92 / 118
7.Winter song.-雨野秋良の場合-
告白
しおりを挟む
蛍はROOTのホームページを表示すると、アーティストの中からナナツボシの名前をクリックした。
以前見た時はナナツボシとミュージックフェスに出演をするという情報以外は全て “Coming Soon”だったが、フェスで優勝しているのにそのままというのは有り得ないだろうという世間的NGが強過ぎて更新をする事になった様だ。
フェス出場が決まった時は、情報が無いのも謎めいていて良いと思ったけど、流石に顔を晒してからの “Coming Soon”は如何なものかと思う。
まぁ、為平社長の事だから何か考えがあるんだうけど。
「流石にアー写は真面目なの使ってるな。
俺の予想だと、Ambivalenceのジャケットはあの写真っと⋯ 」
ナナツボシのディスコグラフィの頁をクリックすると、予想通りのジャケット写真が画面上に表示される。
「ん?!⋯ これ、ジャケットになっちゃうんだ!?
えっ?!良いの?これ?!!」
相当焦っている様子の蛍を見ると笑いが込み上げてくる。
「写真系は全部社長セレクトなんだよ。
トップの意見なんだから良いんじゃない?」
「まじか⋯ よりによってこの写真か」
蛍が嫌がったその写真は、例の西村さんにキスマーク隠せと言われた写真。
確かにその時は撮られていた側だから気にしていなかったが、こうして客観視してみると良い具合にエロティックな印象だ。
被写体がどうかはさておき、ナナツボシの楽曲イメージからもこの辺りの写真を使うのが妥当だろう。
寧ろ狙い通りだ。
「俺達にはジャケットのイメージに意見する権限無いの?」
「曲が出来た時点で、コンセプトやジャケットのイメージは申告済みだからな。そのイメージを元に社長も選んでる筈だよ。
今回は時間が無くて、俺ひとりでコンセプトとか出しちゃったから半分は俺の意見なのかも。
⋯ 嫌だった?」
「嫌って言うか最初からこれだと、何て言うんだろ?⋯ いや、単に俺が恥ずかしいってだけかも」
「インパクトあるジャケットだと思うけど?」
「そうなんだけど、そうじゃなくて⋯ 」
歯切れ悪く言葉を途切れさせると蛍は黙り込んだ。
何が引っかかっているんだろう。
キスマークを隠している写真だなんて言わなきゃ分からないし、他に恥ずかしがる様な所は見つからない。
「ねぇ秋、楽屋で言っていた事なんだけどさ」
「うん?」
「⋯ “嫌なら恋人じゃなくてもいい” って、どういう意味?」
「そのまんまの意味だけど。
蛍がただ兄弟や、ナナツボシをやっていく為だけの仲間って思うんならオレはそれでも⋯ 」
「違う!そうじゃ無くて⋯ 」
突然大きな声を上げた蛍に驚くと、ごめんと俯いた。
「どうしたんだよ?」
風呂上がりのほんのりと赤いままの体を、肩を掴んでに向けると自分と同じシャンプーの香りがした。
暫しの沈黙の後、蛍が訪ねてくる。
「秋はさ、その⋯ 俺と付き合ってるって思ってくれてたの?」
「そうだけど⋯ そう言うってことは蛍はそうじゃなかったみたいだね。⋯ ひとりだけ舞い上がって恥ずかしいよ」
苦笑いをして目を逸らすと、膝の上で握った蛍の拳が視界に入った。
