あ……」
リックは特定の素材の香りを苦手そうにしていたけど、私に対して『嫌い』だとか『臭い』みたいなことは一度たりとも言わなかった。
お母さんや、よく会うお客さん、リックや付き合いの長い人たちにとっては、私に染み付いた臭いなんて些細なことなんだろう。
そう言えばあの人……サイラスとの食事の後の会話では、私ばっかりが話しかけていて、私がどんな仕事をしているだとか、どんな趣味があるかだとかは一切聞かれなかった。
最初から私自身の人となりには全く興味が無かったんだろう。あくまで商品としてしか私を見てなかったんだ。
そもそもあの人たちは悪党だ。そんな人に何を言われたって、どうゆう目で見られたって気にすることはないよね。
「いいかアイリス。それでもお前のことを知っても蔑む奴らがいたら俺に言え。今日みたいに相手が誰であろうと俺がぶっ飛ばしてやるからよ。そのために俺は鍛えて……あ、いやなんでも――」
もう我慢の限界だった。
「うぁーん! リッグゥ~! ありがどねぇ~!」
リックに言われたことが嬉しくて、悲しくて流れていた涙が、嬉し涙に変わった。
その勢いでリックに抱きついてえんえんと子供みたいに泣いているうちに、体力を消耗して薬が効いてきたのか急に眠気が襲ってきた。
「ふふ、いつもの調子に戻ったな。それでこそアイリスだ」
そう言ってリックは笑いながら私の頭を撫でる。
リックのこんな優しい顔初めて見たかも……いつもこんな顔してれば怖がられることもないのに。
……あ、だめだ。頭撫でられたのが心地よすぎてもう起きてられない――――
こんな街外れの人気の無い場所、そうそう訪れるものではない。
それなのに、どういうわけかリックは来てくれた。純粋にその理由が気になったので直接尋ねてみる。
「別に……たまたま巡回してた時に悲鳴が聞こえたから来ただけだよ。これも仕事のうちだ」
――嘘だ。
リックのいつもの癖が出ている。片手で私を支えて、もう片方の空いた方の手で鼻の頭をぽりぽりと掻く。目線も合わない。リックが嘘を吐く時の癖だ。
ここへ来たばかりの時、リックは息を切らしていた。そこら中を駆け回って探してくれていたんだろうか?
だとしたら、嘘を吐く必要があるんだろうか。
私に言えないような理由なのだろうか。……そう思うと、なんだか少し悲しくなってきた。
「そっか……それにしても、リックって凄い強かったんだね。私、知らなかった」
悲しい気持ちを紛らわすために、話題を逸らす。
「まあ……仕事柄鍛えておくのは当然だろう?いや、そんなことよりお前は大丈夫なのか? 怪我はないか? 何かされなかったか?」
「あ、うん……大したことは……」
鼻の頭を掻くのは変わらなかったけど、今度はちゃんと私の目を見ながらリックは答えてくれた。
半分本当で半分嘘ってことなのかな……?
リックに心配されたのがきっかけで、さっきの連中とのやり取りが鮮明に頭に浮かぶ。
騙されたこと、暴力を振るわれそうになったこと、薬を盛られたこと。そして私の容姿や、体に染み付いた臭いについて酷いことも言われた。
騙されたのは自分の浅慮さが原因でもある。体臭などに関しても、香水を使うのを忘れていたのが原因だと言えばそれまでなんだけど、私が今の生活を続ける限り切り離すことができない問題なのだ。
とっくの昔にこのトラウマを克服したと思っていたんだけど……やっぱり面と向かって悪く言われると、心臓が締め付けれたかのように痛い。
それも、見た目だけだったとはいえ、私が憧れていた騎士様の口から出た言葉だ。現実は非情だった。夢に裏切られたような気分だ。
気付けば、目から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「お、おい。どうしたアイリス……?」
「ねえリック……私ってやっぱり魅力ないのかな?」
元々自分に自信があったわけじゃないけど、今回の一件で自分という人間の価値の無さを突きつけられたような気がしてならない。
リックに対して、こんな変なことを聞いちゃうくらいには、私の気持ちは落ち込んでいた。
急に泣き出し、嗚咽を漏らす私に戸惑った様子のリックだったけど、私の真剣な声色を察してか、真っ直ぐに私の瞳を覗き込む。
「――いいかアイリス。あいつらに何を言われたかは知らない。……でもな、俺はアイリスの寝起きだとぼさぼさになる髪も、いつも元気なお前らしく愛嬌があっていいと思う。髪や瞳の色だって派手な色よりかは、アイリスみたいな落ち着いた色合いの方が、安らぎを感じられて俺は好きだ」
「リック……」
「……つまり、その……だな。何を言いたいかと言うと、お前が理想とするような煌びやかさはないかもしれないが、お前にはお前の良さがあるんだ。だからもっと自分に自信を持てよ。な?」
――今度は、嘘じゃない。
リックは普段言い慣れない歯の浮くような台詞が恥ずかしかったのか、頬を赤く染めながらも真っ直ぐに私の目を見つめながらそう言った。
いつもの癖が出ていないことから、その言葉が本心からであるのが私にはわかった。
「でも……臭いのせいで私と一緒に食事をするのも嫌だって……!」
「何言ってるんだ。お前に薬草やらの臭いが染み付いてしまったのは、小さい頃から家業の手伝いをしているからだろう? 子供の頃からあんな難しい仕事をするなんて誰にも出来ることじゃない。もっと誇りを持て」
「う、うん……」
「それに、お前のことを知っていればそんな心の無い言葉を言う筈がない。そうだろう? 思い出してみろ。俺や、ソフィおばさん、常連の客、近所の住人たち……お前をよく知る人たちは毎日アイリスが頑張ってることを知ってるんだ。みんなお前に普通に接してるだろ?」
「あ……」
リックは特定の素材の香りを苦手そうにしていたけど、私に対して『嫌い』だとか『臭い』みたいなことは一度たりとも言わなかった。
お母さんや、よく会うお客さん、リックや付き合いの長い人たちにとっては、私に染み付いた臭いなんて些細なことなんだろう。
そう言えばあの人……サイラスとの食事の後の会話では、私ばっかりが話しかけていて、私がどんな仕事をしているだとか、どんな趣味があるかだとかは一切聞かれなかった。
最初から私自身の人となりには全く興味が無かったんだろう。あくまで商品としてしか私を見てなかったんだ。
そもそもあの人たちは悪党だ。そんな人に何を言われたって、どうゆう目で見られたって気にすることはないよね。
「いいかアイリス。それでもお前のことを知っても蔑む奴らがいたら俺に言え。今日みたいに相手が誰であろうと俺がぶっ飛ばしてやるからよ。そのために俺は鍛えて……あ、いやなんでも――」
もう我慢の限界だった。
「うぁーん! リッグゥ~! ありがどねぇ~!」
リックに言われたことが嬉しくて、悲しくて流れていた涙が、嬉し涙に変わった。
その勢いでリックに抱きついてえんえんと子供みたいに泣いているうちに、体力を消耗して薬が効いてきたのか急に眠気が襲ってきた。
「ふふ、いつもの調子に戻ったな。それでこそアイリスだ」
そう言ってリックは笑いながら私の頭を撫でる。
リックのこんな優しい顔初めて見たかも……いつもこんな顔してれば怖がられることもないのに。
……あ、だめだ。頭撫でられたのが心地よすぎてもう起きてられない――――
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