スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした

大豆茶

文字の大きさ
97 / 120
【三章】技術大国プラセリア

46.死の恐怖

しおりを挟む
「――かはっ!」

 どうやら背中から墜落したらしい。その衝撃で呼吸が乱れ、胃がひっくり返りそうな気持ちの悪さを感じる。
 まだ意識は保ってはいるものの、ちょっと気を抜けばいつ手放してもおかしくはなかった。

 サイクロプスはというと、ダメージを受けすぎたためか機能を停止しているようだった。表示されていたモニターや計器類が全て消えて、ただ真っ暗な空間にスマホの明かりだけがぼんやりと浮かんでいる。
 機能停止したことで『限界突破リミットブレイク』の効果も切れ、魔力を絞り尽くされなかったことは不幸中の幸いだ。

「く……うぅ、はやく立ち上がらなきゃ。機能を回復するにはどうしたらいいんだ……?」

 ――パキッ。

 なにかが割れるような乾いた音が、ちょっとした振動といっしょに聞こえた。
 すると不思議なことに、光が届かないはずのこの空間に、陽の光が差し込んだ。

「え……?」

 パキパキと音を立てて崩れていたのは今俺がいる場所。すなわち魔動人形のコア
 
「ちょ、待ってくれサイクロプス。俺はまだなにも救えていないんだ。リンも、アークライトにいるはずのみんなも。ゴードンさんたちだってまだ無事かもしれない! まだ終われないんだ! 頼む、まだ終わらないでくれ……!」

 俺の懇願もむなしく、眼前の外壁が崩れ大きな破片が落ちた。それは俺の顔をかすめていき、頬に鋭い切り傷を残した。
 怪我をしたというのに俺は頬に触れることすらしなかった。なぜならば、突然開けた目の前の光景に圧倒されていたからだ。

 大穴が空いた視界の先は真っ青な空。――ではなく、黒で埋め尽くされていた。
 重油のような粘っこさでうねうねと波打つその黒は、考えるまでもなく巨人の体の一部だろう。

 遠巻きに見るのと、実際に至近距離で見るのとでは、感じる印象はまるで別物だ。
 例えるならば、全てを飲み込みそうな真夜中の海が、こちらを飲み込もうとにじり寄ってくるかのようだった。

「や……めろ、それ以上俺に近寄るな……! 来ないでくれっ!」

 恐怖のあまり両手を伸ばしはね除けようとするも、実際にはまだかなりの距離があり虚しくも空を切るだけだった。

「――っ!?」

 ギョロリ。

 機械的なデザインではあるが、大きな瞳が目の前にいきなり現れた。それはただカメラの機能を果たすだけのもので、ガオウは機体の様子を確認するためになんの気もなしに生成したものだろう。
 だが俺の恐怖心を煽るには充分すぎた。無機質な視線を向けられ、無意識のうちに細かく身震いをしてしまう。

「ほう、あれだけ攻撃を受けても原型をとどめているとはな。だが核が破損してしまったか……これでは吸収しても意味がないか?」

「――ぁ」

「だがその魔動人形の能力は稀有だ。そのまま消すには惜しい。……物は試しだ、頂くとしよう」

 まるで独り言のようにガオウは呟いた。俺の姿が映っていないような口ぶりだ。
 俺が誘いを断った時点で既に見切りをつけていたのだろう。一度敵と認識した人間を排除するのに、僅かなの躊躇すらない。

 ズズ、と巨人の腕がサイクロプスへと伸びるのが見えた。

 今すぐここから逃げ出すべきなのだが、情けないことに足がすくんでしまい、最初の一歩を踏み出すことができない。

「くそっ……俺がもっと冷静に戦えていれば、もっとうまくやれていれば……!」

 冷静になって考えれば、限界突破の持続時間が一分程度だったのも今となっては理解できる。
 体感三分程度なんて曖昧な認識だったけど、結局俺自身の魔力総量は変わらないんだ。要は魔力消費量によって持続時間は変動する。

 飛行機能に思ったよりも魔力を持っていかれていたんだろう。しかも熱くなりすぎて、必要もないのに常に全速力でスラスターを噴かしてたせいだ。
 もっと慎重になっていれば、試運転の一つでもできていれば、また結果は違ったのかもしれない。

 ……いまさらたらればの話をしたところで結果は覆らないのだけれど。

「ごめんカティア……約束、守れそうにない。シルヴィア、フラム……君たちも守れなかった」

 ――ああ、ここまでか。

 思えばこの世界に来てから今まで、平凡な俺にしては上出来すぎたのだ。なんだかんだで今回もなんとかできる、俺には特別な力がある。……そうやって思い違いをしていた。
 
 結局はただの平凡な人間だったのだ。特別なんかじゃない。

「ごめん、みんな――」

 己の無謀さを悔い、ぎゅっと目を閉じる。

 やがて視界は、真っ赤に染まった――。

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...