「あの時は付き合うとかそういう話しなかったからそう思ってなくて⋯ 」
蛍の言葉がフェードアウトしていく。
─言い難い事を迷う時はいつもこうだ。
それに鈍感。
蛍には言葉でちゃんと言葉にしないと伝わらない。
どんな結果が待っていても。
「⋯ 俺は蛍が好きだよ。今までもこれからも。だから俺と付き合ってほしい」
そう告げると、蛍は俯いて黙り込んだ。
「⋯ 正直、色々あって混乱している。秋がこうやって真剣に向き合ってくれてるから、俺も中途半端な返事はしたくない」
徐々に蛍の目線が上がってくると、真剣な顔が覗いた。
フッと息を吐くと、言葉を続ける。
「秋の気持ちは嬉しい⋯ でも今は素直に頷けない。暫くそばで、今まで通り居ながら考える時間貰ったらだめかな⋯ 」
「⋯ うん、それで良いよ。
無理強いはしたくないし、蛍と一緒にいられるなら今はそれで満足。
でも、俺はずっと一緒にいたいって思っていることは忘れないで。だから蛍が、俺と付き合っても良いと思えたその時はちゃんと教えほしい」
蛍は再び俯くと、迷いの色を浮かべる。
「一番の願いは蛍が笑顔でいられる道を選んでくれる事。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、蛍が嫌々俺と付き合ったって嬉しくないから。
でも、帰ってくる家はここだと思ってほしい。家を空けるなとは言わない。でも連絡くらいはして?」
「⋯ うん⋯⋯ わかった」
─本当はこんなに物分りが良い人間じゃない。
本音を言えば無理にでも押さえ付けて自分のものにしてしまいたい。
でも、そんな事をしたって心まで手に入らないって事を知っているから。
だから、蛍が笑顔でいられる道を選んでほしいというのは本心。
決して善人ぶっている訳じゃなくて、それが一番、収まりが良いと感じるだけ。
蛍が幸せで、その上で自分も幸せになれたらそれは願ってもない事で、そうなれたら良いと心から思う。
今は待つよ。
待てる。
ナナツボシがあるし、蛍も俺の元に戻ってきてくれたんだから。
蛍の髪をそっと撫でると少しだけ緊張が和らいだ気がした。
蛍は抵抗せずにいてくれて、良い返事は貰えなかったのにそこまで気持ちが落ち込むこともなく、その距離感はちょうど良い。
蛍が帰ってこないとソワソワしていた先週とは天国と地獄程の差があった。
以前見た時はナナツボシとミュージックフェスに出演をするという情報以外は全て “Coming Soon”だったが、フェスで優勝しているのにそのままというのは有り得ないだろうという世間的NGが強過ぎて更新をする事になった様だ。
フェス出場が決まった時は、情報が無いのも謎めいていて良いと思ったけど、流石に顔を晒してからの “Coming Soon”は如何なものかと思う。
まぁ、為平社長の事だから何か考えがあるんだうけど。
「流石にアー写は真面目なの使ってるな。
俺の予想だと、Ambivalenceのジャケットはあの写真っと⋯ 」
ナナツボシのディスコグラフィの頁をクリックすると、予想通りのジャケット写真が画面上に表示される。
「ん?!⋯ これ、ジャケットになっちゃうんだ!?
