異界育ちの幻使い

yasunari311

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48話

鬼神、目覚めの炎

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 岩場に風が吹く。

 霧のように流れる気配のなか、ふたりの影が交錯する。

 拳と蹴り、幻と構え。
 交わるたびに、空気が軋み、地面が小さく軋む。

 「……っ、やっぱ速ぇな、姉貴」

 アヤトが身を反らし、スズカの拳を紙一重でいなす。

 銀髪が揺れる。目元に宿るのは、怒りでも執念でもない──ただ純粋な「闘志」だった。

 「口動かす余裕があるうちは、まだ本気じゃないわけだ」

 スズカが一歩踏み込み、拳を振り抜く。

 アヤトは幻装の腕部で受け止める──が、その衝撃に、地がめり込んだ。

 「ったく……マジで重たいな」

 軽口を叩きながらも、アヤトの身体は徐々に熱を帯びていく。

 姉貴の力は、明らかに“あの頃”より増している。

 ──並の幻じゃ受けきれねぇ。

 幻装の骨格が軋む。
 それでも、笑みを浮かべた。

 「面白くなってきたじゃねぇか……!」

 幻の力を増幅し、アヤトは足元を跳ねるようにして前に出た。

 拳が重なる。視線が交錯する。

 次の瞬間──スズカの動きが、わずかに鈍った。

 「……姉貴?」

 アヤトが言葉を発するのと、気配が“反転”するのは、ほぼ同時だった。

 ──ドンッ。

 地鳴りのような音が、空気を割った。

 スズカの全身に、淡く赤黒い“炎”が走る。

 それは幻ではない。
 内側から吹き上がる、純然たる“鬼の力”。

 「……っ、ちょっと待て……その力……制御できてねぇ……!」

 アヤトが叫ぶより早く、スズカの身体が炎とともに跳ねた。

 拳が、幻装を打ち砕く勢いで迫る。

 「姉貴ッ!」

 ──だが、その瞳に、焦点はなかった。

 言葉も、意志も、なにも届いていない。

 「……おいおい、冗談だろ……」

 アヤトの声は、苦笑のように、かすれた。

 拳を受け止め、滑るように距離を取る。
 だが、追撃は止まらない。赤黒い炎が舞い、周囲を焼き尽くしていく。

 木々が裂け、地が焦げ、岩が割れる。

 ──まさに、火炎地獄。

 暴走という言葉では足りない。
 それはもう、ひとつの“災厄”だった。

 「……あー、こりゃもう、ダメだな」

 アヤトがひとつ息を吐いた。

 「姉貴、意識とんでるじゃねぇか……仕方ねえな」

 次の瞬間、アヤトの全身から“幻”が吹き上がる。

 空気が震え、地が鳴る。

 ──究極幻装。

 額に二本の“角”が浮かぶ。黒き光をまとい、静かに天を指すそれは、鬼の血を象徴するように異質だった。

 肩・胸・腕・脚──すべてが金属とも骨ともつかぬ幻で包まれていく。
 胴には重層の装甲が折り重なり、全身を守護するような威厳ある姿。

 そして兜が覆う。滑らかで感情を映さぬフルフェイスの面。
 そこには“人の顔”はもうなかった。

 ──記憶、想い、技法のすべてを込めた、“鬼の姿”を模した幻。

 まるで、神話から抜け出たような存在が、そこに立っていた。

 「……いくぞ、姉貴。悪ぃけど、止めさせてもらう」

 そして──炎と幻が、激突した。
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