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第17話 思惑
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「それよりも本命の嬢ちゃんはどこだ?」
「恐らくまだ来てないはずです。何せ出生順で会場に着くよう手配されているはずですから」
「あぁ、そういやあったな。王族にはそんな面倒な決まりが」
イアンは心底呆れたようにそう言う。
確かにイアンの言う通り面倒な決まりかもしれない。
けれど正直、誰が早く来た誰が遅く来たという変ないざこざに巻き込まれる心配がない分、俺としてはかなり楽ではある。
「だがそれなら俺かナタリーのどちらかをここに着くまでの護衛として派遣するべきだったろ? 道中襲われる可能性があるかもしれない事ぐらい、お前なら考えていただろ。どうしてそうしなかった?」
「勿論それは考えもしましたし、可能性として理解もしています。ですがこの場所までの案内や護衛の手配は、今回の主役である第一王子のアル兄さまが行っておられます。まぁ正確にはアル兄さま本人ではなく、支持している人間たちで行っているでしょうが、正直それはどっちでもいいんです。問題なのはアル兄さま主導だという事です」
「なるほどな。今日嬢ちゃんを狙うのも同じ理由が考えられるな」
俺はイアンの言葉に対して頷き、同じ考えであることを示す。
第一王子であるアルフレッド主導の誕生会で何か問題が起これば、それはアルフレッドの失態だという事になる。
ましてや第一王女の命にかかわるような事であれば、例え第一王子と言えどかなりの打撃をくらうのは確実だろう。
つまり今日シャルロッテの命を奪えれば、第一王子派・第一王女派共に大打撃を与えられる一石二鳥の好機だという事だ。
同じく警備や護衛に対して俺から口出しをすれば、それは両陣営に不満があるととられても可笑しくない。
仮にここに来るまでに何もなかった場合、両陣営に不満を持たれた状態ではその後動きづらくなるのは必然であり、問題の第二王子派に妨害される可能性すらある。
ならここは第一王子派と第一王女派をある程度信じる事にしたのだ。
俺達はあくまでも両陣営で対応できなかった場合の控えであると割り切り。
とは言っても、両陣営がこの情報を手に入れているかはわからない。
何せ俺達からは情報を一切両陣営に流していないのだからな。
決して嫌がらせ等の理由ではない。
情報を流す行為には等しく情報が洩れるリスクが伴う。
そして両陣営共に裏切者が居ないと断言できるだけの情報を、今の俺では集める事が出来ない。
それに両陣営が今回の事を利用して裏切者を一掃する作戦を立てていた場合、情報を流した俺は作戦を台無しにした厄介者になってしまう。
なので俺はそれらを鑑みて俺からは情報を流さない事にしたのである。
しかしそれはシャルロッテを危険に晒す事に他ならない。
勿論情報が洩れていた方がより危険ではあるが、情報を流さない場合でも危険なのには変わりはない。
だからこそこうしてイアンを引き入れ、もしもに備えたのだ。
「まぁそう心配すんな」
「……顔に出てましたか?」
「あぁ」
「すみません」
「別に謝る事じゃねぇ。心配なのはわかるからな」
イアンは俺の言葉に笑みを浮かべながらそう答える。
しかし次の瞬間、周囲を見渡すように視線をやったイアンが突如真剣な表情へと変わった。
「……なぁ坊主、目的の嬢ちゃんが着くまで少し別行動してもいいか?」
「正直困りますが……色々と訳がありそうですね。構いませんよ。ですけど出来るだけ早く戻ってきてくださいね。こちらもいつ事が起こるかわかりませんので」
「悪いな。何かあれば俺の名前を叫んでくれればすぐに駆け付ける」
「それはそれで恥ずかしいので、出来ればそうならない事を願います」
俺がそう言うとイアンは笑みを浮かべながら、「俺もだ」と言って人が集まっている方へと消えていった。
「さて、これからどうするか?」
俺はイアンが見えなくなったのを確認してから小声でそうもらす。
周囲に視線をやれば、綺麗に俺とナタリーの周りだけ人が居ない。
まぁそれはそうだろうな。
俺はこれでも一応王族であり、更にはこの国唯一の神器の契約者でもある。
なので変に機嫌を損ねて暴れられたり、権力を振りかざされたりしたらたまったもんじゃないだろう。
勿論俺はそんなつもりは一切無いが、相手からすればそんな事はわかりようがない。
何せ俺は転生してからほとんど他者と関わって来なかったからな。
俺が転生する前のレオモンド少年に関しても、今の俺と同じ感じだったとナタリーから聞いている。
つまり、レオモンド・エオルド・ダイアーと言う一個人の人間性を知る者は数少ないという事だ。
結果的に俺としてはそれで助かる部分も大いにあるが、こういった場面では当分困る事になりそうだな。
俺がそんな事を考えていると不意に杖を突いた老人と、俺と同い年くらいの眼鏡をかけた少年が近づいてくるのが見えた。
「ナタリー、あの二人は?」
「ご年配の方は現バートン家当主のハリー・バートン様で、お隣にいらっしゃるのはお孫さんのオリバー・バートン様です」
俺の言葉にナタリー姿勢を低くし、俺の耳元で小声でそう言った。
バートン家……確か六つある公爵の内の一つだったか?
