神器とオリジナルを手に入れた転生王子は、最強への道を歩み始める

黄昏時

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第14話 格上

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 俺達は模擬戦の為、森の中にあったイアンの家から森の中の切り開かれた場所へと移動していた。

「坊主……本当にいいんだな?」
「勿論です。それに貴方が仰ったんですよ? 本気の模擬戦をやろうと」
「確かにそうは言ったが……まさか坊主から契約武具を使っての模擬戦・・・・・・・・・・・・を提案してくるとは思ってなかったからな」

 俺は彼、イアンとの模擬戦を行う条件として、契約武具を使って行う事を提示した。
 最初はその提案に驚きはしていたみたいだが、すんなりと承諾はしてくれた。

 しかしながらこの模擬戦に反対の人間が一人居る。
 それは勿論ナタリーだ。
 俺達が契約武具を使って行う事は勿論、この模擬戦自体に猛烈に反対していた。

 と言うか現在進行形で反対している。
 今こうして俺とイアンが向き合い、模擬戦を始めようとしているのを遠くから見つめる視線はとても鋭く感じる。

 だがここでナタリーの意見を通すのは、現状を維持し、逃げる事に他ならない。
 例えここで多少危険を冒そうとも、逃げずに立ち向かわなければ何も進展しないんだ。

 というのは建前で、見くびられたまま何もせずに帰るなんて事出来るはずがない!
 この男に一泡吹かせて、力ずくにでも協力させてやる!!
 その為に俺は契約武具を使う事を提案しだんだからな!

 例え中身が転生した魂であろうと、肉体はたかが三歳の子供。
 更には転生した魂である俺ですら、武術の心得が無いときている。
 そんな人間が、実戦経験が豊富であろう元騎士団長と普通にやってまともに渡り合えるはずがない。

 実力不足? 経験不足?
 そんな事は百も承知!
 だからってここで引き下がれない理由が今の俺にはある。

 ならどうするか?
 そんな事は決まっている。
 敵わないとわかっているなら、敵うよう工夫するしかない!

 そして俺の契約した神器・・はそう言ったことを行うのに、とても適した力がある。
 しかしながらこれは賭けだ。

 俺が足りないものを契約武具で補うという事は、同じく相手も契約武具により実力を更に上げるという事……
 とは言え契約武具を使わなければ俺の勝つ確率はゼロだ。

 例えそれが賭けであったとしても、数十パーセント、あるいは数パーセントあるのなら、俺はそちらに賭ける。
 ゼロよりは断然ましだからな。

「それじゃぁ坊主、始める前に幾つかルールを確認しておくぞ?」
「はい」
「まず第一にこの場所から離れ、森に入るのは禁止だ。第二に、相手を殺す事を禁止とする。よって、勝利条件は相手に参ったと言わせるか、相手を戦闘不能にするかのどちらかとする。これで構わないか?」
「構いません」
「良し。それじゃぁ、ある程度間合いをとってから始めよう。この場から、互いに三十歩離れたと同時に開始の合図とする。何か異論はあるか?」
「大丈夫です」
「なら、早速始めよう」

 イアンはそう言うと、俺に対して背を向けた。
 同時に、俺もイアンに対して背を向ける。
 そして互いに一歩、また一歩と歩を進める。

 イアンとの距離が少しずつ離れていくと同時に、空気が張り詰めていくのがわかる。
 緊張感が高まり、もうすぐ始まるのだと実感させられる。

「……《神殺し》」

 そしてそう実感した瞬間に、俺は無意識にそう口にしていた。
 右手に伝わるずっしりとした確かな重み。
 その重みで、俺は神器を出したのだと確信する。

 模擬戦とは言え、コイツを本気で人に向けるのは初めてだ。
 不安が無いと言えば嘘になるが……それよりも、現状の俺が神器を使ってどこまで通用するかの方が気になる。

 もしかしたら、シャルロッテを守る為に強硬手段に出るかもしれないからな。
 確認し、知っておく必要がある。
 自身にどこまでの事が出来るかを……

 俺がそんな事を考えている間に、約束の三十歩が近づいてきた。

 26……27……28……29……30!!

「なっ!!」

 三十歩距離をとった瞬間後ろを振り返ると、イアンが俺との間合いを既に半分以上詰め、すぐそこまで近づいていた。

「反応が遅すぎるぞ、坊主」

 イアンは先程までとは全くの別人のような雰囲気を纏いながら、一切感情をのせずそう言った。
 不味い!!

 イアンの持つ武器が俺の見える角度からじゃ、イアンの背に隠れて全く分からない! 
 恐らくだがワザとそうしているんだろう。
 武器がわからなければ相手の間合いの予想が一切できない!!

