アストラ金貨物語

友永ゆう

文字の大きさ
67 / 73
第六章

武闘大会⑦

しおりを挟む
 「う・・・うう・・・」

「ラウル!よかった。目が覚めたのね」

「あ・・・気を失っていたのか・・・」

「はい、回復薬よ~」
ベルが持ってきてくれた。

「ありがとう。助かるよ」

「ラウル、あとは任せて動かないでね・・・」
ナディとアイシャが薬を塗ってくれている。

「アイシャの声が聞こえたよ。ありがとう。あの声援が無かったら最後の一撃は放てなかったろう」

「私にできることはそれくらいですから・・・」

「ベル、決勝はどんな相手か見てきてくれるか」

「わかったわー」


やがてベルが戻ってきた。

「最後の相手はラウルと同じ戦士よ。ラウルと一緒でボロボロね」

「・・・人間か?」

「そう、人間!」

「よし。ナディ、とにかく動けるようにしてくれればいい。それで勝てる」

「え??ま、まあ・・・動けるようにはなると思うけど、勝てるの?」

「ああ、普通なら五分五分だが、お互い条件はほぼ互角で俺と同じ戦士なら・・・」

「ラウル、自信があるのは良い事ですけれど・・・油断してはいけませんよ」

「ありがとう。だが、観客には申し訳ないな。きっとつまらない戦いになる」

3人の娘たちは顔を見合わせていた。

「ナディ、頭にも塗り薬って効くかしら?」

「うーん・・・こういう場合は手の打ちようが・・・」

「俺は正気だ!まあ、見ていてくれ」


 決勝は準決勝が終わってから、それほど時間の間を置かずに開始された。人々の気分の昂ぶりが冷める前に行おうという国王陛下の無茶ぶりだという・・・。
ナディを含む3人(?)の美女達の甲斐甲斐しい看護のおかげで、辛うじて動く程度に回復していたラウルは堂々と会場に立った。
審判係の武官が激しく鳴らされた銅鑼とラッパの競演の後に、大声を張り上げる。

「これより武闘大会、決勝戦を行う!!」

それと同時に歓声が沸き上がる。早くも不穏な声を上げる興奮した観客も多数おり、今までとは全く雰囲気が違っていた。

「名高きジェマイエフ王国の英雄、ラウル・アルベルド!!そしてラングリオ王国が誇る星4黄金級の勇士アルスター・ジャイフ!!」

アルスター・ジャイフは黄金の髪をセンターパートに整えた、ラウルと同年代の若い戦士だった。
連戦の疲れが表情に出ているものの、ここまで勝ち残っていると言う事は実力は折り紙付きと言う事だ。

「焔嵐のラウルと戦えるとはな。どちらが上か勝負だぜ!」

「望むところ。いくぞ!」

「武闘大会、決勝戦!始め!!!」

ラウルとアルスターは真正面から打ち合った。それだけで実力は伯仲とわかった。観衆はこの後の実力者同士による血みどろの消耗戦に期待し、大歓声を上げる。

「アルスター!!余力があるときに戦いたかったぞ!」

「ああ、全くだ!!これほどの相手がいたとはな。世界は広い!」

激しく打ち合うと、アルスターの一撃がラウルの大剣を弾き飛ばした。

「もらったぞ!!」
二人は同時に叫んだ。

アルスターの一撃がラウルを上から捉え、背を丸め突っ込んでくるラウルの背中に剣がめり込む。それでも構わずにラウルは突っ込み、アルスターの胴を捉え、足を掛けてうつ伏せに転倒させた。

「組み技か!これとて習得済みだ!」

立ち上がろうとするアルスターだったが、初めからこれを狙っていたラウルの方が速かった。
相手の両足を、それぞれ両のわきの下にはさみこみ、そのまま相手の身体をまたぎ、一気に相手の背中を反らせていく。所謂プロレス技のボストンクラブ。逆エビ固めだ。

「ぐああああああっっ!!」

「簡単で地味だけど効果抜群だろう!?簡単だからってガキがふざけてかけて死人が出たくらいの技なんだ。鍛えてるお前ならそうはならんと思うが、返し方も知らないし、苦しいだろう!」

「く、くそ!!!」

アルスターは大剣を振り回し背後のラウルに攻撃をするが、武器は当たるものの、うつ伏せになっているうえに、しっかり背中と腰が極まっている。更に悪いことに、ラウルの馬鹿力で鎧ごと強引に背中が反らされていく・・・・。剣によるダメージなど、ラウルには皆無だった。
見たことのない組み技で戦いの動きが止まった。会場の観客は戸惑い、しんと静まり返っていた。

「俺の力なら、このままお前の腰を折る事もできる!降参しろ!!どのみちあと僅かで窒息して気を失うぞ、俺が言っている事は身をもって理解してるよな?」

「・・・・ま、参った・・・俺の負けだ!」

「・・・しょ・・・勝者!ラウル・アルベルド!!」

ラウルが勝ち名乗りを受けても、会場は静まったままだった、少しして漸く我に返った観客達から歓声が上がる。想像と全く違う闘いだっただろうが・・・。
その後、控室に戻ることなく、国王陛下から武闘大会制覇を称賛された。

「ラウルよ・・・やはりお前はすごい男だな。良いところまでは進むと思ったが、まさか初参加で優勝してしまうとは」

「もったいなく存じます。陛下」

「望みはあるか?本来なら召し抱えたい所だか、断られているからな」

「陛下、私の仲間と妻に装飾品を贈りたいと思っておりまして・・・。街で買いそろえるのではなく、国から賜りたいのですが、いかがでしょうか」

「そのような事造作もない。宝物庫から好きなものを持っていくがいい」

「ありがとうございます、陛下」

「陛下!中には国宝級の宝物がありますが・・・」

「いらんいらん。装飾品など儂には滑稽なものだ。相応しい勇者が欲しているのなら、与えたほうが良い。よいな。いずれラウル一行が宝物庫を訪れるだろう。その際には構わず中に入れて好きなものを与えるがよい」

「は、はは!!」
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...