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プロローグ
型太、異世界の大地に立つ
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「っしゃーーっ! 受かった! これで思いっきり好きなことできるぞ!」
――俺の名前は『相模 型太』。
今年で十八歳になる高校三年生。見た目はいわゆる中肉中背で、顔も普通。特に特徴といった特徴もない平凡な男だ。当然、モテたことなど一度もない。
そんな俺は今、合格通知を握りしめ、拳を天へと突き上げガッツポーズをしていた。長かった受験を乗り越え、ようやく趣味に時間を費やすことができることへの喜びが抑えきれなかったのだ。
「苦節一年……あまりに長かった」
高二の冬ごろから受験勉強が始まり、合格発表までほぼ一年間。俺の趣味である『プラモデル作り』は大学受験に専念するため、親に封印されていた。
プラモデルと言ってもいろんなカテゴリーがあるけど、俺が好きなのはロボットもののプラモデルだ。
きっかけは、子供のときに見てた特撮ヒーローのロボットが入った食玩をスーパーで見つけ、母親にせがんで買ってもらったのが始まりだった。まあ、男の子ならば誰もが通る道だろう。
食玩なのでパーツ数は四つ程度と、モノは安っぽかったが、俺はテレビに出てくるロボットを自分の手で作り上げられたことに感動し、その体験に深く魅了されたのだ。
そんな俺がプラモデルという道に辿り着くのは、必然だった。いや、運命だったと言ってもいい。
自慢じゃないが、何度かプラモデルのコンテストで入賞した経験がある。それだけの時間と情熱をかけてきたのだ。
「よーっし! 積みプラが大量にあるし、どれから手をつけようかな」
俺が趣味を自粛していた期間も、当然だが次々と新作は発売され続けていた。なので気になったプラモデルは買うだけ買っておき、未開封のまま部屋に積んであるのだ。
「学校もあとは卒業式だけ行けばいいし、時間はいくらでもある! この際だから全部いっちゃうか……!?」
正直無謀だとは思ったけど、約一年間押さえつけられていた欲望には勝てなかった。俺は一つ一つ丁寧に箱を開け、プラモデル作りに取り掛かった。
「ふぃー……ようやく一段落っと」
作り始めてからどれだけ時間が経ったのだろうか。あまりに熱中し過ぎていて、時間の感覚が無くなっていた。
とりあえず一通りは作り終え、塗料の乾燥を待つ段階になったので一息つこうと立ち上がり、時間を確認するためスマホを覗き込む。
「あ? あれ? スマホの日付表示がおかしい……わけないか。俺の記憶が正しければ、合格通知が来たのがこの日付の三日前。ってことは作り始めてから三日経ってる……?」
その間食事をした記憶もなければ、寝た記憶もない。つまり、三日三晩不眠不休だったってことか!?
「嘘やん……」
家族は旅行で家に居なかったし、どれだけ作業に没頭しても誰も止める人間はいなかっとはいえ、それにしたって集中し過ぎだろ俺。
「あ、ヤバ……なんか立ってるのもしんどい」
不眠不休の事実を認識したからか、急に頭がくらくらしてきた。まずい……冷蔵庫へ行かねば。うぐおぉぉぉ!
食料を求めキッチンへと足を運ぼうとしたものの、まともに歩くことすら叶わない。数歩歩いただけでよろけて壁にもたれ掛かってしまう。たった数メートルの距離が果てしなく遠い。
いかん、ここで気を失ったらガチで死ぬ。
そんな危機的状況とは裏腹に、俺の足は言うことを聞いてくれない。
「これは……マジで……ヤバい」
目の前が真っ暗になる。せめて俺が生きているうちに家族が帰ってきてくれることを祈るしかない。
そんな都合のいいことを考えながら、襲い来る睡魔にまるで歯が立たず敗北し、俺は意識を手放した。
※
――鼻腔に広がる緑の匂い。木漏れ日と、風に揺れ額をくすぐる前髪の動きで目が覚める。
「んーー! ……あれ、外にいる? なんで?」
伸びをしながら周りを確認すると、俺は見知らぬ山のような場所にいた。
不思議に思い、眠る前の記憶を辿ってみる。確か俺は不眠不休でプラモデルを作っていたせいで家の中で気を失ったはず。服装もあの時のままで、部屋着のジャージを着ていた。
「まさか熱中しすぎて倒れた俺に呆れて山に捨てたとか……? いや、そんなバカな……」
趣味のせいで引きこもりがちだったので、母や妹に色々と小言を言われたことはあるけど、さすがにそこまで嫌われてないよな?
