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8.Winter song.-吉澤蛍の場合-
ズルイ人間
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急遽ナナツボシとしての参加が決まった文化祭も終わり、秋良のマンションに帰宅。
先にお風呂を勧められて、出て来ると珍しく夕飯の準備をする秋良がキッチンに立っていた。
続きは作っておくと風呂に入るよう促したが、風呂には入るが準備途中の食材達には手を出すなと釘を刺されてしまった。
秋良の様子が少しおかしい事は感じていたので、今日の所は大人しくしておこう。
髪をタオルで拭きながら、テレビをつける。
丁度、音楽番組が始まった所で出演者にミュージックフェスで共演したあのJuiceの名前が表示された。
「みんな頑張ってるんだな⋯ 」
今日、文化祭のステージで社長から発表のあったTRAPとシャッフルでの活動。
あんな大勢の人がいる前での発表だ、嘘でしたは絶対無いだろうし、それなりに大きな仕事なんだろう。
組む相手は雪弥で、やる事は芝居。
懐かしいですなんて言ったけど、人前で芝居だなんて事出来るんだろうか?
それに雪弥と組む事にも正直不安がある。
ただでさえ不安定な、秋良と雪弥との関係を崩してしまう様な気がしてならなかった。
ぼんやりテレビを見ながら考えていると、テーブルの上に置いたスマートフォンが震える。
雪弥からの着信だ。
「もしもし」
『蛍?今大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうしたの?」
『明日、例の話の打ち合わせになった。10時に事務所なんだけど来れそう?』
「⋯ うん、大丈夫」
『良かった』
「⋯ じゃあ明日 」
『⋯ 蛍、疲れてない?大丈夫?』
「ううん、大丈夫だよ。それより今日はありがとうね、急遽演奏交ざってくれて。楽しかったし、流石だなと思ったよ」
『実は事前に、ステージに出るかもと情報があったからAmbivalenceのコードは一応見ておいたんだ。千尋も参加してるし、ひとりだけはけるのもカッコ悪いだろ?』
「いや、でも合わせるのは初めてなんだし、やっぱり凄いよ」
今日のお礼や感想などを言い合っていると、電話の向こうからは雪弥を呼ぶ声がした。
『ごめん、呼ばれた』
「そっか、まだ1本あるんだ。鷹城さんと話してたもんね」
『いや、後2本ある』
「えっ⋯ 忙しいね。それなのにステージ上がってくれたの?本当ありがとう」
『蛍の力になれるなら本望だよ。じゃあ、行ってくる』
「あ、うん⋯ 頑張ってね。また明日、打ち合わせで」
『ああ、ありがとう。じゃあ』
電話を切る直前、リビングに入ってきた秋良が隣に座り尋ねてくる。
「誰から?」
「雪弥。明日打ち合わせだって連絡くれて」
「ふーん」
秋良は無関心そうに言うと、目線をテレビに移し無表情のまま流れる音楽番組を眺めていた。
その沈黙に耐えられなくなり口を開く。
「そっそうだ。見直したい事って何?学校で言ってた」
「⋯ 忘れた」
「⋯⋯ この音楽番組、Juiceが出るみたいだよ。ツキくん元気かな?」
「先週現場一緒になったけど元気そうだった」
─何か怒っている。
いや、機嫌が悪い。
お風呂に入る前はそんなこと無かったのに。
この短い間の出来事なんて雪弥と電話したくらいなのに⋯
原因はそれなんだろう。
先週、秋良と喧嘩した時、数日の間は雪弥の家に泊めてもらっていた。
数日ぶりに仕事で会った時、戻って来てほしいと言われた。
そしてその夜、告白された。
付き合ってほしいと。
でも素直に頷けなかった⋯
“真剣に向き合ってくれてるから、俺も中途半端な返事はしたくない” なんて、ただの言い訳。
本当は心の中にいるのが秋だけじゃないから。
咄嗟にはぐらかしたんだ。
良い人ぶって。
それでも思っているなんて言われてほっとしている。
俺は本当にズルイ人間だ。
それなのに、秋も雪弥妙に優しくてストレートに気持ちをぶつけてくる。
正直、どうしたら良い分からない。
答えは自分しか知らないのに。
「ごめん、蛍が笑顔でいられる道を選んでほしいなんて言って、この態度はダメだよな。
正直、雪弥にすげー嫉妬してる。雪弥と暫く一緒に仕事するのも不安だ。本当かっこ悪い。でも、俺にそんなこと言う資格もないよな⋯ 」
秋良は手で目の辺りを覆うと俯いた。
素直に気持ちを受け入れる事は出来ない。
でも、雪弥に嫉妬してるだなんて、正直嬉しい。
行き所のない気持ちを押し込める事しか出来なくて、何も返すことは出来なかった。
秋良はそっと蛍の体を抱き寄せてごめんと呟いた。
先にお風呂を勧められて、出て来ると珍しく夕飯の準備をする秋良がキッチンに立っていた。
続きは作っておくと風呂に入るよう促したが、風呂には入るが準備途中の食材達には手を出すなと釘を刺されてしまった。
秋良の様子が少しおかしい事は感じていたので、今日の所は大人しくしておこう。
髪をタオルで拭きながら、テレビをつける。
丁度、音楽番組が始まった所で出演者にミュージックフェスで共演したあのJuiceの名前が表示された。
「みんな頑張ってるんだな⋯ 」
今日、文化祭のステージで社長から発表のあったTRAPとシャッフルでの活動。
あんな大勢の人がいる前での発表だ、嘘でしたは絶対無いだろうし、それなりに大きな仕事なんだろう。
組む相手は雪弥で、やる事は芝居。
懐かしいですなんて言ったけど、人前で芝居だなんて事出来るんだろうか?