えっ?!良いの?これ?!!」
相当焦っている様子の蛍を見ると笑いが込み上げてくる。
「写真系は全部社長セレクトなんだよ。
トップの意見なんだから良いんじゃない?」
「まじか⋯ よりによってこの写真か」
蛍が嫌がったその写真は、例の西村さんにキスマーク隠せと言われた写真。
確かにその時は撮られていた側だから気にしていなかったが、こうして客観視してみると良い具合にエロティックな印象だ。
被写体がどうかはさておき、ナナツボシの楽曲イメージからもこの辺りの写真を使うのが妥当だろう。
寧ろ狙い通りだ。
「俺達にはジャケットのイメージに意見する権限無いの?」
「曲が出来た時点で、コンセプトやジャケットのイメージは申告済みだからな。そのイメージを元に社長も選んでる筈だよ。
今回は時間が無くて、俺ひとりでコンセプトとか出しちゃったから半分は俺の意見なのかも。
⋯ 嫌だった?」
「嫌って言うか最初からこれだと、何て言うんだろ?⋯ いや、単に俺が恥ずかしいってだけかも」
「インパクトあるジャケットだと思うけど?」
「そうなんだけど、そうじゃなくて⋯ 」
歯切れ悪く言葉を途切れさせると蛍は黙り込んだ。
何が引っかかっているんだろう。
キスマークを隠している写真だなんて言わなきゃ分からないし、他に恥ずかしがる様な所は見つからない。
「ねぇ秋、楽屋で言っていた事なんだけどさ」
「うん?」
「⋯ “嫌なら恋人じゃなくてもいい” って、どういう意味?」
「そのまんまの意味だけど。
蛍がただ兄弟や、ナナツボシをやっていく為だけの仲間って思うんならオレはそれでも⋯ 」
「違う!そうじゃ無くて⋯ 」
突然大きな声を上げた蛍に驚くと、ごめんと俯いた。
「どうしたんだよ?」
風呂上がりのほんのりと赤いままの体を、肩を掴んでに向けると自分と同じシャンプーの香りがした。
暫しの沈黙の後、蛍が訪ねてくる。
「秋はさ、その⋯ 俺と付き合ってるって思ってくれてたの?」
「そうだけど⋯ そう言うってことは蛍はそうじゃなかったみたいだね。⋯ ひとりだけ舞い上がって恥ずかしいよ」
苦笑いをして目を逸らすと、膝の上で握った蛍の拳が視界に入った。
「あの時は付き合うとかそういう話しなかったからそう思ってなくて⋯ 」
蛍の言葉がフェードアウトしていく。
─言い難い事を迷う時はいつもこうだ。
それに鈍感。
蛍には言葉でちゃんと言葉にしないと伝わらない。
どんな結果が待っていても。
「⋯ 俺は蛍が好きだよ。今までもこれからも。だから俺と付き合ってほしい」
そう告げると、蛍は俯いて黙り込んだ。
「⋯ 正直、色々あって混乱している。秋がこうやって真剣に向き合ってくれてるから、俺も中途半端な返事はしたくない」
徐々に蛍の目線が上がってくると、真剣な顔が覗いた。
フッと息を吐くと、言葉を続ける。
「秋の気持ちは嬉しい⋯ でも今は素直に頷けない。暫くそばで、今まで通り居ながら考える時間貰ったらだめかな⋯ 」
「⋯ うん、それで良いよ。
無理強いはしたくないし、蛍と一緒にいられるなら今はそれで満足。
でも、俺はずっと一緒にいたいって思っていることは忘れないで。だから蛍が、俺と付き合っても良いと思えたその時はちゃんと教えほしい」
蛍は再び俯くと、迷いの色を浮かべる。
「一番の願いは蛍が笑顔でいられる道を選んでくれる事。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、蛍が嫌々俺と付き合ったって嬉しくないから。
でも、帰ってくる家はここだと思ってほしい。家を空けるなとは言わない。でも連絡くらいはして?」
「⋯ うん⋯⋯ わかった」
─本当はこんなに物分りが良い人間じゃない。
本音を言えば無理にでも押さえ付けて自分のものにしてしまいたい。
でも、そんな事をしたって心まで手に入らないって事を知っているから。
だから、蛍が笑顔でいられる道を選んでほしいというのは本心。
決して善人ぶっている訳じゃなくて、それが一番、収まりが良いと感じるだけ。
蛍が幸せで、その上で自分も幸せになれたらそれは願ってもない事で、そうなれたら良いと心から思う。
今は待つよ。
待てる。
ナナツボシがあるし、蛍も俺の元に戻ってきてくれたんだから。
蛍の髪をそっと撫でると少しだけ緊張が和らいだ気がした。
蛍は抵抗せずにいてくれて、良い返事は貰えなかったのにそこまで気持ちが落ち込むこともなく、その距離感はちょうど良い。
蛍が帰ってこないとソワソワしていた先週とは天国と地獄程の差があった。
10
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる