事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

文字の大きさ
5 / 37
第2章:俺の日常、吉沢に完全ジャックされて終了

1

しおりを挟む
 俺の予感は的中し、事故チュー騒動から一夜明け、俺の日常は一変した。
 廊下を逃げ回る俺と、その後を追う吉沢。そしてその吉沢を追いかける野次馬たち。授業の合間に、意味不明な集団が校内を右往左往している。

 朝、校門で待ち伏せされたのを皮切りに、今の今まで一瞬たりとも気が抜けない。
 移動教室の途中でも追いかけられ、流石の俺も息切れしてきた。
 元々、体育の授業以外はロクに動かず、家に帰れば引きこもって推し活三昧。
 男子高校生らしいまともな体力なんて、最初からない。

「あーもう、しつけ~!!」
 逃げ疲れた俺は、吉沢の腕を掴んで廊下の壁に押しつけた。
「きゃー」という悲鳴まがいの歓声と、シャッター音がワンセットで飛んでくる。

「お前どこまで付け回すんだ! いい加減にしろ!」
 肩を怒らせ、上から睨みつける。

 吉沢の身長は、女子たちがSNSにばら撒いていた情報によれば174センチ。俺より十センチ近く低い。だから、こうして壁際に押し込んじまえば、巨体に見下ろされる恐怖を感じるはず。

「な……中村……?」
 声を震わせ、俺の腕の中にすっぽり納まる吉沢。
 やっと大人しくなったか、とホッとしかけたところで――。

「いきなり壁ドンしてくるとは、お前なかなかやるな! キスのシチュエーションとして最高だ!」
「はぁ?」
「さあ、多少強引でもいい! ひと思いにやってくれ!」

 そっと目を閉じ、渾身のキス待ち顔を向けてくる吉沢。
 吉沢が背伸びをしたせいで、ほんの数センチまで近づいた距離。

 ──おい、この身長差……雑誌の「理想のカップル特集」にそのまま載るやつじゃねえか。
 そんなこと、今この状況で気づきたくなかった。

 長い睫毛の影が肌に落ち、薄く開いた唇がかすかに震えている。
 俺なら確実に間抜け顔になるはずの唇の突き出し方が、吉沢の顔面だとやけに絵になる。
 ……やべぇ。不覚にもちょっと可愛いって思っちまった。
 廊下のざわめきも、カメラのシャッター音も、今この瞬間だけ遠のいた。

 まるで吸い寄せられるように身を屈めた俺の目と鼻の先。
 唇がくっつくまであと数ミリ、というところで。

「……って、アブねぇ! やらねーよ!」
「あ、待て。中村! 逃げるな!」

 甘いシャンプーの匂いが鼻先にまとわりつき、離れない。
 そのまま引きずられそうになる心を、邪念ごと振り払うように腕を放し、俺は再び廊下を走り出す。

「こらー! 何遊んでるんだ! 廊下は走るな! 中村~!」
 通りすがりの教師の怒声が響く。
 こないだはヤマセン(山本先生)で、今回はタニセン(谷口先生)。

 ――だからなんで、俺の方を叱るんですか先生。
 俺より目立ってるのがいるでしょ、後ろに。
 世の中は理不尽に満ちている。

 さっき間近で見た、珍しくしおらしい吉沢のキス待ち顔が、妙に忘れられない。
 もしかして、アイツちょっと緊張してた?

(マズい……この調子じゃ、逃げ切れる気がしねぇ)  

 確実に、俺の日常は吉沢に侵食され始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

処理中です...