さて、そんな大物が一体俺に何の用があるのやら?
「初めましてレオモンド殿下」
「こちらこそ初めまして、ハリー・バートン様並びにオリバー・バートン様」
ハリー・バートンの言葉の直後に頭を下げた二人に対して、俺はそう言ってから同じように頭を下げる。
「これはこれは丁寧にありがとうございます。殿下」
「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが私はこういった場に参加する事がほとんどありませんので、誤った礼節を尽くすかもしれませんがその点はご容赦ください」
「礼が尽くされておれば、儂と孫は気にしませんので大丈夫ですぞ」
「それは良かったです」
ハリー・バートンが笑みを浮かべながら言った言葉に、俺はそう返す。
礼が尽くされておれば、か……
誤った礼節と言うていで色々と鎌をかけようかと思っての発言だったんだが、先手を打たれてしまったな。
流石長年貴族社会に生きている人間。
そう簡単に付け入るスキを与えてはくれないという事だろうな。
「ところで殿下、失礼ながらこの老いぼれに少しお話しをさせていただくお時間を頂いてもよろしいでしょうかな?」
ハリー・バートンは軽く頭を下げながら、俺の顔色をうかがうかのように笑みを浮かべながら俺の事を見つめる。
正直断りたいし、断るべきだろう。
現状ではいつ事が起こるかわからないんだ。
出来るだけ周囲に気を配り、臨機応変に即座に対応できるようにしておきたい。
とは言え相手は公爵家……
変に断って意識されるのは非常に困る。
ましてや敵対されるなどもってのほかだ。
だからと言って、断る理由を馬鹿正直説明する訳にもいかない。
それにこれ程の大物相手となると、流石に適当な理由で断るという訳にもいかない。
つまり俺は、それなりにしっかりとした断る理由を今すぐに考え出さなければならない訳だ。
「話と言うのは、シャルロッテ様に関する事なのですが……」
俺がそんな事を考えて憂鬱な気分になっていると、まるでそれを見透かしているかのようにハリー・バートンは俺に一歩近づき、小声でそう言った。
今……何と言った?
……シャルロッテに関する事だと?
何故今、この状況で唐突にシャルロッテの話が出てくるんだ?
俺はそう考えると同時に、自身の鼓動がドクドクと早く大きくなっているのを自覚する。
待て!
落ち着くんだ!
ここで表情や態度に出てしまえば相手の思うつぼだ!
それにまだシャルロッテの話と言うだけで、第二王子派の動きに関する事だと決まった訳じゃないんだ。
俺は自身にそう言い聞かせ、必死に平常心を取り戻させる。
「構いませんよ。ですがこちらにも色々と都合がありますので、長時間お話しさせていただく事が出来ないのは予めご理解ください」
俺は焦りや不安が悟られないよう、冷静さを取り繕ってそう言った。
「もちろんでございます、殿下。ですが流石に殿下を立たせたままお話しいたしますのは心苦しいので、あちらに移動いたしませんか?」
ハリー・バートンはそう言いながら、誰もいないバルコニーの方を指さす。
これはあまり他の人間には聞かれたく話をするという意思表示なのか?
クソ!
完全に相手の手のひらの上だという気がしてきた。
それにこの爺さん、先程から一切笑顔を崩さないから表情から何かを読みとる事も出来ない。
これは腹芸では明らかに相手の方が遥かに格上だ。
だがだからと言って何もしない訳にはいかない。
それにシャルロッテの名前を出されたんだ。
ここで引き下がるなんて選択肢が残っているはずがない!