 今の俺の場合、相手の間合いというのはとてつもなく重要だ。
 何せ普通にやりあえば技術でも力でも勝てない。
 ならせめて少しでも相手が不得意な部分で戦うしかない。

 クソ!!
 あまり悠長に考えている時間が無い!
 ここは相手から猛烈に間合いを詰めてきた事を考慮して、至近距離で戦いたいと予想するしかない!

 なら出来るだけ距離をとるべきだろう。
 だが普通に距離をとろうとしても速度で勝てるとは思えない。
 それならば、相手から離れてもらうしかない!

 俺はそう考え、右手に握る神器に力込める。
 すると突如として大量の水が現れ、凄まじい勢いでイアンの右横腹目掛けて空中を進む。

 それに気づいたイアンは、バックステップで自身に向かってきていた水をかわす。
 だが水はほぼ直角に角度を変え、イアンが避けた方に向かって尚進み続ける。
 それを見た瞬間、イアンはかわすのは無駄だと判断したのだろう。

 隠していた得物を構え、向かってくる水に向かって切っ先を向ける。
 あれはもしかして……、か?

 俺がそう思った次の瞬間には既に刀は振り抜かれており、イアンに向かっていたはずの水が真っ二つに両断されていた。

 ありえない!!
 なんだ今のは!
 刀を振り抜くのが早すぎて、全く見えなかった。

 水が両断されたと言う事を確認してから、初めて刀が振るわれたのだと認識できた。
 ............なめていたのは俺の方だった。

「坊主、出し惜しみせず本気で来い。......でないと一瞬でケリがついちまうぞ」

 無感情に放たれたイアンの言葉は、実力差を実感し始めていた俺の中ですんなりと受け入れることが出来た。

 俺は即座に自身を中心とした半径三メートル程の所に、水を薄く半球状に展開する。
 水と言っても、これは神器の力によって生み出した水だ。
 なので通常の水とは違い、かなり融通が利く。

 例えばこの水に俺以外の人間が触れれば、俺が認識するよりも早く自動で反撃を行ってくれる、とかな。
 俺はイアンから目を離さずに、内心でそんな事を考える。

 イアンは俺の周囲に突如現れた水に何かを感じとったのか、鋭い視線で見つめた後、俺から更に距離をとった。

 やはりそう簡単には突っ込んできてくれないか。
 俺はそう思いながら、悔しそうに表情を少し歪める。

「……坊主、契約武具を使っての模擬戦は初めてか?」
「契約武具はおろか、模擬戦自体初めてですよ。何せ戦闘訓練自体未だに受けていませんから」
「なるほどな。それならば仕方ないか……逆に初めての戦いでこれ程動け、更に契約武具をその年でこれ程扱える事を評価するべきだろうな」

 イアンは俺の言葉に頷くと、かろうじて聞きとれるほどの声でそう言った。
 仕方ない、評価すべき?
 一体何が仕方なく、何をどう評価すべきだというんだ?

「動き自体は完全に素人だが、相手の行動に対する警戒並びに対処は悪くなかったぞ。恐らく鍛えれば強くなるだろうな。これからが楽しみだ」

 イアンは笑みを浮かべながらそう言うと構えていた刀を左側の腰に当て、居合のような構えをとる。

「!!」

 だが次の瞬間にはイアンは真剣な表情へと変わっており、俺の事を見据えていた。
 そんなイアンを見て、俺は背筋が凍る。

 体が……動かない……
 それにこの何とも言えない息苦しさ。
 このプレッシャーは一体……

「……フン!」

 俺がそう考えていると、イアンはそんな掛け声とともに、凄まじい速度で刀を振るった。
 とは言っても、俺にはどう振るわれたのかは見る事が出来なかった。

 気づいたときには刀が先程の腰ではなく、右側の地面に向いていた事から振るわれたと判断したのだ。
 流石にこの距離なら剣筋が見えなくても……そう考えかけた瞬間、俺の周囲を半球状に囲んでいた水が突如両断された。

 勿論両断されたところで周囲の水は消えたりしない。
 即座に元に戻り、イアンに向かって反撃・・する為に拳大程の水を物凄い勢いで飛ばした。
 だがイアンは飛んでくる水を冷静に両断し撃ち落とす。

 やはりこの程度の攻撃は意味がないか。
 しかし周囲の水がイアンに向かって反撃したという事は、水を両断したのはイアンで間違いないという事……
 
 とは言えいくらイアンが目に追えない速さで刀を振るうと言っても、流石にこの距離を一瞬で縮め、更には元居た場所に気づかれずに戻るなど不可能なはずだ。
 それに時間差での反撃……

 予想でしかないが、恐らく契約武具の能力を使って斬撃・・を飛ばしてきたんだろう。

 クソ!!
 俺としては、イアンは遠距離攻撃の手段が無いと決め込んでいただけに、これはかなりつらい状況だぞ!
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