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ノンケの同僚に恋してる話
お題「借り物」「香り」
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「ただいま戻りました~」
ずぶ濡れのままこじんまりとした事務所のドアを開けると、受付の野上さんがギョっと目を見開いた。
「あらまあ、加納くんもやられたのね」
「駅についた時は小降りだったんですけどね」
いい天気だからと営業先を回って、ちょっとス○バ休憩取ったのがいけなかったのかもしれない。最寄り駅についた時点では、どうにか傘なしで歩けるレベルだったが、事務所の入っているビルが見える頃には酷い有様だった。
雷は鳴るわ、風は吹くわの大騒ぎで、挙句の果てに大粒の雨に横殴りにされて、あっと言う間に下着までぐっしょりのずぶ濡れになってしまった。あれは傘をさしていたところで、ダメだったと思う。
「ん? ……加納くん”も”って?」
「ゲリラ豪雨ってやつかしら。宮野くんもついさっき戻って来てね。同じくずぶ濡れだったわよ」
「アイツ、俺の後から出たくせに、何先に戻ってんだよ」
チっと舌打ちをすれば、相変わらず仲悪いわねえ、なんて野上さんがケラケラと笑う。
宮野はこの小さな設計事務所で唯一の同年代の男で、何かとソリの合わない男だ。俺が奴を嫌う理由は三つある。
一つ、俺より背が高くて女にモテる。
二つ、毎回俺よりデカイ仕事を持ってくる。
三つ、めちゃくちゃ俺好みの顔してる。
(正直、抱かれたいんだよなあ)
俺はノンケのはずだったのだが、アイツだけは例外だ。新入社員の歓迎会の時、肩が触れあう距離で飲んだ時からずっと思ってる。
――骨ばったデッカイ手で、鳥の小骨むしってたあの指で、俺の身体に触れて欲しい。
「そのまま座らないでね。ソファが濡れるから」
「はぁ? じゃあどうしろっての」
「これ」
ズイっと野上さんに押し付けられたのは、明らかに使った形跡のあるバスタオルだ。生乾きの匂いがしていないだけマシではあるが、それでも清潔感には欠ける。
「……コレ、誰が使ったんすか」
「だから、宮野くん」
「うぇ」
ちょっと考えれば当然だった。俺の少し前に戻ったというアイツは、既に奥のデスクで作業に入っている。
しぶしぶ渡されたタオルで濡れた髪を拭いていると、ぶえっくしょい、とくしゃみが出る。
「う゛ー……寒ぃ」
ずび、っと鼻をすすって、身体を擦る。季節は春先と言っても、濡れた衣服に熱を奪われては、流石に冷えを感じる。
「あ、これいいじゃん」
ソファの横に脱ぎ捨ててあったパーカーを手に取って上から羽織る。と、肌寒さは少し和らいだが、なんだかずっしりと重みを感じる。
「なにこれ誰の。結構濡れてんだけど……」
「だから、宮野くん」
「――って、またアイツかよ!!」
口では文句を言いながら、俺はファスナーを上げて、しっかりそれを着込むとソファに腰かけた。アイツの残り香でも嗅いでやろうかと深く息を吸うと、やたらとヤニ臭い。
(コイツまさか、営業じゃなくてパチ屋行って来たんじゃねえだろうな!?)
やたらと仕事を取って来るくせに、不真面目なのがまた宮野の腹の立つところだ。適度にサボり、だらしがなく、それでいて仕事は出来る。クソ真面目に営業かけてる俺に対する当てつけかっての。
「ほんと、ムカつくわ」
「まったく……それ借りる気なら、ちゃんと宮野くんに言っておきなさいよ」
「へーい」
俺と野上さんがドア前で、宮野の話題で騒ぎ散らしていると言うのに、火中の宮野はと言えばそしらぬ顔で視線ひとつ寄越さないのだから恐れ入る。絶対聞こえてんだろ。
「宮野ー! これ借りる」
無視されないように俺が声を張り上げると、ようやく宮野がこっちを向いた。
天然パーマの前髪の隙間から、整ったバランスに配置された細い目が俺を一瞥する。悔しいことにそれだけで、ぶわりと体温が上がる。
「あー……ちょっと待って」
てっきり頷かれるだけだと思っていた俺は、宮野から別の反応があったことに驚く。
宮野は席を立つと、そのままのっそりとこっちにやって来た。図体がデカイから、近くに来られると無意識に緊張する。
「な、なんだよ……」
「それ、濡れてるし、煙草臭いでしょ」
そう言って、おもむろに俺からパーカーを剥ぎ取ると、代わりに宮野が着ていた春物のニットカーディガンを俺の肩にかける。
「へ……なに?」
「俺は何かあった時の為に予備の服ロッカーに入れてるからさ。さっきそれに着替えたの。今はもう俺は寒くないし、お前に貸してやる」
いきなりのことに呆然とする俺に要件だけ言って、宮野はまた気だるい足取りで自分の席に戻っていった。
「はぁ……流石宮野くんは顔だけじゃなくて、やることもイケメンさんよねぇ」
なんて、齢50歳のベテラン受付嬢の野上さんでさえ、まるで乙女のように頬を染め、ほう、と息をつく。
「いや、パチ屋行ってたのバレたくないだけでしょ」
そんな悪態をつきながらカーディガンに袖を通すと、今度こそ宮野の匂いがした。安っぽい柔軟剤の香りは、俺が近所で買ってるのと同じで、俺は仕事帰りに無駄にその詰め替え用を2パック買って帰ったのだった。
