異界育ちの幻使い

yasunari311

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2話

喰らう影たち

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駅前のロータリーに、アヤトは佇んでいた。

 かつては人と車が溢れていた場所だ。
 今は静寂だけが支配し、風さえ吹いていない。

「……遊び気分で来るとこじゃ、なかったな」

 溜息混じりにつぶやく。

 彼の身体は常に“幻”をまとい、姿も気配も曖昧にぼやけている。
 けれど今、この街に彼を見つける者などいなかった。

 

 ──そのとき。

 ぞわり、と背を撫でるような気配が走った。

 音はない。だが、確かに“何か”が近づいている。

 アヤトは目を細め、振り返る。

 

 一体。
 廃ビルの影から、這い出してくる“それ”。

 ぐにゃりと歪んだ身体。
 皮膚は裂け、骨がむき出し。顔の半分は崩れている。

 だが、はっきりと──“こちらを見ている”気配があった。

 

 続いて二体、三体。
 地下通路の階段、自販機の裏、電柱の影。

 いたるところから、ぞろりと現れてくる。

「……数、いるな」

 

 アヤトは気配をさらに抑える。

 自身の幻を濃く収束し、姿と気配を限りなく薄くする。
 周囲の空間が揺らぎ、アヤトの存在が“世界から浮く”。

 

 ──異形たちは動きを止めた。

 こちらを、見失ったようだった。

 数体が彷徨い、舌のようなものを地面に這わせて動き回る。

 

 アヤトは無言のまま、そっと一歩踏み出した。

 だがその瞬間、頭上から何かが“跳んだ”。

「っと……!」

 

 避けきれず、右腕をかざす。

 肩から腕へ、白い幻が走る。
 腕を包むように変化し、鋭利な“爪”が生える。

 跳びかかってきた異形の顔面を、幻の爪で斬り裂く。

 

 肉が弾け、骨が砕ける。
 だが──止まらない。

 砕けた肉塊の中から、別の“手”が伸び、隣の異形に取り込まれていく。

 

 ──融合。再構築。

「……壊せば喰って、生き延びるってか」

 

 舌打ちし、両脚に幻を展開。
 足元を白い光が包み、足裏には鋭い蹴爪が形成される。

 地面を蹴る。跳ぶ。

 蹴爪が一体の顔を貫き、壁に叩きつける。

 

 まだ、終わらない。
 交差点全体に、三十を超える異形が蠢いている。

 

 ──そのとき。

 ビルの屋上から、“それ”が落ちてきた。

 十体分の肉が癒着したような巨大な異形。
 無数の顔と手、そのすべてがアヤトを“見ていた”。

 

 開いた口が、濁った声を漏らす。

「……お……ま……え……も……」

 

 空虚な模倣。言葉ではなく、ただ音を真似ているだけ。

 

 アヤトは、怒っていた。

 目を伏せ、ひとつ息を吐く。
 そして──自らの幻を解いた。

 

 空気が揺れ、姿が世界に露出する。

 黒髪が風に揺れ、眠たげな目が怒りに光っていた。

「……ふざけるなよ」

 

 肩から腕にかけて幻が爆ぜ、今度は槍のように長く伸びる。

 

「何も残っちゃいねぇじゃねぇか──!」

 

 吠えるように叫び、跳んだ。

 

 幻の武装が唸りを上げ、異形の巨体を貫く。
 肉が裂け、骨が砕け、頭が飛ぶ。
 それでも止まらない。

 

 次。
 左の建物の影から這い出てきた異形を蹴り上げる。
 背中越しに迫った敵を、振り向きざまに両断する。

 

 爆音。衝撃。幻の斬撃が瓦礫を巻き込み、地面を割る。

「誰がこんな世界にしていいって言ったんだよ……!」

 

 ──そして、すべてが止まった。

 

 砕けた肉、壊れた壁、沈黙だけが残る交差点。
 アヤトは、ひとり立っていた。

 

 幻が戻っていく。輪郭がまた曖昧になる。

 だが、その目だけは──まだ怒っていた。

 

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