異界育ちの幻使い

yasunari311

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3話

音に寄る者

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 駅前のロータリーに、静かな風が吹いていた。
 アヤトはひとり、足元に転がる異形の残骸を見下ろしていた。

 幻で自身の気配と姿をぼかしたまま、わずかに肩を回す。

「──終わったと思うなよ」

 その声とともに、靴先が金属片を蹴り飛ばした。

 ──ガシャアァン!

 放置された街灯が倒れ、けたたましい金属音を鳴らす。
 その残響が、駅前のロータリーに響き渡る。

 次の瞬間だった。

 

 ……ズル……ズズ……。

 ──ギチ、ギチギチ……ガリ……ズ……

 

 どこかで“何か”が這い、ひきずる音が始まる。

 駅ホームの下から。裏路地の影から。廃墟となったデパートの屋上から。
 異形たちは、音に引き寄せられるように姿を現した。

 アヤトの目が、細く鋭くなる。

「……見失ったと思ったか。甘ぇよ」

 姿を隠していたつもりでも、奴らは感づいていた。
 視覚ではない。気配を“嗅ぎ取ってくる”ような、異質な感覚で。

 

 異形たちは、歪んでいた。

 背骨が逆に折れ曲がったもの。
 口が胸まで裂けたもの。
 腐った皮膚の下に、別の手足が蠢いているもの。

 数十体。いや、もっと多い。
 周囲のビルの影から、続々と異形が集まりつつあった。

「──上等だ」

 アヤトの全身から、幻が滲み出る。

 肩に、腕に、脚に。
 胸部には鎧のような層が重なり、最後に頭部を兜のような幻で覆った。

 全身を覆う幻装。
 その姿は、異界に生きる戦士のようだった。

「これはもう──遊びじゃねぇ」

 

 最初に飛びかかってきた異形の顔面を、右拳で粉砕。
 幻によって強化された肉体。爪も刃も使わず、ただ拳ひとつで骨ごと叩き割る。

 即座に背後へ回り込んだ別の異形の脚を、蹴りで折る。
 膝下が逆方向にねじれ、呻き声のような咆哮があがった。

 左腕で抱え込むように異形の首をとらえ、そのまま地面に叩きつけた。

 

「こっちは、“こっち”で……ずっと腹立ってんだよ」

 

 怒りを込めた踏み込み。
 踏みつけた衝撃でアスファルトが割れ、異形の頭部が粉々になる。

 数で押そうとした奴らを、アヤトは一点突破で迎え撃つ。

 拳が、脚が、肘が。
 幻で強化された肉体が、異形どもを“物理”で叩き潰していく。

 幻の刃も爪も、ここにはいらない。

 必要なのはただ、怒りと──打ち砕く意志だけだ。

 

 次々に迫る異形たち。
 だがアヤトの動きは止まらない。

 跳躍からの膝蹴りで一体を空中に吹き飛ばし、
 旋回しながら別の一体を踏みつける。

 そのまま手刀を振るい、喉元をへし折るように叩き込む。

 

 ──そして、怒りが頂点に達した。

 

 全身からさらに幻が脈動する。
 殴打のたびに、幻の“衝撃”が余波として放たれ、周囲の異形がひるむ。

「……まだ来るかよ」

 呻くように言いながら、拳を構える。
 手には血と肉片がべっとりとついていた。

 だがアヤトの目は、むしろ冴えていた。冷えていた。

 

「だったら──全員、沈めてやる」

 

 叫びとともに突撃。
 肩から突き刺さるような体当たりで三体を吹き飛ばし、
 肘で一体を地面に叩きつけ、足で押さえつけながら頭を踏み潰す。

 何体倒しても終わらない。

 だが──アヤトも止まらなかった。

 

 風が吹く。街の匂いが揺れる。
 幻装の兜越しに見る風景は、かつて知っていたものとは違う。

 それでも。

「──ここは、俺の世界じゃねぇ。けどな」

 アヤトは最後の一撃を叩き込み、あたりに静寂が戻る。

「だからって、こんなやり方は──許さねぇ」

 

 血のにじむ拳を握りしめながら、アヤトは立ち尽くしていた。

 風が再び吹く。
 静かすぎる街に──ほんのわずか、足音のようなものが重なった気がした。

 

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