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ガテン系ノンデリ男×年下陽キャリーマン
お題「冬」「コート」
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くあ、っと欠伸一つして陽平は煙草に火を着けた。
眠気でぼんやりとした視界の端では、智也が陽平の部屋のクローゼットをひっくり返しながら、あれでもない、これでもないと中身を床に放り投げている。
(ぐちゃぐちゃにしやがって、後で片付けんのは誰だと思ってんだ)
言葉には出さず、舌打ちだけに留めたのは勿論眠いせいもあるのだが、この事態が少なからず自分のせいだという自覚もあるからだ。
「あーもうッ! なんで陽平さんの服ってツナギしかないんすか!」
イライラと髪の毛をかきむしり、智也が喚いた。陽平はそれをちらりと薄目で見やりながら、けだるい口を開く。
「だから言ってんだろ。いつもの格好でいいって」
「駄目っすよ! 今日はちょっと早めにクリスマスデートするって約束だったじゃないすか! いつものツナギなんてあんまりすぎる」
べそをかく智也に、ハアとため息交じりに煙草で灰皿を叩く。
陽平は建設現場で働く作業員で、智也は陽平の所属する建設会社の一般社員だ。陽平の現場の監督として派遣されたエリート社員の手伝いでくっついて来ていた智也に、妙に懐かれて付き合い始めたのが一年前。
あっちこっち現場が移動する陽平と、新卒で入ったばかりでまだ業務の何たるかも分かっていない智也のするデートと言えば、忙しい合間を縫って仕事帰りに近場の店で待ち合わせて飲み食いしてから、どちらかの家に転がり込む程度。
当然、お洒落なんてしたこともないし、陽平は大体は作業着のままで智也とのデートにやって来ていた。
今回もそれでいいだろうと思っていたら、どうやら違ったらしい。
(ツナギの陽平さんもカッコいい~! なんつってたのは、どこのどいつだよ?)
陽平が面倒くさそうに眉を顰めたのを見て、陽平の言いたいことに大体の察しはついたのだろう。
智也はそれすら心得ているという風に頷いて、
「いつもの陽平さんに不満がある訳じゃないっすよ? でもたまには、こう……雰囲気のいいレストランで食事して、それからホテルとか、大人のスマートなデートってやつをですね」
なんて、うっとりと言う。
「ホテルねぇ……」
智也がドラマに出て来るみたいな高級ホテルのスイートルームを思い浮かべている一方で、陽平の頭にはド派手なネオンが輝くラブホの外観しか浮かんでいないのだから、元々話が上手く進むはずなんてないのだ。
「てか、お前こそ大していつもと変わんねーだろ」
陽平と違っていつもスーツの智也こそ、普段とどう違うのか陽平にはよく分からない。例えば仕立てのいいスーツだとか、流行のスリーピースだとか言われても、陽平からすればスーツはスーツだ。
とは言え、智也の今日の服装は、実際コート以外はほぼ普段通りだったらしい。どうりで見たことある色合いのスーツに、新品らしく肩から袖先までピシっとしたコートが浮いていると思った。
「あーやっぱ分かります? だって、そんな高ぇスーツとか俺が買える訳ないじゃないっすか。まだ入社二年っすよ?」
「それでも社員さんはそこそこ稼ぎいいんじゃねえの?」
「ンな訳ないじゃないっすか。陽平さんのイジワル」
いよいよ拗ね始めた智也を笑って、だからいつも通りでいいのに、と陽平は思う。
いつも通り、コンビニでおでんとワンカップ買って、陽平の狭いアパートで智也とこたつに潜り込む。ピカピカの夜景も気取ったメニューも要らない。
智也がいる。それだけで、いいのに。
「あーあ……陽平さんのスーツ姿とかさ、ラフなおでかけスタイルとかさ」
愚痴っぽい呟きは止まらぬまま、智也は陽平のすぐ傍にしゃがみ込んだ。
ワンルームの畳の隅で、煙草をふかしながら適当に足を投げ出していた陽平の大腿に、智也はごく自然に触れる。陽平は煙草の先を灰皿に押し付けると、智也の手を掴んで取り押さえた。
そのまま、じゃれ合うように合わせた智也の唇が、不満げに尖っている。
「あーあ……いつもとちょっと違う雰囲気の陽平さんが見てみたかったのになぁ」
心底がっかりしたという風に悲しげに瞳を揺らした智也に、この程度のことで大げさなんだよ、と鼻で笑ってやりたい気持ちと同じだけ、ああそんなに俺のことで一喜一憂してしまうのか、と若さが眩しくてどうにも甘やかしてやりたくなった。
「智也」