俺は自身にそう言い聞かせながら、ハリー・バートンの言葉に対して頷く。
「恐らくまだ来てないはずです。何せ出生順で会場に着くよう手配されているはずですから」
「あぁ、そういやあったな。王族にはそんな面倒な決まりが」
イアンは心底呆れたようにそう言う。
確かにイアンの言う通り面倒な決まりかもしれない。
けれど正直、誰が早く来た誰が遅く来たという変ないざこざに巻き込まれる心配がない分、俺としてはかなり楽ではある。
「だがそれなら俺かナタリーのどちらかをここに着くまでの護衛として派遣するべきだったろ? 道中襲われる可能性があるかもしれない事ぐらい、お前なら考えていただろ。どうしてそうしなかった?」
「勿論それは考えもしましたし、可能性として理解もしています。ですがこの場所までの案内や護衛の手配は、今回の主役である第一王子のアル兄さまが行っておられます。まぁ正確にはアル兄さま本人ではなく、支持している人間たちで行っているでしょうが、正直それはどっちでもいいんです。問題なのはアル兄さま主導だという事です」
「なるほどな。今日嬢ちゃんを狙うのも同じ理由が考えられるな」
俺はイアンの言葉に対して頷き、同じ考えであることを示す。
第一王子であるアルフレッド主導の誕生会で何か問題が起これば、それはアルフレッドの失態だという事になる。
ましてや第一王女の命にかかわるような事であれば、例え第一王子と言えどかなりの打撃をくらうのは確実だろう。
つまり今日シャルロッテの命を奪えれば、第一王子派・第一王女派共に大打撃を与えられる一石二鳥の好機だという事だ。
同じく警備や護衛に対して俺から口出しをすれば、それは両陣営に不満があるととられても可笑しくない。
仮にここに来るまでに何もなかった場合、両陣営に不満を持たれた状態ではその後動きづらくなるのは必然であり、問題の第二王子派に妨害される可能性すらある。
ならここは第一王子派と第一王女派をある程度信じる事にしたのだ。
俺達はあくまでも両陣営で対応できなかった場合の控えであると割り切り。
とは言っても、両陣営がこの情報を手に入れているかはわからない。
何せ俺達からは情報を一切両陣営に流していないのだからな。
決して嫌がらせ等の理由ではない。
情報を流す行為には等しく情報が洩れるリスクが伴う。
そして両陣営共に裏切者が居ないと断言できるだけの情報を、今の俺では集める事が出来ない。
それに両陣営が今回の事を利用して裏切者を一掃する作戦を立てていた場合、情報を流した俺は作戦を台無しにした厄介者になってしまう。
なので俺はそれらを鑑みて俺からは情報を流さない事にしたのである。
しかしそれはシャルロッテを危険に晒す事に他ならない。
勿論情報が洩れていた方がより危険ではあるが、情報を流さない場合でも危険なのには変わりはない。
だからこそこうしてイアンを引き入れ、もしもに備えたのだ。
「まぁそう心配すんな」
「……顔に出てましたか?」
「あぁ」
「すみません」
「別に謝る事じゃねぇ。心配なのはわかるからな」
イアンは俺の言葉に笑みを浮かべながらそう答える。
しかし次の瞬間、周囲を見渡すように視線をやったイアンが突如真剣な表情へと変わった。
「……なぁ坊主、目的の嬢ちゃんが着くまで少し別行動してもいいか?」
「正直困りますが……色々と訳がありそうですね。構いませんよ。ですけど出来るだけ早く戻ってきてくださいね。こちらもいつ事が起こるかわかりませんので」
「悪いな。何かあれば俺の名前を叫んでくれればすぐに駆け付ける」
「それはそれで恥ずかしいので、出来ればそうならない事を願います」
俺がそう言うとイアンは笑みを浮かべながら、「俺もだ」と言って人が集まっている方へと消えていった。
「さて、これからどうするか?」
俺はイアンが見えなくなったのを確認してから小声でそうもらす。
周囲に視線をやれば、綺麗に俺とナタリーの周りだけ人が居ない。
まぁそれはそうだろうな。
俺はこれでも一応王族であり、更にはこの国唯一の神器の契約者でもある。
なので変に機嫌を損ねて暴れられたり、権力を振りかざされたりしたらたまったもんじゃないだろう。
勿論俺はそんなつもりは一切無いが、相手からすればそんな事はわかりようがない。
何せ俺は転生してからほとんど他者と関わって来なかったからな。
俺が転生する前のレオモンド少年に関しても、今の俺と同じ感じだったとナタリーから聞いている。
つまり、レオモンド・エオルド・ダイアーと言う一個人の人間性を知る者は数少ないという事だ。
結果的に俺としてはそれで助かる部分も大いにあるが、こういった場面では当分困る事になりそうだな。
俺がそんな事を考えていると不意に杖を突いた老人と、俺と同い年くらいの眼鏡をかけた少年が近づいてくるのが見えた。
「ナタリー、あの二人は?」
「ご年配の方は現バートン家当主のハリー・バートン様で、お隣にいらっしゃるのはお孫さんのオリバー・バートン様です」
俺の言葉にナタリー姿勢を低くし、俺の耳元で小声でそう言った。
バートン家……確か六つある公爵の内の一つだったか?