「うーん、とりあえず帰る手段を探るか。ここがどこなのかも確認しないとな。大きな道に出れば標識の一つぐらいあるだろ」
不思議と空腹感や疲労感、眠気などは感じなかったので、ふらふらと辺りを探索してみるも、右を見ても左を見ても自然が広がるばかりで、建物の一つもなければ道路すら見当たらない。
ついでに言うとポケットに入っていたスマホを確認してみたが案の定圏外だった。山の中だし電波は届いてないようだ。
「マジでどこだよここ……うおっ、あぶねっ!」
適当に歩いていたらぬかるみか何かを踏んづけたみたいで、足を滑らせ転びそうになってしまった。目の前が崖になっていたので落ちたら大惨事だったぞ。
「……ん? なんだこれ? うわっ、キモッ!」
足下には俺が転びそうになった原因……思い切り踏みつけたであろうゼリー状の何かが、うねうねと俺の足に絡み付こうとしていたので反射的に蹴り飛ばしてしまった。
サッカーボールほどの大きさのそれは、まさしくサッカーボールよろしく俺の蹴りでポーンと飛んでいったのだが、深い崖を飛んでいた鳥に偶然ヒットする。
「おお! ナイスシュートだなあ……って、あれ?」
なんか違和感があるぞ。遠目に見えるあの鳥は俺が蹴り飛ばした謎の物体が落下する前に片足で掴んでいる。
俺でもサッカーボールを持つには両手使うんだが?
「……なんかサイズ感おかしくない?」
そう思っているとその鳥はこちら側へと進路を変え、真っ直ぐに飛んできた。
近付くにつれその姿形が鮮明に見えてくる。赤と黒の二色の羽毛だ、黒ベースに赤の差し色がなかなか格好いいじゃん。いやいやそんなことよりも……
「ちょちょちょ! デカイデカイヤバいって!」
明らかに俺の知っている鳥の大きさじゃなかった。多分胴体の部分だけで俺より全然でかい。翼を広げれば横幅五メートル以上はありそう。ダチョウを倍くらいにした感じだ。
そんな巨体がこちらへと向かってきている。もしかしなくても怒ってらっしゃいますよね。そうですよね。
もし俺を補食しようとしているならば絶体絶命、ジ・エンドだ。
「ひぇぇっ!」
明らかに俺を狙って高速で迫る巨鳥を前に、ビビりまくって全く身動きがとらないでいた。本来なら何かしら行動を起こすべきなのだが、初めて感じる死の恐怖に何もできなかった。
「し、死んだ――――」
全てを諦め目を閉じた俺は、轟音と強風に襲われてパッ目を見開く。
「ゴガァァァァァッ!!」
死が迫るその直前、巨鳥の大きさを優に上回る影が巨鳥を咥え、かっさらっていった。
その影の正体は、翼が生えたでっかいトカゲ……俗に言うドラゴンだった。
ドラゴンはちっぽけな俺など腹の足しにもならないと思ったのか、はたまた目にも止まらなかったのか、鳥を咥えたまま、俺に見向きもせずにそのまま悠々と飛び去っていく。
どうやら危機は脱したようだ。いや……それよりも重要なことがある。
鳥だけだったらともかく、あんなものなんか見たらこう思うしかないよな。
「――ここって、異世界ってやつ?」
――拝啓、お母様。わたくし相模型太十八歳、寝て起きたら異世界に来てしまったようです。
――俺の名前は『相模 型太』。
今年で十八歳になる高校三年生。見た目はいわゆる中肉中背で、顔も普通。特に特徴といった特徴もない平凡な男だ。当然、モテたことなど一度もない。
そんな俺は今、合格通知を握りしめ、拳を天へと突き上げガッツポーズをしていた。長かった受験を乗り越え、ようやく趣味に時間を費やすことができることへの喜びが抑えきれなかったのだ。
「苦節一年……あまりに長かった」