離れろと言う意味で軽く肩を押せば、あっさりと智也は身を引いた。興が冷めているのか、それとも予定が崩れてこれからどうしたらいいのか決めかねているのか。煮え切らない表情の智也の、中身のスーツとはちぐはぐにずっしりと質の良さそうなコートの端を強引に引っ張った。
「脱げ」
「……は?」
「いいから」
「ちょ……なんすか! 今からヤルの? イヤではないっすけど……あの、デートは?」
「うるせぇ、黙れ! ヤんねぇよ」
僅かな抵抗を見せる智也からコートを剥ぎ取って、陽平はそれをパンッと広げて見せる。身長こそ智也と陽平はそうは変わらないが、力仕事なだけあって陽平の方が厚みのある身体をしている。
しかし、パッと見で目算した通り、智也にはやや大きめに見えたそれは――あれでいて計算高いところもあるので萌え袖を狙ったのか、たまたまサイズの合うのが無かったのかはわからないが――陽平が着たところで、特に問題はなかった。
「よし」
満足げに頷いた陽平がようやく智也の方を振り返れば、智也はぽかんと口を開けた間抜けな顔で陽平を見ていた。
「――陽平さん……?」
ようやく零れた掠れたような声に、陽平は「なんて顔してやがんだよ」と笑う。
「これ、今だけ貸しとけ。そんでお前はあれな。小汚くて悪いけど、俺のダウン着とけ」
「……はい?」
困惑する智也をよそに、陽平は智也がぐちゃぐちゃにしてしまったクローゼットの中からダウンを取り出すと、智也のスーツの上からかけてやる。そこまでしてやってから、やっと陽平の意図に頭が追いついて来たのか、のろのろと智也がダウンの袖に腕を通す。
「ふは、なんつーか、あれだな。お前、ダウンに着られてんな」
やはり陽平の服の方がワンサイズデカいのか、ダボっとしたダウンの中に智也は埋もれ気味になっている。
「陽平さん……ガタイいいし、悔しいけど俺よりそのコート似合ってますね。サイズぴったりだし。まぁ、下を見なければの話っすけど」
長めのコートとは言え、流石に足が出る。黒の上質のコートの切れ間から、グレーのスウェットが覗いているのはなんとも言えない残念さだ。
「……並ぶとシュールっすね……」
玄関先で姿見の前に立つと、何とも言えない空気が漂う。お互いの姿のちぐはぐ感が凄まじい上に、なんだかこれでは無駄に目立ってしまいそうな気がする。
それでも。
「まぁいいだろ。コンビニ行こうぜ。腹減った」
「おでん飽きたから今日は肉まんにしましょ! それと動画で見たんすけど、話題になってる冷凍ラーメンがあって――」
不格好な二人のシルエットが寄り添って、街灯に照らされながらコンビニを目指す。
「陽平さん、今あれっすよ。俺ら、憧れの彼コートってやつっすよ」
さっきまで、大人のスマートなクリスマスデートだの何だの言ってベソかいてたくせに、もうすっかりご機嫌だ。
「お前って、ほんと安上がりだなぁ」
「あっ! また俺のこと馬鹿にしました?」
「してねぇよ」
ただ愛されてんな、って思った。
眠気でぼんやりとした視界の端では、智也が陽平の部屋のクローゼットをひっくり返しながら、あれでもない、これでもないと中身を床に放り投げている。
(ぐちゃぐちゃにしやがって、後で片付けんのは誰だと思ってんだ)
言葉には出さず、舌打ちだけに留めたのは勿論眠いせいもあるのだが、この事態が少なからず自分のせいだという自覚もあるからだ。
「あーもうッ! なんで陽平さんの服ってツナギしかないんすか!」
イライラと髪の毛をかきむしり、智也が喚いた。陽平はそれをちらりと薄目で見やりながら、けだるい口を開く。
「だから言ってんだろ。いつもの格好でいいって」
「駄目っすよ! 今日はちょっと早めにクリスマスデートするって約束だったじゃないすか! いつものツナギなんてあんまりすぎる」
べそをかく智也に、ハアとため息交じりに煙草で灰皿を叩く。
陽平は建設現場で働く作業員で、智也は陽平の所属する建設会社の一般社員だ。陽平の現場の監督として派遣されたエリート社員の手伝いでくっついて来ていた智也に、妙に懐かれて付き合い始めたのが一年前。
あっちこっち現場が移動する陽平と、新卒で入ったばかりでまだ業務の何たるかも分かっていない智也のするデートと言えば、忙しい合間を縫って仕事帰りに近場の店で待ち合わせて飲み食いしてから、どちらかの家に転がり込む程度。
当然、お洒落なんてしたこともないし、陽平は大体は作業着のままで智也とのデートにやって来ていた。
今回もそれでいいだろうと思っていたら、どうやら違ったらしい。
(ツナギの陽平さんもカッコいい~! なんつってたのは、どこのどいつだよ?)
