事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第6章:王子とオタクの境界線、秘密解禁とすれ違いの夜

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 ……なんか涼しい。
 優しく頬を撫でる風に誘われて、俺は重い瞼を押し上げた。
 ぼんやりとした視界に真っ先に飛び込んできたのは、吉沢のやけに心配そうな顔だった。

 普段は気の強そうな顔してるくせに、今は眉が下がってしょぼくれた表情が新鮮だ。
「はは、何その顔……すっげーかわい……」

「――っ! 良枝よしえさん、一也くんが!」
 慌てて母さんを呼ぶ吉沢。
 てかいつの間に母さんを名前呼びしてんだよ。
 俺だって今日やっと名前で呼んでもらったばっかだぞ。
 まあ俺んちだと皆中村だし、便宜上ってやつだな。 

「んー? 起きたの? もーあんた、びっくりさせるんじゃないわよ」
 吉沢の必死な声に比べて、母さんはやけにのんびりしてる。
 俺が階段駆け下りて風呂場にダイブしてたのは家中にバレてるっぽい。
 どうせ「風呂で浮かれてのぼせた」って思ってるんだろうけど、違うんだよ。
 悩みすぎて倒れたんだって! ここ超重要な違い。

「良枝さん、もう少し安静にさせた方がイイ」
「ちょっとのぼせただけでしょ。大丈夫よ」
「いや、目覚めた時に意識の混濁が見られた」
「あら、そう……?」
「はい。俺の顔を見て可愛いとか――」

「うわああああああああああ!!!」
 思わず大声を上げて飛び起きた。
 どうやら俺は、部屋のベッドに寝かされていたらしい。
 お陰で、吉沢の為に整えたベッドがまた俺の匂いで上書きされてしまった。
 最悪だ。 

「もう大丈夫だから」
「そうか……?」
 まだ俺の顔をじっと見てくる吉沢の視線が、妙にくすぐったい。

「まったく人騒がせなんだから。アンタ、ちゃんと吉沢くんにお礼言いなさいよ。
 アンタが戻らないからってお風呂を見に行ってくれたお陰で、倒れてたって分かったんだから。」
「そうだったのか?」
 吉沢がコクリと頷いた。

 マジか……じゃあ俺の全裸、吉沢に見られたってことか。
 見苦しいモン見せちまったなあ。 
 背の割に身体は貧相だとか、アソコがちっせぇ、とか思われてたら立ち直れねぇ。
 ……俺の尊厳、守られてますか!
 
「ここまで運んだのは父さんだけどね。吉沢くん、アンタにつきっきりで団扇で仰いでくれたんだから」
 目覚めた時に感じた心地よい風は、吉沢が送り出してくれていたらしい。

「そっか、ありがとな」
「ん」
 小さく頷く吉沢は、やっぱり鼻にかける様子なんて一切ない。
 この控えめな感じ。お前はなんて善良な人間なんだ。
 俺みたいなド底辺陰キャにまでこの神対応。
 
 ……どうせなら意識朦朧としてる体で色々言っときゃ良かったかなあ。
 可愛い!優しい!顔がイイ!好き!
 なんて、告白する気なんて更々ないくせに、相変わらず卑怯で臆病な奴だぜ、俺ってやつは。
 
「運ぶのはお前がデカすぎて出来なかった」
 吉沢は言い訳するみたいに、ツンと口を尖らせた。
 いやいや、俺みたいなデカイの運ぶって、父さんしか出来るわけねぇだろ。
 何ちょっと、悔しいみたいな顔してんだよ。

 クソ可愛いんだけど……。
 これ以上、俺を惚れさせてどうするんだよ。
 ――勘弁してくれ!
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