ずぶ濡れのままこじんまりとした事務所のドアを開けると、受付の野上さんがギョっと目を見開いた。
「あらまあ、加納くんもやられたのね」
「駅についた時は小降りだったんですけどね」
いい天気だからと営業先を回って、ちょっとス○バ休憩取ったのがいけなかったのかもしれない。最寄り駅についた時点では、どうにか傘なしで歩けるレベルだったが、事務所の入っているビルが見える頃には酷い有様だった。
雷は鳴るわ、風は吹くわの大騒ぎで、挙句の果てに大粒の雨に横殴りにされて、あっと言う間に下着までぐっしょりのずぶ濡れになってしまった。あれは傘をさしていたところで、ダメだったと思う。
「ん? ……加納くん”も”って?」
「ゲリラ豪雨ってやつかしら。宮野くんもついさっき戻って来てね。同じくずぶ濡れだったわよ」
「アイツ、俺の後から出たくせに、何先に戻ってんだよ」
チっと舌打ちをすれば、相変わらず仲悪いわねえ、なんて野上さんがケラケラと笑う。
宮野はこの小さな設計事務所で唯一の同年代の男で、何かとソリの合わない男だ。俺が奴を嫌う理由は三つある。
一つ、俺より背が高くて女にモテる。
二つ、毎回俺よりデカイ仕事を持ってくる。
三つ、めちゃくちゃ俺好みの顔してる。
(正直、抱かれたいんだよなあ)
俺はノンケのはずだったのだが、アイツだけは例外だ。新入社員の歓迎会の時、肩が触れあう距離で飲んだ時からずっと思ってる。
――骨ばったデッカイ手で、鳥の小骨むしってたあの指で、俺の身体に触れて欲しい。
「そのまま座らないでね。ソファが濡れるから」
「はぁ? じゃあどうしろっての」
「これ」
ズイっと野上さんに押し付けられたのは、明らかに使った形跡のあるバスタオルだ。生乾きの匂いがしていないだけマシではあるが、それでも清潔感には欠ける。
「……コレ、誰が使ったんすか」
「だから、宮野くん」
「うぇ」
ちょっと考えれば当然だった。俺の少し前に戻ったというアイツは、既に奥のデスクで作業に入っている。
しぶしぶ渡されたタオルで濡れた髪を拭いていると、ぶえっくしょい、とくしゃみが出る。
「う゛ー……寒ぃ」
ずび、っと鼻をすすって、身体を擦る。季節は春先と言っても、濡れた衣服に熱を奪われては、流石に冷えを感じる。
「あ、これいいじゃん」
ソファの横に脱ぎ捨ててあったパーカーを手に取って上から羽織る。と、肌寒さは少し和らいだが、なんだかずっしりと重みを感じる。
「なにこれ誰の。結構濡れてんだけど……」
「だから、宮野くん」
「――って、またアイツかよ!!」
口では文句を言いながら、俺はファスナーを上げて、しっかりそれを着込むとソファに腰かけた。アイツの残り香でも嗅いでやろうかと深く息を吸うと、やたらとヤニ臭い。
(コイツまさか、営業じゃなくてパチ屋行って来たんじゃねえだろうな!?)
やたらと仕事を取って来るくせに、不真面目なのがまた宮野の腹の立つところだ。適度にサボり、だらしがなく、それでいて仕事は出来る。クソ真面目に営業かけてる俺に対する当てつけかっての。
「ほんと、ムカつくわ」
「まったく……それ借りる気なら、ちゃんと宮野くんに言っておきなさいよ」
「へーい」
俺と野上さんがドア前で、宮野の話題で騒ぎ散らしていると言うのに、火中の宮野はと言えばそしらぬ顔で視線ひとつ寄越さないのだから恐れ入る。絶対聞こえてんだろ。
「宮野ー! これ借りる」
無視されないように俺が声を張り上げると、ようやく宮野がこっちを向いた。
天然パーマの前髪の隙間から、整ったバランスに配置された細い目が俺を一瞥する。悔しいことにそれだけで、ぶわりと体温が上がる。
「あー……ちょっと待って」
てっきり頷かれるだけだと思っていた俺は、宮野から別の反応があったことに驚く。
宮野は席を立つと、そのままのっそりとこっちにやって来た。図体がデカイから、近くに来られると無意識に緊張する。
「な、なんだよ……」
「それ、濡れてるし、煙草臭いでしょ」
そう言って、おもむろに俺からパーカーを剥ぎ取ると、代わりに宮野が着ていた春物のニットカーディガンを俺の肩にかける。
「へ……なに?」
「俺は何かあった時の為に予備の服ロッカーに入れてるからさ。さっきそれに着替えたの。今はもう俺は寒くないし、お前に貸してやる」
いきなりのことに呆然とする俺に要件だけ言って、宮野はまた気だるい足取りで自分の席に戻っていった。
「はぁ……流石宮野くんは顔だけじゃなくて、やることもイケメンさんよねぇ」
なんて、齢50歳のベテラン受付嬢の野上さんでさえ、まるで乙女のように頬を染め、ほう、と息をつく。
「いや、パチ屋行ってたのバレたくないだけでしょ」
そんな悪態をつきながらカーディガンに袖を通すと、今度こそ宮野の匂いがした。安っぽい柔軟剤の香りは、俺が近所で買ってるのと同じで、俺は仕事帰りに無駄にその詰め替え用を2パック買って帰ったのだった。
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