アストラ金貨物語

友永ゆう

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第五章

ラウルの日記①

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  「ラウル、ルパルナをお部屋に案内して少し休んだらどうかしら?全部あなたが家を出る前のままにしてあるのよ」

「そうですね。ジル、ルパルナを案内してあげてくれないか」

「はい、お姉さまこちらですわ」

(この隙を逃さず、ジルの後から向かおう)

3人娘はすっかり打ち解けて、きゃいきゃいと何を話しているのかよくわからないが盛り上がりながらラウルの部屋に向かった。その後ろを不自然にならないようにラウルは付いていく。
部屋に着くとルパルナはきょろきょろと部屋を見回す。ベルは「広ーい」といって飛び回り、ジルは窓を開けてくれた。爽やかな風が入ってきて、籠っていた空気を一掃してくれた。

「ね、お兄様!そのまんまでしょ?私もお掃除したりしてあげてたのよ」

「そうか、いい子だなジル」

「うふふ、それじゃお邪魔しないように私は戻ります。夕食は御一緒しましょうね」

3人だけになってラウルもルパルナも溜息をついた。
なぜなら、。あの雰囲気をぶち壊す訃報を話す気には到底なれなかったからだ。
それはルパルナも一緒だったようで、心配そうにラウルを見る。

「でもなあ・・・親のあの幸せそうな顔見たら、言えないんだよ・・・」

そこは彼女も理解しているようだった。

「そうよね・・・わかるよ。ラウル」

ラウルの私室は広く、書斎には天井まである大きな本棚が2面あった。
無骨だが、頑丈そうな机にはいくつか引き出しがあって、ラウルはおもむろに一番大きな引き出しを開けてみた。

(ん、日記がある。丁度いい、過去を知ることができるからな・・・読ませてもらうか)

その日記はラウルが家を出る16歳になったばかりの頃のものだった。

(前から日記を付けていたんだろうな・・・。最初から読んでみたいな。探してみるか。本棚にあるかな?)

「ベルー」

「なによー」

「ちょっと探し物手伝ってくれ」

「何すればいいの?」

「この装丁と同じようなのを本棚の上の方から探してみてくれ」

「なぁに?これ」

「日記だよ」

「りょうかい!」

「何してるの?二人とも」

「日記を探してるんだ。どこに置いたか忘れてしまってね」

「ラウル、日記つけてたのね!見たい!あ・・・秘密にしたいよね、ごめん」

「いいさ。全巻揃えて見返してみようと思ってね」

「私、荷物解いておくね」

「ああ、頼む」

「ラウル!一番上にかたまっておいてあるわよ」

「やっぱりな。目立たないところに置いてるんじゃないかと思った」

ラウルは梯子を使って全部の日記を取り出した。全部で6巻ある。

(マメだったんだな。10歳から付け始めたようだ。他愛のないことばかり書いてあるが、子供なのだから当然か)

最初の巻は10歳の一年間に書いたものだった。
家族の事、友人の事ばかり書いてあった。なかでもアイシャの名前がよく出てきて、ずいぶん仲のいい幼馴染あったんだなと思った。

『アイシャにキスされた。あかちゃんができちゃうって言われた。弟がいいな・・・』

子供らしい感じに思わず吹き出した。
一緒に読んでいるベルが大笑いしている。
だが、この第一巻にアイシャとの関係がはっきりと書かれていたのだ。

『アイシャが結婚しようと言ったので、結婚することにした。そのことをクロードおじさんに話したらすごくよろこんでだっこしてくれた。アイシャもうれしそうだったし、アイシャは一番仲がいいから僕もうれしい。』

アイシャとの婚約はこの頃にしたものだったようだ。彼女はそれをずっと一途に信じて待っていてくれたのだと思うと、やはり心苦しい。

「ラウルー。やっぱり側室??」

「バカ!そんなの無理に決まってるだろう!」

「アストラ金貨はそれくらいの望みなら叶えられるわよー」

「・・・考えとく・・・」

ベルはケタケタと笑った。
それから兄ザカリアスとはあまり仲が良くなかったこと、幼い妹と弟がかわいかったこと、母が幼い弟妹にかかり付きで、寂しかったこと、父を尊敬している事などが、10歳の時点で分かった。
11歳になって、次の巻。あまり収穫は無く、12歳になってから学院というものに入って知識と武術を鍛えるということが書かれてあった位だった。

「そういえばルパルナ戻ってこないな。ベル、見てきてくれ」

「はーい」

ルパルナが荷物を解いている部屋にベルが飛んでいく。
半開きのドアから中に入ると、すぐに戻ってきた。

「うたた寝してる感じ?ベッドに転がってるー」

「何かかけてあげないとな」

ラウルは部屋に行くと、緊張の糸が切れたのか、荷解きの最中に転寝してしまったルパルナの頬にキスをすると毛布を掛けた。
そして書斎に戻って日記を再び読み始める。

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