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9.Song for you...
お弁当
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いつも感心する。
根気良く抱き締め続ける雪弥と、それを当たり前かのように受け入れる体。
同じベッドに入った夜は、こうして抱き締められたまま朝目覚める。
暑苦しいとか鬱陶しいとは感じない。
寧ろ心地良くて、起きるのが勿体無いと思うくらいだ。
浅い眠りの中、雪弥の起き上がる気配を感じると、髪を撫でられ触れるだけのキスが落ちてくる。
夢の中か現実か、不確かな境界線で心地よく揺らめいている内に、枕元で聞こえた電子音で部屋の隅に立て掛けてある複数のギターケースが目に映りこんだ。
背中を包む温もりは無くて、でも寂しさは感じない。
しっかり満たされているんだと頬が緩んだ。
シャワーを済ませ出かける準備が整うと、朝食用に淹れたコーヒーをゆっくり飲みながらニュースを見る。
情報番組のゲストとして画面に映し出されたのはTRAPだった。
千尋はソロの、雪弥は映画の話をして、さらにTRAPとしての活動の宣伝をする様子が映し出された。
個々に活動していると言っても、元々の知名度や人気がナナツボシとでは比では無いくらい高く、個々の活動に専念なんて有り得ない話だろうとは思っていた。
その知名度の差があるにもかかわらず、TRAPと同じように個々の活動をしているナナツボシは大丈夫かと少しだけ胸がざわついた。
少しもやもやした気持ちになりながらも、雪弥と千尋のトークも途中でテレビの電源をオフにすると、蛍は部屋を出て駅に向かった。
決して比べてはいけないとは言わないが、比べても意味はきっと無い。
そのくらい、TRAPは大きな存在。
世間的にも自分的にもだ。
そう思うとナナツボシの事を考えなくては、と余裕の無い頭で思った。
ふと、秋良の顔が浮かぶと違和感を感じる。
目まぐるしく変わっていく距離と関係に、追いつけていないんだろうと他人事の様に感じているという感覚はあるが、実際そうやって接した事が無いからだろう。
それはただの “違和感” でしか無かった。
火曜日の授業は必修科目が無い。
午後の授業しか無いという生徒もいる為、朝は簡単なホームルームが行われる程度で、会わないまま一日が終わるなんて人も多い。
この日は朝はゆっくり、3限目から演劇の授業が2時間、昼休みを挟んで5限目に日本史Bの授業。
今は4限目が終わって移動中。
月曜は山口と昼を食べて、唯一被った日本史Bを受けてから帰宅というスケジュールだ。
「蛍ー」
「山口、おはよう」
「おはようって、こんな昼間に学校で言うのも不思議だけど」
「関係者だとつい」
「俺はまだ慣れないよ」
昼だろうが夜だろうが、現場や稽古場でその日初めて会った人には “おはようございます” それ以降は “お疲れ様です”
いつも会う人であれば反射的に、どこに属する人かを判断して挨拶している。
「流石に散歩中のおばあちゃんに “こんにちは” って言われたら “おはようございます” とは言わないよ」
「でも俺が夜の現場でこんばんはって言ったらこんばんはって返すでしょ?」
「まぁそうかもね。だから飽く迄反射的にって話」
くだらない挨拶議論をしている間に食堂に着くと、弁当を持ってきたという山口に席取りを任せて食事を頼みにカウンターへ向かう。
ここの食事は味が良いと評判で、弁当を作っていた頃も朝の気分で学食に切り替えたりと、頻繁に利用していた。
佳彦が籍を入れて秋良のマンションに避難した時からは弁当は一切作っておらず、昼食を学食でとる事が多い。
「またそれ?」
「これが美味しいんだって」
ボリュームがあって、安くて、提供も早い。
山口にまたと指摘されるくらい気に入っているメニューはそぼろ丼。
野菜もたっぷりで、添えられた明太子マヨネーズがそぼろによく合う、学食の中では少しリッチな気分になれるメニューだ。
「そう言えば、秋見ないけど今日仕事?」
「どうだろ?特には聞いてないけど。
それ以前に全然連絡取ってないかも」
「俺まだ、マネージャーになった事言ってないんだよね」
「えっ?もうすぐ1ヶ月位だよね?」
「まぁ⋯ だってお前ら、どっちかが仕事でいない事多過ぎなんだよ。ただでさえ選択授業ばっかりで会わないのに」
「山口がそう思うなら結構休んでるのかもね。
もう卒業なんだし、仕事いっぱい取ってくるって鷹城さんウキウキしてたし、この後どのくらい仕事入れてるか分からないよ?」
「蛍の仕事が増えれば俺の仕事も増えるし、文句言わないけどさ。卒業だけはして?」
「俺よりも秋の方が心配だよ」
「⋯ 確かに」
山口は組んだ腕を解いて、再び弁当をつつき、空になると今度はパンの袋を開けて食べ始めた。
「どうした?」
「いつも弁当が美味しそうだなって。山口のお母さんは料理が上手いんだね」
「いや、弁当は俺の担当」
「本当に?そんな綺麗なのよく作れるね。
良いなー、俺にも作って?マネージャー」
「作るのは良いけど、マネージャー関係ないだろ」
「いや、ありますよ。お願いしますね、マネージャー。あ、ボリュームも欲しいなぁ」
