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番外編
とある家令の憂慮
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ローゼンシュタイン伯爵邸には美しい庭園がある。
その名前を由来として、屋敷のいたるところに薔薇が植えられているのだ。
正面の門から入った前庭はもちろんのこと、中庭や本館と別館を繋ぐ小路もこの時期は薔薇で溢れている。
オットー・ヴェヒターはその美しい光景を見て、自然と笑みを深めた。
ローゼンシュタイン伯爵家で長いこと家令として勤めている彼は、毎年やってくるこの季節を殊の外好んでいた。シュテルンリヒトの厳しい冬が明ければ、短い春と夏がやってくる。銀色に染まっていた世界が、一気に様々な色を取り戻すのだ。
その美しい季節に、当家の庭園はおそらくこの王都で一、二位を争うほど見事だろう。オットーは密かにそんなことを思っていた。
しかし、そんな麗らかで穏やかな春の日射しの中、眼下に広がる薔薇園を睨む青年がひとり。――否、睨んではいない。おそらくあれで見つめているのだ。客観的に見れば、どこからどう見ても睨んでいるようにしか見えないとしても。
「ギルベルト様」
いつまでたっても動かない青年に痺れを切らし、とうとうオットーは声をかけた。
本来であれば家令として、主がどのように行動しようともそれを咎めることはするべきではない。しかし、この屋敷の主である青年――ギルベルトは、このままではおそらく日が暮れるまでそこに立ち続けるだろうと思ったのだ。
「そのように眺めてばかりいらっしゃらないで、声をおかけになってはいかがでしょうか」
オットーが言えば、ギルベルトはこちらを振り向かずに首を横に振る。
予想どおりのその仕草に困ったように微笑んで、オットーは主の視線の先を見た。
二階の廊下から見下ろす、屋敷の裏庭。ローゼンシュタイン伯爵邸の本館と別館を繋ぐ、小さな薔薇の小路にふたりの人物が佇んでいた。
ひとりはほっそりとした儚げな容姿のいかにもオメガ然とした青年で、この屋敷のもうひとりの主人――つまり、当主であるギルベルトの奥方にあたる。亜麻色の髪に緑色の瞳を持つオメガ、ユーリスだ。
もうひとりはユーリスがとても大切そうに抱き上げている、栗色の髪の幼子。つい先日、一歳の誕生日を迎えたばかりの、ローゼンシュタイン伯爵家の跡取りであるミハエルだった。
一歳を迎えたミハエルは、少しの距離ではあるが、ひとりで歩けるようになっていた。それで散策も兼ねて、ユーリスはここ最近、よくふたりで庭に出ている。
短い時間ではあるが一緒に春の日射しを浴びたり、薔薇の匂いを嗅がせたりと、歩き始めたばかり息子にシュテルンリヒトの春をひとつひとつ丁寧に教えているのだ。
ふっくらとした白い頬を上気させ、興味深そうに花を見るミハエルはたいそう愛らしいし、彼を慈しむユーリスも子をひとり産んだとは思えないほどに可憐な様子だった。
そんなふたりをギルベルトは時間が許す限り、ずっと眺めているのだ。
ちょうど、彼らがよく散策している裏庭は、当主の書斎前の廊下から見下ろすことが出来た。
突然、廊下から庭園を眺め出した主を初めて見たときの驚きは、言葉では表せない。しかも、彼が見つめているのは、他でもない彼自身の番と息子なのだ。それほど気になるのであれば、さっさと声をかけて一緒に散歩でも何でもすればいいと思うのだけれども。
先々代の頃からこの屋敷に仕えているオットーにとって、ギルベルトは孫のようなものだった。彼が生まれたときのことも、幼少の頃のこともよく覚えている。
ギルベルトは幼い頃から、伯爵であった父親から厳しく育てられた。
騎士として常に冷静であれと教えられ、感情を表に出さないように躾けられた。そして出来上がったのが、真面目で堅物。恋愛なんて見たことも触れたこともないような、生真面目で奥手な青年だった。
