37 / 118
3.Summer vacation.-雨野秋良の場合-
進路
しおりを挟む
社長の許しを得てから数日は、曲作りや合わせ練習に時間を費やした。
蛍の声は元々良いが、トレーニングをすることで底無しかのように伸びていく。
なけなしの知識では教え育てるのにも限界はあったが、蛍の学習意欲に助けられなんとかやっていた。
このタイミングで夏休みだった事がプラスに働いた。
それでも時間が沢山あるとは言えない。
学生である事を忘れるくらい濃厚な毎日は、もうすぐ “学校” という現実世界に引き戻される事になる。
あれこれとやっているうちに、8月最後の登校日となっていた。
登校日と言っても、ただ全校集会があるくらいで、後は各教室で夏休みの課題の進み具合の確認や、配布物を受け取るくらいだ。
これもすっかり忘れていたが、最終の意思確認として進路調査表が配られるのが毎年恒例らしい。
考えてみれば親に進路を相談したことがない。
周りも自分自身も、このままROOTで活動を続けるのだろうとふんわり思っていただけで、深く考えた事はなかった。
そういえば蛍の進路希望は聞いたことがない。
夏休み中は話す機会なんていくらでもあったのに、進路の話題なんて一度も出なかった。
配布物を見て気付いたくらいなんだ。
当たり前といえばそうなんだろう。
しかし、そう呑気な事を言ってもいられない。
今日はこれから事務所のスタジオを借りる予定で、学校が終わると駅前のハンバーガーショップで昼食を取る予定だ。
今後の活動にも関わる事だ。
先に聞いておいた方が良いに違いない。
「蛍は進路調査表、前回は何で出したの?」
「進学か就職かってことだよね?
えーと⋯前回は第1、第2が進学。第3が専門」
「専門?何の?」
「柊芸術芸術専門学校。の、舞台芸術学科」
「へぇ⋯」
意外だった。
蛍は蛍なりに、また本気で舞台に携わろうと思っていたんだと感心した。
しかし次の瞬間、秋良は大事な事に気付く。
蛍が舞台関係に進みたいと思っているのであれば、彼の夢を潰してしまっ他に違いない。
「でも、変えようと思ってる。柊を第1にして、ミュージック学科に行こうかなって」
「⋯蛍はそれで良いの?」
「えっ?何で?」
ユニットを組むために進路まで変えてついてくる努力をしようとしているなら考え直してほしい。
現実的に考えて出した答えならば否定する気は毛頭無いが、正直 “流されている” 様に見えるのだ。
蛍の言葉を頭の中で否定すると、蛍は自信ありげに口角を上げた。
「ちゃんと自分の意思だから安心して。
実はさ。劇団に入る前、本当は楽器とか歌とか習いたかったけど母親に反対されて出来なかったんだ。母親は何故か昔から音楽を嫌っていて、家では音楽の話すら出来なかったんだ。
勿論、劇中に歌ったり楽器を演奏することもあったんだけど、芝居自体辞めることになっちゃったから⋯
また表に立つことに向き合おうって思えたのは雨野のお陰。だから俺も本気で自分のしたい事と向き合おうって思った」
「⋯そっか。わかった」
人前で歌う事には興味が無いと言う割には、歌が好きな事が手に取るように分かる。
そこまで真剣に考えていた事に秋良は感心した。
蛍の言葉を聞くなり意見も聞かずに否定をした事を心の中で詫び、その真剣で勇ましい目を見つめた。
迷いのない、自信に満ち溢れた目をしていた。
のちに自身も影響を受ける事になるのを秋良はまだ知らない。
蛍の声は元々良いが、トレーニングをすることで底無しかのように伸びていく。
なけなしの知識では教え育てるのにも限界はあったが、蛍の学習意欲に助けられなんとかやっていた。
このタイミングで夏休みだった事がプラスに働いた。
それでも時間が沢山あるとは言えない。
学生である事を忘れるくらい濃厚な毎日は、もうすぐ “学校” という現実世界に引き戻される事になる。
あれこれとやっているうちに、8月最後の登校日となっていた。
登校日と言っても、ただ全校集会があるくらいで、後は各教室で夏休みの課題の進み具合の確認や、配布物を受け取るくらいだ。
これもすっかり忘れていたが、最終の意思確認として進路調査表が配られるのが毎年恒例らしい。
考えてみれば親に進路を相談したことがない。
周りも自分自身も、このままROOTで活動を続けるのだろうとふんわり思っていただけで、深く考えた事はなかった。
そういえば蛍の進路希望は聞いたことがない。
夏休み中は話す機会なんていくらでもあったのに、進路の話題なんて一度も出なかった。
配布物を見て気付いたくらいなんだ。
当たり前といえばそうなんだろう。
しかし、そう呑気な事を言ってもいられない。
今日はこれから事務所のスタジオを借りる予定で、学校が終わると駅前のハンバーガーショップで昼食を取る予定だ。
今後の活動にも関わる事だ。
先に聞いておいた方が良いに違いない。
「蛍は進路調査表、前回は何で出したの?」
「進学か就職かってことだよね?
えーと⋯前回は第1、第2が進学。第3が専門」
「専門?何の?」
「柊芸術芸術専門学校。の、舞台芸術学科」
「へぇ⋯」
意外だった。
蛍は蛍なりに、また本気で舞台に携わろうと思っていたんだと感心した。
しかし次の瞬間、秋良は大事な事に気付く。
蛍が舞台関係に進みたいと思っているのであれば、彼の夢を潰してしまっ他に違いない。
「でも、変えようと思ってる。柊を第1にして、ミュージック学科に行こうかなって」
「⋯蛍はそれで良いの?」
「えっ?何で?」
ユニットを組むために進路まで変えてついてくる努力をしようとしているなら考え直してほしい。
現実的に考えて出した答えならば否定する気は毛頭無いが、正直 “流されている” 様に見えるのだ。
蛍の言葉を頭の中で否定すると、蛍は自信ありげに口角を上げた。
「ちゃんと自分の意思だから安心して。
実はさ。劇団に入る前、本当は楽器とか歌とか習いたかったけど母親に反対されて出来なかったんだ。母親は何故か昔から音楽を嫌っていて、家では音楽の話すら出来なかったんだ。
勿論、劇中に歌ったり楽器を演奏することもあったんだけど、芝居自体辞めることになっちゃったから⋯
また表に立つことに向き合おうって思えたのは雨野のお陰。だから俺も本気で自分のしたい事と向き合おうって思った」
「⋯そっか。わかった」
人前で歌う事には興味が無いと言う割には、歌が好きな事が手に取るように分かる。
そこまで真剣に考えていた事に秋良は感心した。
蛍の言葉を聞くなり意見も聞かずに否定をした事を心の中で詫び、その真剣で勇ましい目を見つめた。
迷いのない、自信に満ち溢れた目をしていた。
のちに自身も影響を受ける事になるのを秋良はまだ知らない。
11
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる