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3話
音に寄る者
しおりを挟む駅前のロータリーに、静かな風が吹いていた。
アヤトはひとり、足元に転がる異形の残骸を見下ろしていた。
幻で自身の気配と姿をぼかしたまま、わずかに肩を回す。
「──終わったと思うなよ」
その声とともに、靴先が金属片を蹴り飛ばした。
──ガシャアァン!
放置された街灯が倒れ、けたたましい金属音を鳴らす。
その残響が、駅前のロータリーに響き渡る。
次の瞬間だった。
……ズル……ズズ……。
──ギチ、ギチギチ……ガリ……ズ……
どこかで“何か”が這い、ひきずる音が始まる。
駅ホームの下から。裏路地の影から。廃墟となったデパートの屋上から。
異形たちは、音に引き寄せられるように姿を現した。
アヤトの目が、細く鋭くなる。
「……見失ったと思ったか。甘ぇよ」
姿を隠していたつもりでも、奴らは感づいていた。
視覚ではない。気配を“嗅ぎ取ってくる”ような、異質な感覚で。
異形たちは、歪んでいた。
背骨が逆に折れ曲がったもの。
口が胸まで裂けたもの。
腐った皮膚の下に、別の手足が蠢いているもの。
数十体。いや、もっと多い。
周囲のビルの影から、続々と異形が集まりつつあった。
「──上等だ」
アヤトの全身から、幻が滲み出る。
肩に、腕に、脚に。
胸部には鎧のような層が重なり、最後に頭部を兜のような幻で覆った。
全身を覆う幻装。
その姿は、異界に生きる戦士のようだった。
「これはもう──遊びじゃねぇ」
最初に飛びかかってきた異形の顔面を、右拳で粉砕。
幻によって強化された肉体。爪も刃も使わず、ただ拳ひとつで骨ごと叩き割る。
即座に背後へ回り込んだ別の異形の脚を、蹴りで折る。
膝下が逆方向にねじれ、呻き声のような咆哮があがった。
左腕で抱え込むように異形の首をとらえ、そのまま地面に叩きつけた。
「こっちは、“こっち”で……ずっと腹立ってんだよ」
怒りを込めた踏み込み。
踏みつけた衝撃でアスファルトが割れ、異形の頭部が粉々になる。
数で押そうとした奴らを、アヤトは一点突破で迎え撃つ。
拳が、脚が、肘が。
幻で強化された肉体が、異形どもを“物理”で叩き潰していく。
幻の刃も爪も、ここにはいらない。
必要なのはただ、怒りと──打ち砕く意志だけだ。
次々に迫る異形たち。
だがアヤトの動きは止まらない。
跳躍からの膝蹴りで一体を空中に吹き飛ばし、
旋回しながら別の一体を踏みつける。
そのまま手刀を振るい、喉元をへし折るように叩き込む。
──そして、怒りが頂点に達した。
全身からさらに幻が脈動する。
殴打のたびに、幻の“衝撃”が余波として放たれ、周囲の異形がひるむ。
「……まだ来るかよ」
呻くように言いながら、拳を構える。
手には血と肉片がべっとりとついていた。
だがアヤトの目は、むしろ冴えていた。冷えていた。
「だったら──全員、沈めてやる」
叫びとともに突撃。
肩から突き刺さるような体当たりで三体を吹き飛ばし、
肘で一体を地面に叩きつけ、足で押さえつけながら頭を踏み潰す。
何体倒しても終わらない。
だが──アヤトも止まらなかった。
風が吹く。街の匂いが揺れる。
幻装の兜越しに見る風景は、かつて知っていたものとは違う。
それでも。
「──ここは、俺の世界じゃねぇ。けどな」
アヤトは最後の一撃を叩き込み、あたりに静寂が戻る。
「だからって、こんなやり方は──許さねぇ」
血のにじむ拳を握りしめながら、アヤトは立ち尽くしていた。
風が再び吹く。
静かすぎる街に──ほんのわずか、足音のようなものが重なった気がした。
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