この若き当主は、どうやら長年自らの奥方に思いを寄せていたらしい。
ギルベルトはあまり表情を変えないため非常に分かりにくいが、幼い頃から世話をしてきたオットーにはその感情が手に取るように分かるのだ。
玻璃宮でヴィルヘルムに仕えだした思春期の多感な時期に、ギルベルトにしては珍しく上の空のときがあった。ふわふわと花が飛ぶような薄紅の空気を纏う少年を見て、ギルベルト坊ちゃまももうそんな年頃になったのか、と感慨深く思ったものだった。
そのときの相手がユーリスで、ギルベルトは十年近い年月、彼を一途に思っていたのだ。
だからこそ、ギルベルトの結婚が決まり、奥方をローゼンシュタイン伯爵邸に迎えるにあたって、オットーを始めとした使用人一同はいきり立った。少しでも過ごしやすく、この屋敷とその生活を気に入ってもらえるようにと心を砕いてきた。
それもこれも、孫のように思うローゼンシュタイン伯爵のためだった。
しかし、である。
とうに成人し、婚姻して二年が経つというのに、その頃からまったく成長しない有様なのはいかがなものだろうか。
おそらく、ユーリスはギルベルトが声をかければ嫌がりはしないと思うのだ。
家令であるオットーから見ても、ユーリスは穏やかで優しい青年だ。家を預かる主人としての能力も申し分なく、別館の采配に至ってはオットーはもうほとんど関知していない。
それに、主との仲はよそよそしく、多少の距離は感じるものの、人からの好意を無碍にするような性格ではない。ギルベルトさえ彼に寄り添う姿勢を見せれば、きっと受け入れてくれると思うのだけれど。
そう何度も助言しているが、奥手で恥ずかしがり屋で臆病な主は、いっこうに動かない。
最初は微笑ましく見守っていた使用人たちであったが、もういい年なのだからさっさと行動に移せ、と思っているのは明白だったし、別館付きの侍女たちにいたっては、その全員がユーリスの味方で、発情期にしか彼の元を訪れないギルベルトの評判はすこぶる悪かった。
当主の気持ちを知らない侍女たちからすれば、彼が自分たちの大好きな主を冷遇しているようにも見えるのだろう。
しかし、オットーは知っているのだ。
この当主は、奥方が自分にそっくりな息子を抱き上げている光景を見るのが大好きなのだ。
本当はすぐにでもそばにいって言葉を交わし、一緒に寄り添いたいと思っている。
「……最近」
「はい」
不意にかけられた声に、オットーは慌ててギルベルトの方を見た。
こうして主が奥方と息子を眺めている最中に、声をかけられたことは初めてだったからだ。
「歩けるようになったと聞いた」
ぽつりと呟かれた言葉に、主語はなかった。しかし、オットーには主が何を言いたいのかがすぐに分かった。
「左様でございます。少しだけではございますが、掴まらないでお歩きになられるのですよ。食事も徐々に大人と同じようなものをとられていて、特に果物を好まれます」
「そうか」
「本当にギルベルト様によく似ておいでで、ミハエル坊ちゃまを見ていると坊ちゃまの幼い頃を思い出します」
「ふっ、お前にかかればどちらも坊ちゃまだな」
「これは失礼いたしました」
小さく笑うギルベルトを見て、オットーは小さく息を吐く。
この笑顔をユーリスやミハエルに見せてやれば、もっとこの夫夫の距離は縮まるだろうと思うのだ。
オットーは知っている。
以前、人見知りをするミハエルに手酷く泣かれてから、ギルベルトが己の息子に近寄らなくなったのを。いつだって抱き上げてやりたいと思っていて、けれどまた泣かれると思って距離を取っている。
けれど、いつもこうやって遠くから見守って、きっと明日にはミハエルが好きそうな果物を山のように買い求めるのだろう。構いたくて仕方がないのに、幼い子どもへどう接していいか分からないのだ。
