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48話
鬼神、目覚めの炎
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岩場に風が吹く。
霧のように流れる気配のなか、ふたりの影が交錯する。
拳と蹴り、幻と構え。
交わるたびに、空気が軋み、地面が小さく軋む。
「……っ、やっぱ速ぇな、姉貴」
アヤトが身を反らし、スズカの拳を紙一重でいなす。
銀髪が揺れる。目元に宿るのは、怒りでも執念でもない──ただ純粋な「闘志」だった。
「口動かす余裕があるうちは、まだ本気じゃないわけだ」
スズカが一歩踏み込み、拳を振り抜く。
アヤトは幻装の腕部で受け止める──が、その衝撃に、地がめり込んだ。
「ったく……マジで重たいな」
軽口を叩きながらも、アヤトの身体は徐々に熱を帯びていく。
姉貴の力は、明らかに“あの頃”より増している。
──並の幻じゃ受けきれねぇ。
幻装の骨格が軋む。
それでも、笑みを浮かべた。
「面白くなってきたじゃねぇか……!」
幻の力を増幅し、アヤトは足元を跳ねるようにして前に出た。
拳が重なる。視線が交錯する。
次の瞬間──スズカの動きが、わずかに鈍った。
「……姉貴?」
アヤトが言葉を発するのと、気配が“反転”するのは、ほぼ同時だった。
──ドンッ。
地鳴りのような音が、空気を割った。
スズカの全身に、淡く赤黒い“炎”が走る。
それは幻ではない。
内側から吹き上がる、純然たる“鬼の力”。
「……っ、ちょっと待て……その力……制御できてねぇ……!」
アヤトが叫ぶより早く、スズカの身体が炎とともに跳ねた。
拳が、幻装を打ち砕く勢いで迫る。
「姉貴ッ!」
──だが、その瞳に、焦点はなかった。
言葉も、意志も、なにも届いていない。
「……おいおい、冗談だろ……」
アヤトの声は、苦笑のように、かすれた。
拳を受け止め、滑るように距離を取る。
だが、追撃は止まらない。赤黒い炎が舞い、周囲を焼き尽くしていく。
木々が裂け、地が焦げ、岩が割れる。
──まさに、火炎地獄。
暴走という言葉では足りない。
それはもう、ひとつの“災厄”だった。
「……あー、こりゃもう、ダメだな」
アヤトがひとつ息を吐いた。
「姉貴、意識とんでるじゃねぇか……仕方ねえな」
次の瞬間、アヤトの全身から“幻”が吹き上がる。
空気が震え、地が鳴る。
──究極幻装。
額に二本の“角”が浮かぶ。黒き光をまとい、静かに天を指すそれは、鬼の血を象徴するように異質だった。
肩・胸・腕・脚──すべてが金属とも骨ともつかぬ幻で包まれていく。
胴には重層の装甲が折り重なり、全身を守護するような威厳ある姿。
そして兜が覆う。滑らかで感情を映さぬフルフェイスの面。
そこには“人の顔”はもうなかった。
──記憶、想い、技法のすべてを込めた、“鬼の姿”を模した幻。
まるで、神話から抜け出たような存在が、そこに立っていた。
「……いくぞ、姉貴。悪ぃけど、止めさせてもらう」
そして──炎と幻が、激突した。
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