アストラ金貨物語

友永ゆう

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第六章

武闘大会⑥

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 治療を終えて回復薬を飲んで休んでいると、ベルが偵察から戻ってきた。

「次の相手は弓使いよ!エルフよエルフ。それで昼休憩を挟んで再開になるんだって」

「食事は持ってきてもらえますわ。だからここから動かないでも大丈夫です」

「助かる。少しでも休んでおきたい」

「食事は私たちの分も?」

「頼んでおきますわ」
アイシャは請け負うと、警備の兵士に話をしに行った。

「それじゃ、魔力を回復させる香を焚くわね。といっても、全く無いよりはマシ程度なんだけど」

「助かるよ、ナディ」

ナディーリアは不思議な香りの香を焚いた。故郷の森で取れる材料を調合して作ったのだという。
焚くと、薬を塗っている時に歌ってくれた歌をまた歌ってくれた。

「音楽があるといいんだけど、私不器用で演奏はできないのよ・・・」

「ありがとう。すごくリラックスできる」
ナディーリアは優しく微笑むと、歌を続けるのだった。


 休憩の後、トーナメントが再開された。
一般に諸王国と称される各種族の王国の一つ、エルフの王国、フェルディーク王国・騎士ライディス
が次の相手だった。フェルディーク王国は、ナディの出身国である。
エルフの騎士ライディスは、弓が主武器だった。
彼は寡黙で、ラウルが話しかけても何も語らず・・・。

そうして試合は始まった。
ラウルは魔力回復が完全ではないため、素のままで戦うことを決めた。壊れた武器の代わりに新たに支給された大剣を振るい、一気に間を詰めるが、ライディスは軽やかに躱し、隙を見て矢を放つ。
どんなに体制を崩されても確実にラウルを捉えてくる。エルフのイメージぴったりの騎士だった。

(回避力は今まで戦ったどの相手よりも上だ。そして正確無比な弓・・・。彼も疲労の蓄積があるから全力ではないんだろうが、全力だったらどんな戦いになったろうか)

ライディスは突如ギアを上げる。順々にではなく一気に。一度に3本の矢を放つ。しかもそれぞれ違う箇所を狙ってくる。流石のラウルも被弾を始める。そして何本も放つうち、矢が尽きてきた。
それを狙っていたラウルだったが、その次のライディスの動きに驚きを見せる。
彼は何らかの呪文を唱え出した。

(ちっ矢が無くなればと思っていたが、余力を隠してたか)

数本身体を打ち抜かれ、ラウルの動きは鈍っていた。そこへ何かの魔法攻撃。これは避けられない。
ライディスが呪文を唱え終えると矢の発射先に光の輪が発生した。
彼が矢をつがえずに弦を引き放つと、その光の輪から5本の光の矢が発生し、ラウルを襲う。

(魔法の矢か!!避けられん!)

「ぐうううっ!!」

5本の光の矢はラウルの身体を容赦なく打ち据える。ライディスは勝負所と思ったか、立て続けに弓の弦を弾き放つ。一回放つたびに5筋の光弾。僅かでも動かずに牽制しないと無数の攻撃が来る。
(決勝に残しておきたかったが・・・そんなこと言ってられん。皆一流の参加者なんだものな)
ラウルは火焔魔鎧を発動した。これで魔力は底を尽く。もし勝ち残った場合、決勝までどれほどの時間があるのかわからない。だが、きっともう魔力回復はできないだろう。それでも勝ち抜くためには仕方なかった。
そして上級魔法障壁は効果が覿面だった。無数に放たれた光弾を、炎を纏った魔法剣と化した大剣がはじき返す。捉えきれない物は鎧が弾く。
ライディスの表情が曇る。彼もギリギリの闘いだったのだろう・・・
その後、彼は弓を捨て剣を抜き放った。そして斬りかかってくる。
素早い身のこなしは変わらず、矢を放つのと同じくらいの素早い攻撃がラウルを襲う。
大剣で捌ききるのは不可能だった。何撃か火焔魔鎧で受けたが、ラウルはそこで吸収しきれないダメージを受ける。

(これは・・・魔法剣か!)

ライディスの使用している片手剣は初めから魔力を帯びたアイテム、所謂魔法剣だった。
ラウルの身体からは傷から血が流れ始めた。

(殴り合いなら・・・簡単には負けん!!)

両者の闘いは打って変わって血みどろの殴り合いになった。ラウルは3回に一回ほどの命中に留まっていたが、一撃一撃が重く、ライディスはみるみるダメージを蓄積していく。ライディスの攻撃は軽いものの速く、ラウルは徐々に追い詰められていった。
限界が近かった。だが、その時はっきりとアイシャの声が場内の大歓声に紛れてもラウルの耳に届いた。

「───ラウル!貴方は負けたりしませんわ!!」

「おおおおおお!!!」
ラウルの残った力を全て込めた一撃は、幸運にもライディスを捉え、その斬撃の一撃で彼を吹き飛ばし血の海に沈めたのだった。

「勝者、ラウル・アルベルド!!」

勝ち名乗りを受けたラウルだったが、意識を保って立っていることはできなかった。
力尽き、その場に崩れるように倒れた。
それでも歓声は止むことなく、より大きくなった。この武闘大会の観客は、奇麗な闘いよりもこういった泥仕合を楽しみに来ているのだ・・・
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