アストラ金貨物語

友永ゆう

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第五章

妻を紹介する

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 玄関ホールに入ると、屋敷に仕える大勢の使用人たち。その中央には赤い髪で細身の眼鏡をかけた
男性が待っていた。

「ラウル・・・戻ったのか。まあ、よく無事だったな」
彼は冷ややかな目をしてラウルを見据えた。

「た、ただいま・・・」

(こいつは男兄弟か。でも兄か弟かよくわからない・・・父とは違う文官タイプの人のようだが)

「ザカリアス。お前もきなさい」

伯爵が短く言うとザカリアスと呼ばれた男は眼鏡の位置を微調整するようにしながら一行の後に続いた。彼らは大きな暖炉のある広く豪華な部屋に入り、伯爵が勧めるがまま、それぞれ座った。
ラウルはルパルナを離さないように自分の傍に置き、装飾された長椅子に腰かけた

間も無くメイドがお茶と菓子を持ってきてくれたが、伯爵はそれに手を付ける前に話を始めた。

「ラウル、先ほどの話の続きだ。何故アイシャではなく、その娘を選んだ」

「え、お前アイシャを捨てたのか?」
ザカリアスと言った青年が驚いて言った。

ルパルナの身体が強張るのを感じる・・・。

「ザカリアス。黙っていなさい」

伯爵が窘めると、彼はそれ以上口を開かなかった。

(いちかばちかだ・・・・半分は想像で話すしかない)

ラウルは覚悟を決めて口を開いた。

「俺は・・・家同士の繋がりということで決められた相手より、自分の気持ちを優先して彼女を選びました。もしお許しが頂けなければ、アルベルドの名を捨てる覚悟でおります」

広間を静寂が包んでいだ。
理由は違えど、真っ青な顔の母と妹、そしてルパルナ。
面のように表情を変えないザカリアスと父。
全く緊張感もなくあくびをしているベル。
やがて、静寂を破り、アルベルド伯爵が口を開いた。

「・・・ラウル、お前の覚悟はわかった。で、娘さん。貴女はどういった出自の方なのだ?」

(こんな雰囲気の中で、きっとギリギリの状態のルパルナに話をさせる訳にはいかない)

「彼女は緊張に緊張を重ねています。お察しください。そのことは俺から話しましょう」
ラウルは続ける。

「ルパルナは、本名はルパ・ルナ。ルパ族のルナという意味です。そもそもルパ族というのは、ご存じ無いのも当然かもしれませんが、千年の昔、世界を苦しめた伝説の魔神を英雄王と共に退けた5大氏族の末裔となります。彼女はその勇者の血を色濃く受け継いだ一族の女性です」

「ルパ族・・・確かステラス領に土着の一族だと昔聞いたことがある。そうか、彼らにはそんな言い伝えがあったのか」

「まあ、それではジェマイエフ王家よりも古い伝統をお持ちなのですわね!」
さっきまで青い顔をしていた母が、ルパルナを見て口を開いた。

「でも、先方にどう言えばいいのかしら」

「あ、アイシャはもうこの事を知っています。ボウィックの街で会いまして・・・。納得したかどうかはわかりませんが」

「クロードは理解してくれるだろうさ。ただ、奴はお前がお気に入りだったから、息子にならなかったことは残念がると思うが」

「あの・・・俺たちの事は認めていただけるのでしょうか」

「お前が選んだのだ。我らがどうこう言おうと曲げることは無いのだろう。それに・・・」

「俺はそのお嬢さんが伝説の勇者の一族というのが気に入った。我が家にその血が混ざる事はとても光栄に思う」
父は優しくルパルナに微笑みかけてくれた。

母も納得してくれたようだ。
「武門の誉れ高きアルベルド伯爵家に相応しいお嬢さんだとわかりました。これからは家族ですよ。よろしくお願いしますわね。ルパルナ」

「お義姉さま、よろしくね。私ジルと申します」

「ラウルの兄、ザカリアスだ・・・。以後よろしく」

「よ、よろしくお願いします!私頑張りますからっ」
ルパルナは何を言っていいのかわからない位混乱していて、泣きながらラウルの家族に挨拶をしていた。そんな彼女を優しく包むように母と妹が傍に来て慰めてくれている。

(一つ、仕事が終わった。しかし・・・もう一個ある。しかし、今言うことじゃないな・・・どうしよう)

ラウルはこの状況にほっとしながらも、緊張はまだ解れなかった。

(あとで父上に話そう・・・)

「えー-!お義姉さま、私と歳変わらないのですか!?」

「ジルさんも16歳なのね」

「さん付けはやめて!もう家族よ」

「あらあら、若いと思っていたらジルと同い年だったなんて」

「それと・・・彼女のお腹の中には俺の子がいます」

「えええええええええええええ!?」
ジルが叫び、母が驚きのあまり口を手で押さえ、兄は眼鏡をかけなおし、父は紅茶のカップを取り落とした。

「間違いないのですか?ラウル」
母の問いに頷く。

「私の・・・祖母が、いくつか出ていた兆候が妊娠を指していると。話していたことも全部当たってるので、間違いないと思います」
恥ずかしそうに報告するルパルナ

「ルパルナの身体の中の魔力の流れがおかしなことになってるから、間違いないわよぅ」
土産の焼き菓子を食べながらベルが言う。

そんな能力を持ってたなんて知らなかったが、ベルの言葉がルパルナやラウルの言葉に説得力を持たせてくれた。

「ああ、私もお婆ちゃんなのですね・・・まだ若いと思っていたのに」

「私だっておばさんよ!」

「でも、なんという素晴らしい事なのでしょう!ありがとう。ルパルナ」
母は感激してルパルナを抱きしめた。

「そうだ!お兄様、結婚式をしなければいけませんわ!たくさんの方を呼んで、豪華にやりましょう」

「あ、結婚式はルパルナの故郷で挙げてもらったんだ。俺はその式を大事にしたい。だから、改めてやるのは・・・」

「あら、やらないのですか?」

「うちとしてはそれは助かる。式をすればそれだけ金が飛ぶからな」

「私は、ラウルの考えに従います」
ルパルナは幸せそうだった。

「ラウル、とにかくおめでとう。二人とも、ここでは遠慮などせずに、いつまでもいてくれて構わない」

「私も忘れないでねっ」
ベルが口を挟む。

「そうだったな。三人とも。ゆっくりしていきなさい」
父は優しく言ってくれた。



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