「はいはい」
クスッと笑ってから頷くと、山口はパンを頬張った。
根気良く抱き締め続ける雪弥と、それを当たり前かのように受け入れる体。
同じベッドに入った夜は、こうして抱き締められたまま朝目覚める。
暑苦しいとか鬱陶しいとは感じない。
寧ろ心地良くて、起きるのが勿体無いと思うくらいだ。
浅い眠りの中、雪弥の起き上がる気配を感じると、髪を撫でられ触れるだけのキスが落ちてくる。
夢の中か現実か、不確かな境界線で心地よく揺らめいている内に、枕元で聞こえた電子音で部屋の隅に立て掛けてある複数のギターケースが目に映りこんだ。
背中を包む温もりは無くて、でも寂しさは感じない。
しっかり満たされているんだと頬が緩んだ。
シャワーを済ませ出かける準備が整うと、朝食用に淹れたコーヒーをゆっくり飲みながらニュースを見る。
情報番組のゲストとして画面に映し出されたのはTRAPだった。
千尋はソロの、雪弥は映画の話をして、さらにTRAPとしての活動の宣伝をする様子が映し出された。
個々に活動していると言っても、元々の知名度や人気がナナツボシとでは比では無いくらい高く、個々の活動に専念なんて有り得ない話だろうとは思っていた。
その知名度の差があるにもかかわらず、TRAPと同じように個々の活動をしているナナツボシは大丈夫かと少しだけ胸がざわついた。
少しもやもやした気持ちになりながらも、雪弥と千尋のトークも途中でテレビの電源をオフにすると、蛍は部屋を出て駅に向かった。
決して比べてはいけないとは言わないが、比べても意味はきっと無い。
そのくらい、TRAPは大きな存在。
世間的にも自分的にもだ。
そう思うとナナツボシの事を考えなくては、と余裕の無い頭で思った。
ふと、秋良の顔が浮かぶと違和感を感じる。
目まぐるしく変わっていく距離と関係に、追いつけていないんだろうと他人事の様に感じているという感覚はあるが、実際そうやって接した事が無いからだろう。
それはただの “違和感” でしか無かった。
火曜日の授業は必修科目が無い。
午後の授業しか無いという生徒もいる為、朝は簡単なホームルームが行われる程度で、会わないまま一日が終わるなんて人も多い。
この日は朝はゆっくり、3限目から演劇の授業が2時間、昼休みを挟んで5限目に日本史Bの授業。
今は4限目が終わって移動中。
月曜は山口と昼を食べて、唯一被った日本史Bを受けてから帰宅というスケジュールだ。
「蛍ー」
「山口、おはよう」
「おはようって、こんな昼間に学校で言うのも不思議だけど」
「関係者だとつい」
「俺はまだ慣れないよ」
昼だろうが夜だろうが、現場や稽古場でその日初めて会った人には “おはようございます” それ以降は “お疲れ様です”
いつも会う人であれば反射的に、どこに属する人かを判断して挨拶している。
「流石に散歩中のおばあちゃんに “こんにちは” って言われたら “おはようございます” とは言わないよ」
「でも俺が夜の現場でこんばんはって言ったらこんばんはって返すでしょ?」
「まぁそうかもね。だから飽く迄反射的にって話」
くだらない挨拶議論をしている間に食堂に着くと、弁当を持ってきたという山口に席取りを任せて食事を頼みにカウンターへ向かう。
ここの食事は味が良いと評判で、弁当を作っていた頃も朝の気分で学食に切り替えたりと、頻繁に利用していた。
佳彦が籍を入れて秋良のマンションに避難した時からは弁当は一切作っておらず、昼食を学食でとる事が多い。
「またそれ?」
「これが美味しいんだって」
ボリュームがあって、安くて、提供も早い。
山口にまたと指摘されるくらい気に入っているメニューはそぼろ丼。
野菜もたっぷりで、添えられた明太子マヨネーズがそぼろによく合う、学食の中では少しリッチな気分になれるメニューだ。
「そう言えば、秋見ないけど今日仕事?」
「どうだろ?特には聞いてないけど。
それ以前に全然連絡取ってないかも」
「俺まだ、マネージャーになった事言ってないんだよね」
「えっ?もうすぐ1ヶ月位だよね?」
「まぁ⋯ だってお前ら、どっちかが仕事でいない事多過ぎなんだよ。ただでさえ選択授業ばっかりで会わないのに」
「山口がそう思うなら結構休んでるのかもね。
もう卒業なんだし、仕事いっぱい取ってくるって鷹城さんウキウキしてたし、この後どのくらい仕事入れてるか分からないよ?」
「蛍の仕事が増えれば俺の仕事も増えるし、文句言わないけどさ。卒業だけはして?」
「俺よりも秋の方が心配だよ」
「⋯ 確かに」
山口は組んだ腕を解いて、再び弁当をつつき、空になると今度はパンの袋を開けて食べ始めた。
「どうした?」
「いつも弁当が美味しそうだなって。山口のお母さんは料理が上手いんだね」
「いや、弁当は俺の担当」
「本当に?そんな綺麗なのよく作れるね。
良いなー、俺にも作って?マネージャー」
「作るのは良いけど、マネージャー関係ないだろ」
「いや、ありますよ。お願いしますね、マネージャー。あ、ボリュームも欲しいなぁ」
「はいはい」
クスッと笑ってから頷くと、山口はパンを頬張った。
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