オットーは幼い頃から見守ってきたこの年若い当主を見て、深く憂慮する。
ギルベルトが常に不愛想なのはそう教育されて来たからで、決して冷血な人間ではない。むしろとても優しくて、他人の気持ちを考えるあまりその一歩を踏み出せないだけだ。
奥方のことだって、こんなにも一途に思っているというのに。その好意がまったく伝わっていないことを、ひどく気の毒に思う。
ギルベルトには聞かれない程度に小さく嘆息して、オットーはその場を後にした。
窓の外では侍女たちがお茶の用意をしている最中だった。庭に出てしばらくたっていたから、そろそろ休憩の時間なのだろう。
にこやかに笑って礼を言うユーリスの顔を、おそらくギルベルトは食い入るように見ているはずだ。
いつか、この主もその中に入ることが出来るといいのだけれど。
きっと自ら願うこともしない控えめな主の代わりに、オットーは密やかにそう思った。
それから一年以上後のことだ。
秋を迎えたローゼンシュタイン伯爵邸の庭には秋咲きの薔薇が美しく咲き誇っていた。別館の庭に咲く珍しい紫色の薔薇は、他でもないユーリス本人が選び世話をしている薔薇で、花が咲くたびに息子と夫の瞳のようだと喜んでいることを使用人たちの全員が知っていた。
そんな薔薇園の中で、仲睦まじげにお茶をする一組の夫夫の姿があった。
二歳半をすぎたミハエルは、庭を駆けまわっている。やんちゃな盛りの幼子に夫夫はそろそろ剣の鍛錬を、と話し合っているらしい。
お茶を飲む間も惜しいとばかりに手を握り合うふたりの姿を見て、オットーは微笑んだ。
当主の顔が無表情なのは、一年前と何も変わりがない。しかし、彼が幸せを噛みしめていることをオットーは知っている。よくよく見れば、ほんの少し、本当に分かりづらいけれどほんの少しだけ柔らかく笑んでいることも。
きっとそれは長く彼に仕えている者たちにしか分からないだろう。
けれども、オットーはこれも知っていた。隣で微笑むユーリスが、主の分かりにくいその笑顔を理解していることを。
その名前を由来として、屋敷のいたるところに薔薇が植えられているのだ。
正面の門から入った前庭はもちろんのこと、中庭や本館と別館を繋ぐ小路もこの時期は薔薇で溢れている。
オットー・ヴェヒターはその美しい光景を見て、自然と笑みを深めた。
ローゼンシュタイン伯爵家で長いこと家令として勤めている彼は、毎年やってくるこの季節を殊の外好んでいた。シュテルンリヒトの厳しい冬が明ければ、短い春と夏がやってくる。銀色に染まっていた世界が、一気に様々な色を取り戻すのだ。
その美しい季節に、当家の庭園はおそらくこの王都で一、二位を争うほど見事だろう。オットーは密かにそんなことを思っていた。
しかし、そんな麗らかで穏やかな春の日射しの中、眼下に広がる薔薇園を睨む青年がひとり。――否、睨んではいない。おそらくあれで見つめているのだ。客観的に見れば、どこからどう見ても睨んでいるようにしか見えないとしても。
「ギルベルト様」
いつまでたっても動かない青年に痺れを切らし、とうとうオットーは声をかけた。
本来であれば家令として、主がどのように行動しようともそれを咎めることはするべきではない。しかし、この屋敷の主である青年――ギルベルトは、このままではおそらく日が暮れるまでそこに立ち続けるだろうと思ったのだ。
「そのように眺めてばかりいらっしゃらないで、声をおかけになってはいかがでしょうか」
オットーが言えば、ギルベルトはこちらを振り向かずに首を横に振る。
予想どおりのその仕草に困ったように微笑んで、オットーは主の視線の先を見た。
二階の廊下から見下ろす、屋敷の裏庭。ローゼンシュタイン伯爵邸の本館と別館を繋ぐ、小さな薔薇の小路にふたりの人物が佇んでいた。
