異界育ちの幻使い

yasunari311

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23話

ウチに、帰ろう

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 朝の光が、湯面にきらきらと揺れていた。
 俺は肩まで湯に浸かり、ゆっくりと息を吐く。

 ──やっぱり、締めは朝風呂だな。

 昨夜の酒も、疲れも、ぜんぶ湯に溶けていく。
 頬をかすめる風が心地いい。異界の湯は、何度入っても飽きが来ない。

 湯気越しに見える庭の景色は、どこまでも静かで、どこまでも穏やかだった。
 このひとときがあるだけで、命拾いした気分になる。

 ──さて、行くか。

 湯から上がり、手早く体を拭いて浴衣を羽織る。
 縁側に出ると、すでに師匠が待っていた。

「整った?」

「おう。……よく寝て、よく食って、風呂まで入った。贅沢すぎるな」

「ふふ、それでようやく、あんたは“普通”になるんだから」

 少し照れくさくて、俺は頭をかいた。

「……ありがとな、師匠。飯も、酒も、話も──ぜんぶ助かったよ」

 師匠は湯呑みを口元に運びながら、尾をふわりと揺らす。

「素直に礼を言えるうちに言っときなさい。そういうの、大事よ」

 俺は軽く笑い返し、まっすぐ立ち上がった。
 次に向かうのは、俺の“家”──母上のもとだ。

「ウチに飛ばしてくれ。母上のとこ、な」

「了解。じゃ、立ってて」

 師匠がすっと手を掲げ、簡素な印を切る。
 空気がわずかに引き締まり、空間が“つながる”気配が走った。

 足元に、淡く揺れる転移の気配。
 派手さはない。けれど、そこには確かな“術”が満ちていた。

「ギンに、よろしく伝えて」

「ああ。……ほんと、ありがとな」

 最後にもう一度、師匠に向かって頭を下げる。
 一歩を踏み出した瞬間、感覚が反転した。

 体がふっと軽くなり、風が背中を抜けていく。

 ──向かうのは、俺の“家”。
 鍛錬と、家族のぬくもりが待っている場所。

 昨日までの重さを、少しだけ脱ぎ捨てながら──俺は進んでいった。


 ──そして、着いた。

 懐かしい、俺の“ウチ”。
 木造の屋根には苔がうっすらと生え、柱や戸には年季が刻まれている。
 けれどそれは、古びているのではない。
 時を重ねた、温もりの証だ。

 玄関先の風鈴が、かすかに鳴る。
 音の主を告げるように、やわらかな風がすり抜けていった。

 いつも通りの場所。けれど、久しく戻ってこなかった匂いがした。
 胸の奥が、じんわりと熱を帯びる。

 ──やっぱり、ここが俺の帰る場所だ。

 懐かしさに浸る暇もなく、屋内からふと気配が伸びてきた。
 あの感じ──間違いない。

「……母上。戻ったぜ」
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