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第1章:俺の平穏、事故チューで終了
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俺の好きなラノベや漫画の世界では、平凡な男のもとに空から舞い降りて来るのはだいたい超絶可愛い美少女だ。
だから俺は、少しだけ期待してしまったのかもしれない。
腕の中に飛び込んで来た体躯が多少ガッシリしていようと、足を踏ん張ることも出来ず、吹っ飛ばされた四肢が痛もうと——触れた唇の柔らかさに、ああきっとこれは恋の始まりなのだと。
階段の踊り場の冷えた壁の感触と、背中に鈍い痛みが走った。
ガツン、と前歯が固いモノに当たった気がしたのは、どうやら現実だったらしい。
口いっぱいに、鉄の味がじわりと広がる。
「痛って……大丈夫か?」
反射で抱きとめた相手の顔を見た俺は、瞬時に血の気が引いた。
――吉沢 潤。
同じクラスのモテ男で、その容姿はさながら少女漫画の王子様。
クラス内どころか学年、いや学校中からもてはやされている存在だ。
地毛だという、色素薄めの柔らかそうな髪。自信に満ち溢れた意思の強そうな瞳。
高校生男子にしては美意識高く手入れされた眉と、ニキビ跡一つ見当たらない、美しい肌艶。
まるで欠点の見当たらない容姿は、確かに漫画じみている。
その吉沢が、昼休みが終わる寸前、最も人が行き交う時間帯に、俺の腕の中にいる。
つまり、最悪のタイミングだ。
「「ぎゃー!!!」」
悲鳴だか歓声だか分からない甲高い声が、周囲の空気を震わせた。
スマホが一斉に掲げられる様は、まるで有名人の熱愛現場だ。
吉沢に関する出来事は、校舎裏の野良猫に餌をやったってだけで話題になるくらいだ。
ましてキスなんて、昼休み明けには全員の耳に入っているだろう。
「ちょっと待て、今のは——」
これは事故です。単なる事故。
頼むから騒ぐな、愚民ども。
「待って、チューしたんだけど!」
「吉沢くんの相手、誰!? あのジメ男!?」
はい出ました、俺の不名誉な渾名。
見た目が暗くて陰気、湿度高めのジメジメ男子だからって、そのまんま「ジメ男」。その名付け親は他でもない吉沢、お前だよ。この天然王子様。
吉沢の性格は、よく言えば天真爛漫、悪く言えば傲慢で高飛車。
幼い頃からチヤホヤされて育ったのだろう、思ったことがすぐ口に出るタイプだ。
俺も一度、その洗礼を受けたことがある。
背の高さだけで体育祭の応援団に選ばれそうになり、目立つのが嫌でのらりくらりと断っていた時だ。
隣の隣の席から吉沢が一言。
「ジメジメと鬱陶しい奴だ。やりたくないならハッキリ言えばいい!」
まさに鶴の一声。教室はシンと静まり返り、その話はそれきりになった。
以降、体育会系の部活からの勧誘は一切なくなったが、その代わりクラス内で「ジメ男」の名が定着したのは迷惑極まりない。
おかげさまで、俺のスクールライフは日陰街道爆走中だ。
確かに隠れオタの俺は注目されるのが嫌だし、どちらかと言えば放っておいて欲しい。だが、ここまでとは言ってない。
ふざけるな。俺には中村一也という立派な名前があるんだ。
身長183センチ、ド陰キャ、趣味はラノベとゲーム。
好きなジャンルは異世界転生のハーレム物で、一番好きなタイトルは『異世界転生した俺、100人の悪役令嬢に愛されて人生バラ色な件』。
中でも、普段は何があっても無表情を貫く絶対零度の美少女が、主人公の前では分かりやすくデレる。そんな、クーデレ系エルフのアルルが最推しだ。
リアル女子の攻略法は未実装ながら、可愛い彼女と放課後の制服デートは普通に夢見たっていいだろ!
……それが健全な男子高校生ってやつだ。
だから俺は、少しだけ期待してしまったのかもしれない。
腕の中に飛び込んで来た体躯が多少ガッシリしていようと、足を踏ん張ることも出来ず、吹っ飛ばされた四肢が痛もうと——触れた唇の柔らかさに、ああきっとこれは恋の始まりなのだと。
階段の踊り場の冷えた壁の感触と、背中に鈍い痛みが走った。
ガツン、と前歯が固いモノに当たった気がしたのは、どうやら現実だったらしい。
口いっぱいに、鉄の味がじわりと広がる。
「痛って……大丈夫か?」
反射で抱きとめた相手の顔を見た俺は、瞬時に血の気が引いた。
――吉沢 潤。
同じクラスのモテ男で、その容姿はさながら少女漫画の王子様。
クラス内どころか学年、いや学校中からもてはやされている存在だ。
地毛だという、色素薄めの柔らかそうな髪。自信に満ち溢れた意思の強そうな瞳。
高校生男子にしては美意識高く手入れされた眉と、ニキビ跡一つ見当たらない、美しい肌艶。
まるで欠点の見当たらない容姿は、確かに漫画じみている。
その吉沢が、昼休みが終わる寸前、最も人が行き交う時間帯に、俺の腕の中にいる。
つまり、最悪のタイミングだ。
「「ぎゃー!!!」」
悲鳴だか歓声だか分からない甲高い声が、周囲の空気を震わせた。
スマホが一斉に掲げられる様は、まるで有名人の熱愛現場だ。
吉沢に関する出来事は、校舎裏の野良猫に餌をやったってだけで話題になるくらいだ。
ましてキスなんて、昼休み明けには全員の耳に入っているだろう。
「ちょっと待て、今のは——」
これは事故です。単なる事故。
頼むから騒ぐな、愚民ども。
「待って、チューしたんだけど!」
「吉沢くんの相手、誰!? あのジメ男!?」
はい出ました、俺の不名誉な渾名。
見た目が暗くて陰気、湿度高めのジメジメ男子だからって、そのまんま「ジメ男」。その名付け親は他でもない吉沢、お前だよ。この天然王子様。
吉沢の性格は、よく言えば天真爛漫、悪く言えば傲慢で高飛車。
幼い頃からチヤホヤされて育ったのだろう、思ったことがすぐ口に出るタイプだ。
俺も一度、その洗礼を受けたことがある。
背の高さだけで体育祭の応援団に選ばれそうになり、目立つのが嫌でのらりくらりと断っていた時だ。
隣の隣の席から吉沢が一言。
「ジメジメと鬱陶しい奴だ。やりたくないならハッキリ言えばいい!」
まさに鶴の一声。教室はシンと静まり返り、その話はそれきりになった。
以降、体育会系の部活からの勧誘は一切なくなったが、その代わりクラス内で「ジメ男」の名が定着したのは迷惑極まりない。
おかげさまで、俺のスクールライフは日陰街道爆走中だ。
確かに隠れオタの俺は注目されるのが嫌だし、どちらかと言えば放っておいて欲しい。だが、ここまでとは言ってない。
ふざけるな。俺には中村一也という立派な名前があるんだ。
身長183センチ、ド陰キャ、趣味はラノベとゲーム。
好きなジャンルは異世界転生のハーレム物で、一番好きなタイトルは『異世界転生した俺、100人の悪役令嬢に愛されて人生バラ色な件』。
中でも、普段は何があっても無表情を貫く絶対零度の美少女が、主人公の前では分かりやすくデレる。そんな、クーデレ系エルフのアルルが最推しだ。
リアル女子の攻略法は未実装ながら、可愛い彼女と放課後の制服デートは普通に夢見たっていいだろ!
……それが健全な男子高校生ってやつだ。
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