ひとりはほっそりとした儚げな容姿のいかにもオメガ然とした青年で、この屋敷のもうひとりの主人――つまり、当主であるギルベルトの奥方にあたる。亜麻色の髪に緑色の瞳を持つオメガ、ユーリスだ。
もうひとりはユーリスがとても大切そうに抱き上げている、栗色の髪の幼子。つい先日、一歳の誕生日を迎えたばかりの、ローゼンシュタイン伯爵家の跡取りであるミハエルだった。
一歳を迎えたミハエルは、少しの距離ではあるが、ひとりで歩けるようになっていた。それで散策も兼ねて、ユーリスはここ最近、よくふたりで庭に出ている。
短い時間ではあるが一緒に春の日射しを浴びたり、薔薇の匂いを嗅がせたりと、歩き始めたばかり息子にシュテルンリヒトの春をひとつひとつ丁寧に教えているのだ。
ふっくらとした白い頬を上気させ、興味深そうに花を見るミハエルはたいそう愛らしいし、彼を慈しむユーリスも子をひとり産んだとは思えないほどに可憐な様子だった。
そんなふたりをギルベルトは時間が許す限り、ずっと眺めているのだ。
ちょうど、彼らがよく散策している裏庭は、当主の書斎前の廊下から見下ろすことが出来た。
突然、廊下から庭園を眺め出した主を初めて見たときの驚きは、言葉では表せない。しかも、彼が見つめているのは、他でもない彼自身の番と息子なのだ。それほど気になるのであれば、さっさと声をかけて一緒に散歩でも何でもすればいいと思うのだけれども。
先々代の頃からこの屋敷に仕えているオットーにとって、ギルベルトは孫のようなものだった。彼が生まれたときのことも、幼少の頃のこともよく覚えている。
ギルベルトは幼い頃から、伯爵であった父親から厳しく育てられた。
騎士として常に冷静であれと教えられ、感情を表に出さないように躾けられた。そして出来上がったのが、真面目で堅物。恋愛なんて見たことも触れたこともないような、生真面目で奥手な青年だった。
この若き当主は、どうやら長年自らの奥方に思いを寄せていたらしい。
ギルベルトはあまり表情を変えないため非常に分かりにくいが、幼い頃から世話をしてきたオットーにはその感情が手に取るように分かるのだ。
玻璃宮でヴィルヘルムに仕えだした思春期の多感な時期に、ギルベルトにしては珍しく上の空のときがあった。ふわふわと花が飛ぶような薄紅の空気を纏う少年を見て、ギルベルト坊ちゃまももうそんな年頃になったのか、と感慨深く思ったものだった。
そのときの相手がユーリスで、ギルベルトは十年近い年月、彼を一途に思っていたのだ。
だからこそ、ギルベルトの結婚が決まり、奥方をローゼンシュタイン伯爵邸に迎えるにあたって、オットーを始めとした使用人一同はいきり立った。少しでも過ごしやすく、この屋敷とその生活を気に入ってもらえるようにと心を砕いてきた。
それもこれも、孫のように思うローゼンシュタイン伯爵のためだった。
しかし、である。
とうに成人し、婚姻して二年が経つというのに、その頃からまったく成長しない有様なのはいかがなものだろうか。
おそらく、ユーリスはギルベルトが声をかければ嫌がりはしないと思うのだ。
家令であるオットーから見ても、ユーリスは穏やかで優しい青年だ。家を預かる主人としての能力も申し分なく、別館の采配に至ってはオットーはもうほとんど関知していない。
それに、主との仲はよそよそしく、多少の距離は感じるものの、人からの好意を無碍にするような性格ではない。ギルベルトさえ彼に寄り添う姿勢を見せれば、きっと受け入れてくれると思うのだけれど。
そう何度も助言しているが、奥手で恥ずかしがり屋で臆病な主は、いっこうに動かない。
最初は微笑ましく見守っていた使用人たちであったが、もういい年なのだからさっさと行動に移せ、と思っているのは明白だったし、別館付きの侍女たちにいたっては、その全員がユーリスの味方で、発情期にしか彼の元を訪れないギルベルトの評判はすこぶる悪かった。
当主の気持ちを知らない侍女たちからすれば、彼が自分たちの大好きな主を冷遇しているようにも見えるのだろう。