高二の冬ごろから受験勉強が始まり、合格発表までほぼ一年間。俺の趣味である『プラモデル作り』は大学受験に専念するため、親に封印されていた。
プラモデルと言ってもいろんなカテゴリーがあるけど、俺が好きなのはロボットもののプラモデルだ。
きっかけは、子供のときに見てた特撮ヒーローのロボットが入った食玩をスーパーで見つけ、母親にせがんで買ってもらったのが始まりだった。まあ、男の子ならば誰もが通る道だろう。
食玩なのでパーツ数は四つ程度と、モノは安っぽかったが、俺はテレビに出てくるロボットを自分の手で作り上げられたことに感動し、その体験に深く魅了されたのだ。
そんな俺がプラモデルという道に辿り着くのは、必然だった。いや、運命だったと言ってもいい。
自慢じゃないが、何度かプラモデルのコンテストで入賞した経験がある。それだけの時間と情熱をかけてきたのだ。
「よーっし! 積みプラが大量にあるし、どれから手をつけようかな」
俺が趣味を自粛していた期間も、当然だが次々と新作は発売され続けていた。なので気になったプラモデルは買うだけ買っておき、未開封のまま部屋に積んであるのだ。
「学校もあとは卒業式だけ行けばいいし、時間はいくらでもある! この際だから全部いっちゃうか……!?」
正直無謀だとは思ったけど、約一年間押さえつけられていた欲望には勝てなかった。俺は一つ一つ丁寧に箱を開け、プラモデル作りに取り掛かった。
「ふぃー……ようやく一段落っと」
作り始めてからどれだけ時間が経ったのだろうか。あまりに熱中し過ぎていて、時間の感覚が無くなっていた。
とりあえず一通りは作り終え、塗料の乾燥を待つ段階になったので一息つこうと立ち上がり、時間を確認するためスマホを覗き込む。
「あ? あれ? スマホの日付表示がおかしい……わけないか。俺の記憶が正しければ、合格通知が来たのがこの日付の三日前。ってことは作り始めてから三日経ってる……?」
その間食事をした記憶もなければ、寝た記憶もない。つまり、三日三晩不眠不休だったってことか!?
「嘘やん……」
家族は旅行で家に居なかったし、どれだけ作業に没頭しても誰も止める人間はいなかっとはいえ、それにしたって集中し過ぎだろ俺。
「あ、ヤバ……なんか立ってるのもしんどい」
不眠不休の事実を認識したからか、急に頭がくらくらしてきた。まずい……冷蔵庫へ行かねば。うぐおぉぉぉ!
食料を求めキッチンへと足を運ぼうとしたものの、まともに歩くことすら叶わない。数歩歩いただけでよろけて壁にもたれ掛かってしまう。たった数メートルの距離が果てしなく遠い。
いかん、ここで気を失ったらガチで死ぬ。
そんな危機的状況とは裏腹に、俺の足は言うことを聞いてくれない。
「これは……マジで……ヤバい」
目の前が真っ暗になる。せめて俺が生きているうちに家族が帰ってきてくれることを祈るしかない。
そんな都合のいいことを考えながら、襲い来る睡魔にまるで歯が立たず敗北し、俺は意識を手放した。
※
――鼻腔に広がる緑の匂い。木漏れ日と、風に揺れ額をくすぐる前髪の動きで目が覚める。
「んーー! ……あれ、外にいる? なんで?」
伸びをしながら周りを確認すると、俺は見知らぬ山のような場所にいた。
不思議に思い、眠る前の記憶を辿ってみる。確か俺は不眠不休でプラモデルを作っていたせいで家の中で気を失ったはず。服装もあの時のままで、部屋着のジャージを着ていた。
「まさか熱中しすぎて倒れた俺に呆れて山に捨てたとか……? いや、そんなバカな……」
趣味のせいで引きこもりがちだったので、母や妹に色々と小言を言われたことはあるけど、さすがにそこまで嫌われてないよな?
