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2話
喰らう影たち
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駅前のロータリーに、アヤトは佇んでいた。
かつては人と車が溢れていた場所だ。
今は静寂だけが支配し、風さえ吹いていない。
「……遊び気分で来るとこじゃ、なかったな」
溜息混じりにつぶやく。
彼の身体は常に“幻”をまとい、姿も気配も曖昧にぼやけている。
けれど今、この街に彼を見つける者などいなかった。
──そのとき。
ぞわり、と背を撫でるような気配が走った。
音はない。だが、確かに“何か”が近づいている。
アヤトは目を細め、振り返る。
一体。
廃ビルの影から、這い出してくる“それ”。
ぐにゃりと歪んだ身体。
皮膚は裂け、骨がむき出し。顔の半分は崩れている。
だが、はっきりと──“こちらを見ている”気配があった。
続いて二体、三体。
地下通路の階段、自販機の裏、電柱の影。
いたるところから、ぞろりと現れてくる。
「……数、いるな」
アヤトは気配をさらに抑える。
自身の幻を濃く収束し、姿と気配を限りなく薄くする。
周囲の空間が揺らぎ、アヤトの存在が“世界から浮く”。
──異形たちは動きを止めた。
こちらを、見失ったようだった。
数体が彷徨い、舌のようなものを地面に這わせて動き回る。
アヤトは無言のまま、そっと一歩踏み出した。
だがその瞬間、頭上から何かが“跳んだ”。
「っと……!」
避けきれず、右腕をかざす。
肩から腕へ、白い幻が走る。
腕を包むように変化し、鋭利な“爪”が生える。
跳びかかってきた異形の顔面を、幻の爪で斬り裂く。
肉が弾け、骨が砕ける。
だが──止まらない。
砕けた肉塊の中から、別の“手”が伸び、隣の異形に取り込まれていく。
──融合。再構築。
「……壊せば喰って、生き延びるってか」
舌打ちし、両脚に幻を展開。
足元を白い光が包み、足裏には鋭い蹴爪が形成される。
地面を蹴る。跳ぶ。
蹴爪が一体の顔を貫き、壁に叩きつける。
まだ、終わらない。
交差点全体に、三十を超える異形が蠢いている。
──そのとき。
ビルの屋上から、“それ”が落ちてきた。
十体分の肉が癒着したような巨大な異形。
無数の顔と手、そのすべてがアヤトを“見ていた”。
開いた口が、濁った声を漏らす。
「……お……ま……え……も……」
空虚な模倣。言葉ではなく、ただ音を真似ているだけ。
アヤトは、怒っていた。
目を伏せ、ひとつ息を吐く。
そして──自らの幻を解いた。
空気が揺れ、姿が世界に露出する。
黒髪が風に揺れ、眠たげな目が怒りに光っていた。
「……ふざけるなよ」
肩から腕にかけて幻が爆ぜ、今度は槍のように長く伸びる。
「何も残っちゃいねぇじゃねぇか──!」
吠えるように叫び、跳んだ。
幻の武装が唸りを上げ、異形の巨体を貫く。
肉が裂け、骨が砕け、頭が飛ぶ。
それでも止まらない。
次。
左の建物の影から這い出てきた異形を蹴り上げる。
背中越しに迫った敵を、振り向きざまに両断する。
爆音。衝撃。幻の斬撃が瓦礫を巻き込み、地面を割る。
「誰がこんな世界にしていいって言ったんだよ……!」
──そして、すべてが止まった。
砕けた肉、壊れた壁、沈黙だけが残る交差点。
アヤトは、ひとり立っていた。
幻が戻っていく。輪郭がまた曖昧になる。
だが、その目だけは──まだ怒っていた。
⸻
かつては人と車が溢れていた場所だ。
今は静寂だけが支配し、風さえ吹いていない。
「……遊び気分で来るとこじゃ、なかったな」
溜息混じりにつぶやく。
彼の身体は常に“幻”をまとい、姿も気配も曖昧にぼやけている。
けれど今、この街に彼を見つける者などいなかった。
──そのとき。
ぞわり、と背を撫でるような気配が走った。
音はない。だが、確かに“何か”が近づいている。
アヤトは目を細め、振り返る。
一体。
廃ビルの影から、這い出してくる“それ”。
ぐにゃりと歪んだ身体。
皮膚は裂け、骨がむき出し。顔の半分は崩れている。
だが、はっきりと──“こちらを見ている”気配があった。
続いて二体、三体。
地下通路の階段、自販機の裏、電柱の影。
いたるところから、ぞろりと現れてくる。
「……数、いるな」
アヤトは気配をさらに抑える。
自身の幻を濃く収束し、姿と気配を限りなく薄くする。
周囲の空間が揺らぎ、アヤトの存在が“世界から浮く”。
──異形たちは動きを止めた。
こちらを、見失ったようだった。
数体が彷徨い、舌のようなものを地面に這わせて動き回る。
アヤトは無言のまま、そっと一歩踏み出した。
だがその瞬間、頭上から何かが“跳んだ”。
「っと……!」
避けきれず、右腕をかざす。
肩から腕へ、白い幻が走る。
腕を包むように変化し、鋭利な“爪”が生える。
跳びかかってきた異形の顔面を、幻の爪で斬り裂く。
肉が弾け、骨が砕ける。
だが──止まらない。
砕けた肉塊の中から、別の“手”が伸び、隣の異形に取り込まれていく。
──融合。再構築。
「……壊せば喰って、生き延びるってか」
舌打ちし、両脚に幻を展開。
足元を白い光が包み、足裏には鋭い蹴爪が形成される。
地面を蹴る。跳ぶ。
蹴爪が一体の顔を貫き、壁に叩きつける。
まだ、終わらない。
交差点全体に、三十を超える異形が蠢いている。
──そのとき。
ビルの屋上から、“それ”が落ちてきた。
十体分の肉が癒着したような巨大な異形。
無数の顔と手、そのすべてがアヤトを“見ていた”。
開いた口が、濁った声を漏らす。
「……お……ま……え……も……」
空虚な模倣。言葉ではなく、ただ音を真似ているだけ。
アヤトは、怒っていた。
目を伏せ、ひとつ息を吐く。
そして──自らの幻を解いた。
空気が揺れ、姿が世界に露出する。
黒髪が風に揺れ、眠たげな目が怒りに光っていた。
「……ふざけるなよ」
肩から腕にかけて幻が爆ぜ、今度は槍のように長く伸びる。
「何も残っちゃいねぇじゃねぇか──!」
吠えるように叫び、跳んだ。
幻の武装が唸りを上げ、異形の巨体を貫く。
肉が裂け、骨が砕け、頭が飛ぶ。
それでも止まらない。
次。
左の建物の影から這い出てきた異形を蹴り上げる。
背中越しに迫った敵を、振り向きざまに両断する。
爆音。衝撃。幻の斬撃が瓦礫を巻き込み、地面を割る。
「誰がこんな世界にしていいって言ったんだよ……!」
──そして、すべてが止まった。
砕けた肉、壊れた壁、沈黙だけが残る交差点。
アヤトは、ひとり立っていた。
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だが、その目だけは──まだ怒っていた。
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