異界育ちの幻使い

yasunari311

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51話

命、燃え尽きるまで

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 ──胸を貫く一撃が、闇の中から走った。

 風が吹いたわけではない。音もなかった。

 ただ、“そこに”現れたクラウスは、一片の躊躇もなく、殺意を持ってアヤトの心臓を穿とうとした。

 ──予知めいていた。

 まるで、アヤトがこの地に現れることをあらかじめ知っていたかのように。

 咄嗟に胸元へ幻を走らせ、かろうじて逸らす。空気が裂け、地面が震えた。

 目の前には──クラウス。

 白銀の髪、血の気を感じさせぬ肌。そして、虚無のような瞳に浮かぶ、冷たい確信。

「お前がここに現れる時間も場所も、分かっていた」

「……予知か?」

「いや。進化の結果さ。カムリスを喰らい、構造を理解し、力を層のように重ねていくうちに……未来の断片が、視えるようになった」

 クラウスはゆっくりと前へ出る。

「異界へ渡る術式。それが必要だった。……そして、それを持つお前も」

 その異様さに気づくより早く、アヤトは反応していた。

 「ッ──!」

 地を蹴ると同時に、“幻”が身体を包む。

 ──瞬間、装着されるのは究極幻装。

 黒き光を纏った装甲が一瞬で全身を覆い、兜の奥に二本の角が浮かぶ。

 鬼の記憶、戦の経験、家族の力。すべてを焼き込んだ唯一無二の幻。

「それが君の全力か?」

 クラウスが口元をゆがめる。すでに後方へ跳び、第二撃の構えを取っていた。

 アヤトは幻装を研ぎ澄ませ、正面を向く。

 足元から地が割れた。幻装がさらに“熱”を帯びていく。姉貴との死闘で得た、“炎”の気配が重なる。

 ──銀髪の姉の力。鬼神の暴走の記憶。そして、父上の威容。

 それらすべてを“幻”に写し取り──

「これが、今の俺の……ぜんぶだッ!」

 爆ぜた。

 風景が、幻と炎とで染め上げられる。地は焼け、空がうねり、熱気が爆風のように吹き荒れる。

 アヤトは拳を握る。拳の奥には、姉の“炎”を宿す幻が脈打っていた。

「──燃え尽きても、構わねぇ!」

 吼えるように踏み込む。

 クラウスは微笑みながら、それを正面から受け止めた。

「いい目をしてる。──だが」

 幻と肉体がぶつかる。激突の衝撃で空気が震え、地面が波打った。

 二人の拳が交錯し、衝撃波が辺りを巻き込む。瓦礫が宙を舞い、建材が爆ぜる。

「強いな……」

 クラウスが唸る。

「──だが、遅い」

 クラウスの身体が歪むように移動する。瞬間、アヤトの後方へ。

 背後から渾身の打撃を叩き込もうと──

「見えてるよ」

 振り返るよりも速く、アヤトの肘が逆に突き出され、クラウスの脇腹を打ち抜いた。

 爆音。血飛沫。

 クラウスの顔が一瞬だけ歪む。

「……ほぉ」

 次の瞬間、クラウスの掌から黒い波動が放たれた。ウツロの力を内包したその奔流がアヤトを呑み込む。

 しかし──

「“幻”だよ」

 アヤトの姿が消え、次に現れたのは空中。宙を舞いながら、両腕に赤熱の力を込めていた。

「喰らえ!!」

 十重二十重の連撃。すべてが燃焼し、衝撃と熱で空気が断絶する。

 地面が割れ、建物が倒壊し、世界そのものが燃え尽きるかのような凄まじさだった。

 クラウスは、ようやく膝をつく。

「……この俺が、ここまで……ッ!」

 しかし、まだ倒れない。

 体内で蠢く“ウツロの力”が、肉体を無理やり保っていた。

「……だが、いい。ようやく滾ってきた……!」

 クラウスが咆哮する。

 次の瞬間、闇が爆ぜた。空間そのものが震えるような咆哮──世界が、割れる。

「“これ以上”は……やらせねぇ!!」

 アヤトが、力を解放する。

 もはや、幻装は限界を超えていた。足は崩れ、視界が滲み、吐く息に血が混じる。

(──あと、一撃)

 これで決める。

「すべてを背負って、全部終わらせるッ!」

 アヤトの周囲に炎が渦を巻く。幻の角が白光に染まり、鬼神の鎧が燃え尽きる覚悟で、その力を集中させる。

「喰らいやがれッ!!!」

 拳が、クラウスの胸元を穿った。

 叫びが、爆音が、光が──世界を切り裂いた。

 ウツロの力を帯びた肉体が、ついに崩れる。

 クラウスの顔がゆっくりと歪み──笑った。

「……ようやく……皆んなに会える……」

 崩れゆく中、確かに満足げに微笑んだ。

「──これで、終われる……」

 クラウスは、塵となって風に溶けていった。



 ──勝った。

 アヤトの膝が崩れた。

 幻装はすでに霧散していた。

 全身が焼け、骨は砕け、感覚はほとんど残っていない。

(やりきった……)

 目を閉じる。

 浮かんだのは、あの金の髪と──十三本の尾。

 ──師匠。

(……見てたか。俺、ちゃんと……やれたよ)

 口元が、わずかに綻ぶ。

「……好きだったぜ……師匠」

 その声を最後に──アヤトの身体が光を放ち、風に、塵に、溶けていった。







ここまでお付き合いくださった読者の皆さま、心より感謝申し上げます。

この物語は、ひとまずここで幕を下ろします。

ありがとう──そして、さようなら。
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