売れないハッカー

はるのすけ

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売れないハッカー

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 今現在のお話(昔々あるところにみたいな感じで。)、あるところに売れないハッカーのハクという名前の男性がいました。売れないので当然ポリスマンにも気づかれませんでした。その人はお腹がすいたのでお財布の中身を気にしながら家の近くにあったいったこともないラーメン屋に入りました。

 そのラーメン屋は4帖半と小さいのに非常に繁盛していて運よく車を入れられたものの15分ほど待たされました。中に入ってみるとカウンター席が一つだけ空いていてそこに伯は座りました。
「いらっしゃい!」
威勢のいい女店主の声が響きます。
「ご注文は?」
と聞かれたのでメニューに一番大きく乗っているそのラーメン屋の名物、油麺を頼んでお冷をすすっていると味噌やごまの入り交じったいい香りが漂ってきました。

 油麺は揚げたラーメンをつけ麺のようにザルにあげてごま油でコーティングした香ばしい匂いのするラーメンでした。値段も600円前後と安めでこの値段で不足もないカロリー摂取ができるとはと感心して、伯はこのお店とこのラーメンを気に入りました。どうりで繁盛するわけです。

 ラーメンを半分ほど食べ終わったところで隣に入れ替わりの人が来ました。真っ黒なすらりとしたスーツで彼も営業マンであるような服装をしています。「油麺、そぼろ肉大盛りで。」とメニューも見ずに言ってしまうのでどうやら常連のようです。

 その男は座席にもたれかかって腰に悪そうな姿勢でスマートフォンをいじり始めました。スーツにしわができてしまいそうです。あろうことかスマートフォンの画面がこっちに丸見えでパスワードも見えそうでした。普段は他人など気にしない伯でしたが、今回ばかりはすごく気になって緊張してきました。思わずスマホの画面を凝視していると運よくブログのパスワードを覚えてしまいました。

 パスワードを覚えたことは秘密にして声をかけてみることにした伯。
「ひょっとして有名ブロガーの方ですか?」
と顔面を前に押し出しながら質問すると、
「よく分かったね。そうだよ。草介そうすけというペンネームでブログをやっている。」
という返事が返ってきました。

 伯は(これはしめたな)と思ってもう少し事情を探ってみるみることにしました。
「おお、すごい!このラーメン屋のレビューでも書いているのですか?」
「うん、この店が有名になったのは僕のおかげと言ってもいいね。」
 草介はぽっと顔を赤くして言います。

「サイン書けますか?」
「ははは、それはできないな、練習しておけばよかったかな。」
と草介は満面の笑みで言いました。

 そうこうしているうちに草介の頼んだラーメンがやってきたので二人は無言になりました。伯は食べ終わるとうきうきとした気分でラーメン屋を出ます。車で自宅に戻るとさっそくパソコンを開いて草介のブログのパスワードを打ち込みます。
「すごいアクセス数だ・・・」
伯はしゃちこばりながら言いました。
月間何十万ページビューもあります。1日に1万人以上が来ている計算です。

 伯はさっそくパスワードを変更し、広告会社のアカウントをつくってブログに広告を張り付けました。そして不敵な笑みを浮かべました。

 次の日、ラーメン屋にいくと偶然なことにまた草介が隣に座っていました。浮かない顔をしています。伯はしれっとした顔で
「どうしたんですか?」
と尋ねました。
「いやあ、ブログのパスワードを忘れてしまって入れなくなってしまったんだ。これは参った。」
草介は相変わらず悪い姿勢で座ります。
「それは災難ですね。」
といかにも残念そうな顔をして伯は言う。

「ところで海賊オンラインって知ってるかい?」
「いいえ、はじめて聞きました。」
「今流行っているオンラインゲームなんだけど1回どうだい?無料だよ」
「ちょうどお暇だったのでやってみたいです。」
と海賊オンラインをやる約束をしてあとは伯は草介と雑談をして帰りました。

 海賊オンラインか、(まあ試しにやってみるか。)とダウンロードしてパスワードを決めます。伯は山盛りラーメンを食べて眠かったので欠伸あくびをしながらあのブログのパスワードと同じパスワードを設定しました。

 ゲームでは、初めは船もなかったので村の古物屋さんで安いものを買ってはお城の近くで高値で売るせどりという商売をしてお金を貯めました。これが意外と儲かるもので1か月もすれば伯はちょっとした有名人になっていました。そして貯めたお金で小舟と山盛りの食料を買って海に出ることにしました。特に腐りずらいぶどう酒とたまねぎを多く詰め込みました。

 海で食べるしかやることが無くなって、きりがよくなった日、伯はまたいつものラーメン屋にいきました。今日はなんとなく普通のラーメンを注文して待っているとまた、草介が店にやってきました。
「よく会うね。」
と今度は草介のほうから声をかけてきました。
「そうだね、知ってる?僕お金がたまったからついに海に出たんだよ。」
「おお、すごいじゃないか。ちゃんと兵隊を雇ったのかい?」
「いいえ、ゲームだしいいかと思って小舟で船旅にでました。」
「僕の友人も伯のお店は良いものが置いてあると感心していたのにせどり屋さんが無くなってしまうとは残念だな。」
「そうですか?じゃあ船旅が終わったらまた始めようかな。乗り掛かった舟だし!」
「それがいいね。」
今回はとても楽しくお話ができて伯は人生も順風満帆だと幸せな気分でいっぱいでした。

翌日、草介から盗んだブログにログインしようとするとできませんでした。
「一体何故・・・」
パスワードを忘れたのかと思ってあれこれ似たり寄ったりのパスワードを入力してもうまくいきません。伯はだんだんイライラしてきて、頭頂の火山が爆発しそうです。
「もしかして・・・盗み返されたのか?」
そこでオンラインゲームに入力したパスワードとブログのパスワードが同じだったことを思い出しました。
「くそっ、大失敗だ。今すぐ話をつけてやる。」

 伯はオンラインゲームにログインしました。すると不思議なことに草介の海賊船が目の前にいました。
「おーい助けてくれ!」
草介の船に皮でできたはしごがつるされました。安心した気分で草介の船に乗り込むと恐ろしいことに大勢の海賊がやってきて抵抗できずに手と足を縛られました。

「なにすんだ、助けてくれ」
伯は顔面を蒼白にしていいました。
「先に私のブログを盗んだのはお前だろう。財宝もろとも全部返してもらうぞ!」

 こうして草介のブログは元通り草介のもとに帰ってきたのでした。伯は口惜しさにパソコンの前でうずくまりました。

 翌日伯の家にパトカーがやってきてチャイムを押しました。
「警察ですが、事情徴収でうかがいにきました。」
そう、ブログにはパスワードが変えられてもいいように住所登録の欄もあったのです。こうして伯はサイバー犯罪の件で逮捕されてしまうのでした。

 おしまい。バッドエンド?の終わり方ですが後味がよかったかどうか賛否両論感想をお待ちしています。ありがとうございました。



 

 

 
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