しかし、オットーは知っているのだ。
この当主は、奥方が自分にそっくりな息子を抱き上げている光景を見るのが大好きなのだ。
本当はすぐにでもそばにいって言葉を交わし、一緒に寄り添いたいと思っている。
「……最近」
「はい」
不意にかけられた声に、オットーは慌ててギルベルトの方を見た。
こうして主が奥方と息子を眺めている最中に、声をかけられたことは初めてだったからだ。
「歩けるようになったと聞いた」
ぽつりと呟かれた言葉に、主語はなかった。しかし、オットーには主が何を言いたいのかがすぐに分かった。
「左様でございます。少しだけではございますが、掴まらないでお歩きになられるのですよ。食事も徐々に大人と同じようなものをとられていて、特に果物を好まれます」
「そうか」
「本当にギルベルト様によく似ておいでで、ミハエル坊ちゃまを見ていると坊ちゃまの幼い頃を思い出します」
「ふっ、お前にかかればどちらも坊ちゃまだな」
「これは失礼いたしました」
小さく笑うギルベルトを見て、オットーは小さく息を吐く。
この笑顔をユーリスやミハエルに見せてやれば、もっとこの夫夫の距離は縮まるだろうと思うのだ。
オットーは知っている。
以前、人見知りをするミハエルに手酷く泣かれてから、ギルベルトが己の息子に近寄らなくなったのを。いつだって抱き上げてやりたいと思っていて、けれどまた泣かれると思って距離を取っている。
けれど、いつもこうやって遠くから見守って、きっと明日にはミハエルが好きそうな果物を山のように買い求めるのだろう。構いたくて仕方がないのに、幼い子どもへどう接していいか分からないのだ。
オットーは幼い頃から見守ってきたこの年若い当主を見て、深く憂慮する。
ギルベルトが常に不愛想なのはそう教育されて来たからで、決して冷血な人間ではない。むしろとても優しくて、他人の気持ちを考えるあまりその一歩を踏み出せないだけだ。
奥方のことだって、こんなにも一途に思っているというのに。その好意がまったく伝わっていないことを、ひどく気の毒に思う。
ギルベルトには聞かれない程度に小さく嘆息して、オットーはその場を後にした。
窓の外では侍女たちがお茶の用意をしている最中だった。庭に出てしばらくたっていたから、そろそろ休憩の時間なのだろう。
にこやかに笑って礼を言うユーリスの顔を、おそらくギルベルトは食い入るように見ているはずだ。
いつか、この主もその中に入ることが出来るといいのだけれど。
きっと自ら願うこともしない控えめな主の代わりに、オットーは密やかにそう思った。
それから一年以上後のことだ。
秋を迎えたローゼンシュタイン伯爵邸の庭には秋咲きの薔薇が美しく咲き誇っていた。別館の庭に咲く珍しい紫色の薔薇は、他でもないユーリス本人が選び世話をしている薔薇で、花が咲くたびに息子と夫の瞳のようだと喜んでいることを使用人たちの全員が知っていた。
そんな薔薇園の中で、仲睦まじげにお茶をする一組の夫夫の姿があった。
二歳半をすぎたミハエルは、庭を駆けまわっている。やんちゃな盛りの幼子に夫夫はそろそろ剣の鍛錬を、と話し合っているらしい。
お茶を飲む間も惜しいとばかりに手を握り合うふたりの姿を見て、オットーは微笑んだ。
当主の顔が無表情なのは、一年前と何も変わりがない。しかし、彼が幸せを噛みしめていることをオットーは知っている。よくよく見れば、ほんの少し、本当に分かりづらいけれどほんの少しだけ柔らかく笑んでいることも。
きっとそれは長く彼に仕えている者たちにしか分からないだろう。
けれども、オットーはこれも知っていた。隣で微笑むユーリスが、主の分かりにくいその笑顔を理解していることを。
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