「うーん、とりあえず帰る手段を探るか。ここがどこなのかも確認しないとな。大きな道に出れば標識の一つぐらいあるだろ」
不思議と空腹感や疲労感、眠気などは感じなかったので、ふらふらと辺りを探索してみるも、右を見ても左を見ても自然が広がるばかりで、建物の一つもなければ道路すら見当たらない。
ついでに言うとポケットに入っていたスマホを確認してみたが案の定圏外だった。山の中だし電波は届いてないようだ。
「マジでどこだよここ……うおっ、あぶねっ!」
適当に歩いていたらぬかるみか何かを踏んづけたみたいで、足を滑らせ転びそうになってしまった。目の前が崖になっていたので落ちたら大惨事だったぞ。
「……ん? なんだこれ? うわっ、キモッ!」
足下には俺が転びそうになった原因……思い切り踏みつけたであろうゼリー状の何かが、うねうねと俺の足に絡み付こうとしていたので反射的に蹴り飛ばしてしまった。
サッカーボールほどの大きさのそれは、まさしくサッカーボールよろしく俺の蹴りでポーンと飛んでいったのだが、深い崖を飛んでいた鳥に偶然ヒットする。
「おお! ナイスシュートだなあ……って、あれ?」
なんか違和感があるぞ。遠目に見えるあの鳥は俺が蹴り飛ばした謎の物体が落下する前に片足で掴んでいる。
俺でもサッカーボールを持つには両手使うんだが?
「……なんかサイズ感おかしくない?」
そう思っているとその鳥はこちら側へと進路を変え、真っ直ぐに飛んできた。
近付くにつれその姿形が鮮明に見えてくる。赤と黒の二色の羽毛だ、黒ベースに赤の差し色がなかなか格好いいじゃん。いやいやそんなことよりも……
「ちょちょちょ! デカイデカイヤバいって!」
明らかに俺の知っている鳥の大きさじゃなかった。多分胴体の部分だけで俺より全然でかい。翼を広げれば横幅五メートル以上はありそう。ダチョウを倍くらいにした感じだ。
そんな巨体がこちらへと向かってきている。もしかしなくても怒ってらっしゃいますよね。そうですよね。
もし俺を補食しようとしているならば絶体絶命、ジ・エンドだ。
「ひぇぇっ!」
明らかに俺を狙って高速で迫る巨鳥を前に、ビビりまくって全く身動きがとらないでいた。本来なら何かしら行動を起こすべきなのだが、初めて感じる死の恐怖に何もできなかった。
「し、死んだ――――」
全てを諦め目を閉じた俺は、轟音と強風に襲われてパッ目を見開く。
「ゴガァァァァァッ!!」
死が迫るその直前、巨鳥の大きさを優に上回る影が巨鳥を咥え、かっさらっていった。
その影の正体は、翼が生えたでっかいトカゲ……俗に言うドラゴンだった。
ドラゴンはちっぽけな俺など腹の足しにもならないと思ったのか、はたまた目にも止まらなかったのか、鳥を咥えたまま、俺に見向きもせずにそのまま悠々と飛び去っていく。
どうやら危機は脱したようだ。いや……それよりも重要なことがある。
鳥だけだったらともかく、あんなものなんか見たらこう思うしかないよな。
「――ここって、異世界ってやつ?」
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