さて、そんな大物が一体俺に何の用があるのやら?
「初めましてレオモンド殿下」
「こちらこそ初めまして、ハリー・バートン様並びにオリバー・バートン様」
ハリー・バートンの言葉の直後に頭を下げた二人に対して、俺はそう言ってから同じように頭を下げる。
「これはこれは丁寧にありがとうございます。殿下」
「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが私はこういった場に参加する事がほとんどありませんので、誤った礼節を尽くすかもしれませんがその点はご容赦ください」
「礼が尽くされておれば、儂と孫は気にしませんので大丈夫ですぞ」
「それは良かったです」
ハリー・バートンが笑みを浮かべながら言った言葉に、俺はそう返す。
礼が尽くされておれば、か……
誤った礼節と言うていで色々と鎌をかけようかと思っての発言だったんだが、先手を打たれてしまったな。
流石長年貴族社会に生きている人間。
そう簡単に付け入るスキを与えてはくれないという事だろうな。
「ところで殿下、失礼ながらこの老いぼれに少しお話しをさせていただくお時間を頂いてもよろしいでしょうかな?」
ハリー・バートンは軽く頭を下げながら、俺の顔色をうかがうかのように笑みを浮かべながら俺の事を見つめる。
正直断りたいし、断るべきだろう。
現状ではいつ事が起こるかわからないんだ。
出来るだけ周囲に気を配り、臨機応変に即座に対応できるようにしておきたい。
とは言え相手は公爵家……
変に断って意識されるのは非常に困る。
ましてや敵対されるなどもってのほかだ。
だからと言って、断る理由を馬鹿正直説明する訳にもいかない。
それにこれ程の大物相手となると、流石に適当な理由で断るという訳にもいかない。
つまり俺は、それなりにしっかりとした断る理由を今すぐに考え出さなければならない訳だ。
「話と言うのは、シャルロッテ様に関する事なのですが……」
俺がそんな事を考えて憂鬱な気分になっていると、まるでそれを見透かしているかのようにハリー・バートンは俺に一歩近づき、小声でそう言った。
今……何と言った?
……シャルロッテに関する事だと?
何故今、この状況で唐突にシャルロッテの話が出てくるんだ?
俺はそう考えると同時に、自身の鼓動がドクドクと早く大きくなっているのを自覚する。
待て!
落ち着くんだ!
ここで表情や態度に出てしまえば相手の思うつぼだ!
それにまだシャルロッテの話と言うだけで、第二王子派の動きに関する事だと決まった訳じゃないんだ。
俺は自身にそう言い聞かせ、必死に平常心を取り戻させる。
「構いませんよ。ですがこちらにも色々と都合がありますので、長時間お話しさせていただく事が出来ないのは予めご理解ください」
俺は焦りや不安が悟られないよう、冷静さを取り繕ってそう言った。
「もちろんでございます、殿下。ですが流石に殿下を立たせたままお話しいたしますのは心苦しいので、あちらに移動いたしませんか?」
ハリー・バートンはそう言いながら、誰もいないバルコニーの方を指さす。
これはあまり他の人間には聞かれたく話をするという意思表示なのか?
クソ!
完全に相手の手のひらの上だという気がしてきた。
それにこの爺さん、先程から一切笑顔を崩さないから表情から何かを読みとる事も出来ない。
これは腹芸では明らかに相手の方が遥かに格上だ。
だがだからと言って何もしない訳にはいかない。
それにシャルロッテの名前を出されたんだ。
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俺は自身にそう言い聞かせながら、ハリー・バートンの言葉に対して頷く。
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