それに雪弥と組む事にも正直不安がある。
ただでさえ不安定な、秋良と雪弥との関係を崩してしまう様な気がしてならなかった。
ぼんやりテレビを見ながら考えていると、テーブルの上に置いたスマートフォンが震える。
雪弥からの着信だ。
「もしもし」
『蛍?今大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうしたの?」
『明日、例の話の打ち合わせになった。10時に事務所なんだけど来れそう?』
「⋯ うん、大丈夫」
『良かった』
「⋯ じゃあ明日 」
『⋯ 蛍、疲れてない?大丈夫?』
「ううん、大丈夫だよ。それより今日はありがとうね、急遽演奏交ざってくれて。楽しかったし、流石だなと思ったよ」
『実は事前に、ステージに出るかもと情報があったからAmbivalenceのコードは一応見ておいたんだ。千尋も参加してるし、ひとりだけはけるのもカッコ悪いだろ?』
「いや、でも合わせるのは初めてなんだし、やっぱり凄いよ」
今日のお礼や感想などを言い合っていると、電話の向こうからは雪弥を呼ぶ声がした。
『ごめん、呼ばれた』
「そっか、まだ1本あるんだ。鷹城さんと話してたもんね」
『いや、後2本ある』
「えっ⋯ 忙しいね。それなのにステージ上がってくれたの?本当ありがとう」
『蛍の力になれるなら本望だよ。じゃあ、行ってくる』
「あ、うん⋯ 頑張ってね。また明日、打ち合わせで」
『ああ、ありがとう。じゃあ』
電話を切る直前、リビングに入ってきた秋良が隣に座り尋ねてくる。
「誰から?」
「雪弥。明日打ち合わせだって連絡くれて」
「ふーん」
秋良は無関心そうに言うと、目線をテレビに移し無表情のまま流れる音楽番組を眺めていた。
その沈黙に耐えられなくなり口を開く。
「そっそうだ。見直したい事って何?学校で言ってた」
「⋯ 忘れた」
「⋯⋯ この音楽番組、Juiceが出るみたいだよ。ツキくん元気かな?」
「先週現場一緒になったけど元気そうだった」
─何か怒っている。
いや、機嫌が悪い。
お風呂に入る前はそんなこと無かったのに。
この短い間の出来事なんて雪弥と電話したくらいなのに⋯
原因はそれなんだろう。
先週、秋良と喧嘩した時、数日の間は雪弥の家に泊めてもらっていた。
数日ぶりに仕事で会った時、戻って来てほしいと言われた。
そしてその夜、告白された。
付き合ってほしいと。
でも素直に頷けなかった⋯
“真剣に向き合ってくれてるから、俺も中途半端な返事はしたくない” なんて、ただの言い訳。
本当は心の中にいるのが秋だけじゃないから。
咄嗟にはぐらかしたんだ。
良い人ぶって。
それでも思っているなんて言われてほっとしている。
俺は本当にズルイ人間だ。
それなのに、秋も雪弥妙に優しくてストレートに気持ちをぶつけてくる。
正直、どうしたら良い分からない。
答えは自分しか知らないのに。
「ごめん、蛍が笑顔でいられる道を選んでほしいなんて言って、この態度はダメだよな。
正直、雪弥にすげー嫉妬してる。雪弥と暫く一緒に仕事するのも不安だ。本当かっこ悪い。でも、俺にそんなこと言う資格もないよな⋯ 」
秋良は手で目の辺りを覆うと俯いた。
素直に気持ちを受け入れる事は出来ない。
でも、雪弥に嫉妬してるだなんて、正直嬉しい。
行き所のない気持ちを押し込める事しか出来なくて、何も返すことは出来なかった。
秋良はそっと蛍の体を抱き寄せてごめんと呟いた。
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