転生した脇役平凡な僕は、美形第二王子をヤンデレにしてしまった

七瀬おむ

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【1巻】後日談(全10話)※本編ネタバレあり

1-⑤

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***

「アルベルト殿下、エミル様。本日はお二人でお出かけになるのですね!? どうぞ楽しんでいってらっしゃいませ!」
 
 ロイス城のエントランスホール。そこでメイド長は、僕とアルベルトに対してこう告げた。
 普段は落ち着いた雰囲気のメイド長だが、今の彼女はキラキラと瞳を輝かせ、頬を緩ませていた。
 周囲に整列していたメイドたちも、皆一様に満面の笑みを浮かべている。
 メイドたちの中には、以前執務室で話をしたテラもいた。彼女は花が咲くような笑みを浮かべながら、僕とアルベルトをうっとりと見つめている。
 
「皆さんありがとうございます。帰るのは夕方になりますので、よろしくお願いします」
 
 僕がそう言うと、メイド長が「かしこまりました!」と明るく答え、整列していたメイドたちが一斉に頭を下げた。
 ぴしっと揃った礼をされて、彼女たちの洗練された所作に驚いてしまう。
 ――なんか最近、メイドの皆さんの熱意が高まっているような気が……。
 そんなことを考えていると、隣にいるアルベルトから声をかけられた。
 
「エミル。それじゃあ行こうか?」
「あっ、はい!」
 
 僕ははっと顔を上げ、アルベルトについてエントランスホールを出た。
 
 
 ――僕たちは今日、ロイスの中央通りを視察することになっていた。
 前回二人で視察に行ったのは、アルベルトが正式に領主になる前のことだ。僕は久方ぶりの彼との外出に、胸が躍っていた。
 アルベルトは前回と同様、魔法で髪を漆黒に染めて、瞳の色も紅く変色させている。そして僕もアルベルトの魔法で茶髪にして、瞳を青に変えていた。お互いに服装も地味なものを選んで、街中で目立たないような準備は万端だ。
 
「アルベルト殿下、エミル様! こちらです!」
 
 ロイス城の門前に行くと、騎士のアーロンが僕たちに声をかける。彼の背後には観光客用の馬車が用意されていた。
 
「本日はこの馬車で中央通りまで向かおうと思います。屋根もない簡易的なものですが、いつもの馬車だと目立つのでお許しください」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます。それでは私が操作しますので、こちらにお座りください」
 
 僕とアルベルトは、早速二人掛けの椅子に腰かけた。アーロンは前方にある御者の席に座り、鞭を振って馬を走らせた。
 走り出した瞬間、心地よい風が頬を撫でる。今日は雲一つない快晴で、降り注ぐ日の光がロイスの景色を鮮やかに照らしていた。
 僕はそのまま、隣に座るアルベルトをちらりと見る。
 彼は城にいる時とは異なり、黒いシャツに灰色のベストというシンプルな恰好だ。いつもと違う姿に、心なしか鼓動が早くなってしまう。
 彼のすっと通った鼻筋も、長い睫毛も、柔らかな髪がふわりと揺れている姿も、見惚れてしまうほどに美しかった。
 
「エミル。どこか行きたいところはあるか?」
「えっ!?」
 
 アルベルトから突然話しかけられて、声が裏返ってしまった。
 至近距離でずっと彼を見つめていたことに気がついて、ぱっと顔を逸らす。
 
「そうですね……今回は街の書店にも行ってみたいです。テラさんが書いた本も、無事に販売されたって聞きましたし」
「わかった、それなら最初に書店に行こう。……エミル、まだあの本は読んでなかったのか?」
「テラさんが原稿を見せてくれたので、内容は知っているんですけど……。出来上がった本としては見てないんです」
 
 僕とアルベルトが本について話をしていると、前で馬車を操縦していたアーロンが軽く振り向いて、僕たちに声をかけてきた。
 
「殿下、エミル様。私もその本読みましたよ!」
「えっ、アーロンさんも……?」
「ロイス城のメイドや騎士も、最近はその話題で持ちきりでしたから。ロイスだけじゃなくて、王都でもかなり話題になっているらしいですね」
「話題に……? というかあの本、王都にも流通してるんですか!?」
 
 僕は目を見開いて聞き返す。するとアルベルトが、なんてことないように答えた。
 
「ああ。物語の冒頭から中盤までは王都での話だっただろ? だから王都でも受け入れられそうだなと思って、流通させておいたんだ」
 
 いくら名前を変えているとはいえ、僕たちを題材にしたBL小説が王都まで広まっているだなんて。
 僕はなんと言えばいいのかわからず固まっていると、アーロンが嬉々として語り始めた。
 
「私はやっぱり、ラストで王子様が『これからはずっと一緒だ』って告白するシーンが好きですね! 様々な困難を乗り越えてロイス領に来て、やっと結ばれたって感じがして。殿下とエミル様も、きっと色々な障壁があったんだろうなって想像しちゃいましたよ!」
 
 顔をひきつらせて聞いている僕をよそに、アーロンは純粋な笑顔を向けた。
 そもそもアーロンには何も言っていないはずなのに、あの本が僕達を題材にしていることを完全にわかっているらしい。
 
「それにしても、最近城の者たちから『お二人は王都でどんな様子だった?』って聞かれるんですよー」
「え……?」
「特にメイドたちはお二人の関係性に興味津々ですからね。しかも自分たちがこっそり読んでいた物語が殿下の公認を受けたものだから、皆やる気に満ち溢れていますよ。『私たちが、ようやく結ばれたお二人の幸せな生活を支えるんだ!』って」
「は、はあ……」
 
 ――だから最近、やけにメイドの皆さんのテンションが高かったのか……?
 僕はアーロンの言葉に、それ以上何も言えず黙ってしまった。
 僕たちを軽蔑せずに温かく見守ってくれるのは嬉しいのだが、さすがにちょっと恥ずかしい。
 
 
「アーロン。そろそろか?」
 
 しばらく馬車を走らせていると、アルベルトが少しだけ身を乗り出して、アーロンに声をかけた。
 僕も目を凝らすと、中央通りの前にある門が遠目に見えた。
 
「はい、殿下。あの門の近くで降りましょうか。私たちは前回と同じく、距離を取って後ろからご同行させていただきます」
「わかった。助かるよ」
 
 馬車は中央通りに続く門の近くに止まり、僕たちはそこに降り立った。すぐに後ろからもう一台の馬車が来て、アーロンと他二名の護衛が揃ったようだ。
 そうして僕はアルベルトの隣に並び、中央通りに続く門をくぐった。
 
 
 
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