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22話
目覚めと、幻の示す道
しおりを挟む──どれほど眠っていたのか。
目を覚ますと、淡い光が障子の向こうから差し込んでいた。
湯の余韻がまだ体に残っていて、頭も心も、ふわりと浮かんでいる。
「……あれ?」
膝の上には畳の感触。身体は布団ではなく、ちゃぶ台の前に横たわっていた。
昨夜、肴と熱燗の誘惑に抗えず、そのまま寝落ちしたらしい。
「気づいたのね。よく眠ってたわよ」
声がして顔を上げると、師匠がすぐそばに座っていた。
十三本の尾を緩やかに揺らし、湯上がりのままの髪を軽く束ねている。
「す、すまん……全部ご馳走になった上に、潰れたか、俺……」
「気にしないで。あんたが気を張りすぎてたのは分かってたから」
師匠はそう言って、卓の端にあった酒盃を片手に、さらりと微笑んだ。
その笑みに、昨夜のやり取りがふいに蘇る。
「……そういえば、師匠。昨日言ってた、“縁のある場所”って──」
「ええ。わたしがかつて縁を結んだ土地。
そこに、まだ“気”が残ってたの。完全に喰われた感じはしなかった」
師匠はふっと立ち上がり、片手をすっと掲げた。
その指先に、淡い幻がゆらめく。
──それは、人間界の風景だった。
木造の長屋、くすんだ看板、どこか懐かしい石畳の通り。
ぼんやりとした色彩のまま、それでも確かに“生”の気配があった。
「全部は見えないけど……あの場所は、まだ息づいている。
わたしと縁のある土地──だからこそ、感じ取れた気もするわ」
「……そうか。そういうのが、ひとつでもあるなら──まだ、望みはあるかもな」
俺はゆっくりと体を起こし、幻の映像に手を伸ばしかけて──やめた。
触れたところで、そこには届かない。
それでも、胸の奥にぽつりと火が灯った気がする。
「ありがとな、師匠。……今の俺には、それが一番の薬だわ」
師匠は返事の代わりに、そっと幻をたたみ、また杯を口に運んだ。
尾が一度ふわりと揺れたあと、ふっと落ち着く。
「さ、動くなら早いほうがいいわ。ギンも、きっともう起きてる頃よ」
「ああ、母上ならもう動いてそうだな」
少しだけ笑い合い、俺はその場を立ち上がった。
今日の目的は、母上──ギンのもとへ。
そして、姉貴と父上に会うこと。
鍛え直すために。
そして、俺にできることを見定めるために。
……ただ、朝風呂に入ったあとの話だがな。
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