陽平が面倒くさそうに眉を顰めたのを見て、陽平の言いたいことに大体の察しはついたのだろう。
智也はそれすら心得ているという風に頷いて、
「いつもの陽平さんに不満がある訳じゃないっすよ? でもたまには、こう……雰囲気のいいレストランで食事して、それからホテルとか、大人のスマートなデートってやつをですね」
なんて、うっとりと言う。
「ホテルねぇ……」
智也がドラマに出て来るみたいな高級ホテルのスイートルームを思い浮かべている一方で、陽平の頭にはド派手なネオンが輝くラブホの外観しか浮かんでいないのだから、元々話が上手く進むはずなんてないのだ。
「てか、お前こそ大していつもと変わんねーだろ」
陽平と違っていつもスーツの智也こそ、普段とどう違うのか陽平にはよく分からない。例えば仕立てのいいスーツだとか、流行のスリーピースだとか言われても、陽平からすればスーツはスーツだ。
とは言え、智也の今日の服装は、実際コート以外はほぼ普段通りだったらしい。どうりで見たことある色合いのスーツに、新品らしく肩から袖先までピシっとしたコートが浮いていると思った。
「あーやっぱ分かります? だって、そんな高ぇスーツとか俺が買える訳ないじゃないっすか。まだ入社二年っすよ?」
「それでも社員さんはそこそこ稼ぎいいんじゃねえの?」
「ンな訳ないじゃないっすか。陽平さんのイジワル」
いよいよ拗ね始めた智也を笑って、だからいつも通りでいいのに、と陽平は思う。
いつも通り、コンビニでおでんとワンカップ買って、陽平の狭いアパートで智也とこたつに潜り込む。ピカピカの夜景も気取ったメニューも要らない。
智也がいる。それだけで、いいのに。
「あーあ……陽平さんのスーツ姿とかさ、ラフなおでかけスタイルとかさ」
愚痴っぽい呟きは止まらぬまま、智也は陽平のすぐ傍にしゃがみ込んだ。
ワンルームの畳の隅で、煙草をふかしながら適当に足を投げ出していた陽平の大腿に、智也はごく自然に触れる。陽平は煙草の先を灰皿に押し付けると、智也の手を掴んで取り押さえた。
そのまま、じゃれ合うように合わせた智也の唇が、不満げに尖っている。
「あーあ……いつもとちょっと違う雰囲気の陽平さんが見てみたかったのになぁ」
心底がっかりしたという風に悲しげに瞳を揺らした智也に、この程度のことで大げさなんだよ、と鼻で笑ってやりたい気持ちと同じだけ、ああそんなに俺のことで一喜一憂してしまうのか、と若さが眩しくてどうにも甘やかしてやりたくなった。
「智也」
離れろと言う意味で軽く肩を押せば、あっさりと智也は身を引いた。興が冷めているのか、それとも予定が崩れてこれからどうしたらいいのか決めかねているのか。煮え切らない表情の智也の、中身のスーツとはちぐはぐにずっしりと質の良さそうなコートの端を強引に引っ張った。
「脱げ」
「……は?」
「いいから」
「ちょ……なんすか! 今からヤルの? イヤではないっすけど……あの、デートは?」
「うるせぇ、黙れ! ヤんねぇよ」
僅かな抵抗を見せる智也からコートを剥ぎ取って、陽平はそれをパンッと広げて見せる。身長こそ智也と陽平はそうは変わらないが、力仕事なだけあって陽平の方が厚みのある身体をしている。
しかし、パッと見で目算した通り、智也にはやや大きめに見えたそれは――あれでいて計算高いところもあるので萌え袖を狙ったのか、たまたまサイズの合うのが無かったのかはわからないが――陽平が着たところで、特に問題はなかった。
「よし」
満足げに頷いた陽平がようやく智也の方を振り返れば、智也はぽかんと口を開けた間抜けな顔で陽平を見ていた。
「――陽平さん……?」
ようやく零れた掠れたような声に、陽平は「なんて顔してやがんだよ」と笑う。
「これ、今だけ貸しとけ。そんでお前はあれな。小汚くて悪いけど、俺のダウン着とけ」
「……はい?」
困惑する智也をよそに、陽平は智也がぐちゃぐちゃにしてしまったクローゼットの中からダウンを取り出すと、智也のスーツの上からかけてやる。そこまでしてやってから、やっと陽平の意図に頭が追いついて来たのか、のろのろと智也がダウンの袖に腕を通す。
「ふは、なんつーか、あれだな。お前、ダウンに着られてんな」
やはり陽平の服の方がワンサイズデカいのか、ダボっとしたダウンの中に智也は埋もれ気味になっている。
「陽平さん……ガタイいいし、悔しいけど俺よりそのコート似合ってますね。サイズぴったりだし。まぁ、下を見なければの話っすけど」
長めのコートとは言え、流石に足が出る。黒の上質のコートの切れ間から、グレーのスウェットが覗いているのはなんとも言えない残念さだ。
「……並ぶとシュールっすね……」
玄関先で姿見の前に立つと、何とも言えない空気が漂う。お互いの姿のちぐはぐ感が凄まじい上に、なんだかこれでは無駄に目立ってしまいそうな気がする。
それでも。
「まぁいいだろ。コンビニ行こうぜ。腹減った」
「おでん飽きたから今日は肉まんにしましょ! それと動画で見たんすけど、話題になってる冷凍ラーメンがあって――」
不格好な二人のシルエットが寄り添って、街灯に照らされながらコンビニを目指す。
「陽平さん、今あれっすよ。俺ら、憧れの彼コートってやつっすよ」
さっきまで、大人のスマートなクリスマスデートだの何だの言ってベソかいてたくせに、もうすっかりご機嫌だ。
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