過去の裏垢が同僚にバレて脅されたけど、思っていた展開と違います!

いとい乃衣

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 映画デート(島津が”デート”と言うからにはデートなんだろう)の翌朝。
 起き抜けに、ぼんやり昨日のことを思い出す。あいつの“リベンジ”って言葉は、やけに切羽詰まっていた。
 けど、あのあと結局日にちの話もしてねぇし――。
 なんだかスッキリしないまま、俺は過去一重い足取りで会社に向かった。

 同じ職場に、デートどころか一緒にトイレで抜き合いした相手がいる。その気まずさたるや、想像を絶する。
 裏垢バレした時点でなるだけ顔を合わせたくない相手だが、実際に触れあったとなればまた話は別だ。スーツの下を想像だけでなく、この手で暴き、暴かれた。
 そんな相手と、どんな顔をして会えばいいのか分からない。

(職場の奴は面倒だから絶対ヤダって思ってたのにな)

 万が一にでも、裏垢の過去もゲイであることも職場にバレたくない俺にとって、この関係は非常にリスキーだ。
 現時点で、最も都合の悪い男。
 それが島津なのは明らかなのに、完全に切り捨てられないのも事実。
 動画を握られているのは勿論、一番厄介なのは島津が俺のドタイプであることだ。
 あの男に弱味を握られ脅される――その状況を悪くないって思っちまう、自分の欲に抗えない。

(俺の趣味終わってんだろ)

 最悪、と吐き捨てて、社外エントランスをくぐる。
 行きかう同僚たちと笑顔で挨拶をかわし、乗り込んだエレベーターでばったり島津に出くわした。

「お、はよ」
「ああ、おはよう」
 ぎこちなく挨拶する俺と違って、島津は至っていつも通りだった。
 何も言わず俺の降りるフロアのボタンを押して、後から駆け込んでくる人を待つ。

(ムカつくくらい平然としてんな)

 あの時は、笑ったり焦ったり、怒ったり――表情がころころ変わって可愛かったのに。

(……って、可愛いってなんだよ)

 脳内お花畑になってそうな自分に、冷静なツッコミを入れる。

(だけど、俺の隣で不愛想なお前が色んな表情見せてくれた時、俺は――”特別”だって言われてる気がしたんだ)
 そんなの俺の、勝手な思い込みだろうけど。

「新名?」
「え? あ、別に、なんでもねぇよ」
 島津の顔をジッと見上げてしまっていたのを気づかれて、慌てて俯いた。その瞬間、なだれ込んで来た人の波に押されて、壁際で島津の胸に押しつけられる。
「ぐぇ……」 
「悪い、大丈夫か?」
「お、おう。平気」
 プライベートの時には匂わなかった、島津が営業用につけている香水がふわりと香る。厚い胸板越しに伝わる鼓動と、頬に触れる体温に、抑えつけていた昨日の熱が一気にぶり返す。
(この距離、ヤバいだろ)
 息を殺して、ドアが開くのを待つ。
 目的の階でポーンと音が鳴ってドアが開くと同時、俺は飛び出した。

「なんだこれ……」
 エレベーター乗っただけで、めちゃくちゃ疲れた。

 のろのろとデスクに向かい、パソコンを立ち上げたところで、スマホが震えた。
 通知画面には、ついさっき別れたばかりの島津の名前がある。

『昼は屋上集合で』

 その簡潔なメッセージ、思わず「はぁ!?」と声が出た。
 周囲の視線が一斉に集まって、俺は誤魔化すために愛想笑いで頭を下げた。

(マジで心臓に悪い!)

 デスクの下で、こそこそ返信する。
『なんで?』
『昼飯、一緒に食べよう。弁当を作ってきたから』
『お前が?』
 うんうんと頷く顔文字に、うっかり和む。
 ……いや、そういう問題じゃねぇな。
 昼を一緒にって、どういうつもりだ。
 エレベーターの中で、ちょっと顔を合わせた程度でこの疲労感だ。 
 昼休憩の間中、ずっと一緒だなんて冗談じゃない。

 俺たちは元々、社内での接点ゼロ。いきなりつるみ出したら、どう考えても怪しいだろ。しかも俺も島津も、目立つ方だ。こんなの、噂好きの女子社員たちの恰好の餌じゃねぇか。

『ご遠慮いたします』

 クマのスタンプを添えて送ると、秒で既読がつく。
 流石営業の鏡。重大案件への即レスりょくが、なぜ今。

『来なかったらコレだ』

 そこに貼られた動画のサムネを見た瞬間、俺は「お前さぁ!」と思わず声に出して立ち上がってしまった。
 また、周りの視線が冷たく刺さる。

「なんでもないです。……ちょっと出てきまーす」
 今度こそ居心地が悪くなった俺は、そそくさとトイレに逃げ込んだ。
「クソッ、なんで俺がこんな目に!!」 
 改めて開いた島津との会話画面には、忌々しい例の動画が貼られていて、俺はギリギリと唇を噛んだ。  
 だから、お前その動画の使い方絶対間違ってるって。
 昼飯に誘う為に、ひとのエロ動画を使うな!

「仕方ない……行くか」

 しぶしぶ「了解しました」のスタンプを送ると同時に会話を閉じる。即座に通知欄に飛び出してきたニコニコスタンプには、意地でも既読をつけなかった。
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