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51話
命、燃え尽きるまで
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──胸を貫く一撃が、闇の中から走った。
風が吹いたわけではない。音もなかった。
ただ、“そこに”現れたクラウスは、一片の躊躇もなく、殺意を持ってアヤトの心臓を穿とうとした。
──予知めいていた。
まるで、アヤトがこの地に現れることをあらかじめ知っていたかのように。
咄嗟に胸元へ幻を走らせ、かろうじて逸らす。空気が裂け、地面が震えた。
目の前には──クラウス。
白銀の髪、血の気を感じさせぬ肌。そして、虚無のような瞳に浮かぶ、冷たい確信。
「お前がここに現れる時間も場所も、分かっていた」
「……予知か?」
「いや。進化の結果さ。カムリスを喰らい、構造を理解し、力を層のように重ねていくうちに……未来の断片が、視えるようになった」
クラウスはゆっくりと前へ出る。
「異界へ渡る術式。それが必要だった。……そして、それを持つお前も」
その異様さに気づくより早く、アヤトは反応していた。
「ッ──!」
地を蹴ると同時に、“幻”が身体を包む。
──瞬間、装着されるのは究極幻装。
黒き光を纏った装甲が一瞬で全身を覆い、兜の奥に二本の角が浮かぶ。
鬼の記憶、戦の経験、家族の力。すべてを焼き込んだ唯一無二の幻。
「それが君の全力か?」
クラウスが口元をゆがめる。すでに後方へ跳び、第二撃の構えを取っていた。
アヤトは幻装を研ぎ澄ませ、正面を向く。
足元から地が割れた。幻装がさらに“熱”を帯びていく。姉貴との死闘で得た、“炎”の気配が重なる。
──銀髪の姉の力。鬼神の暴走の記憶。そして、父上の威容。
それらすべてを“幻”に写し取り──
「これが、今の俺の……ぜんぶだッ!」
爆ぜた。
風景が、幻と炎とで染め上げられる。地は焼け、空がうねり、熱気が爆風のように吹き荒れる。
アヤトは拳を握る。拳の奥には、姉の“炎”を宿す幻が脈打っていた。
「──燃え尽きても、構わねぇ!」
吼えるように踏み込む。
クラウスは微笑みながら、それを正面から受け止めた。
「いい目をしてる。──だが」
幻と肉体がぶつかる。激突の衝撃で空気が震え、地面が波打った。
二人の拳が交錯し、衝撃波が辺りを巻き込む。瓦礫が宙を舞い、建材が爆ぜる。
「強いな……」
クラウスが唸る。
「──だが、遅い」
クラウスの身体が歪むように移動する。瞬間、アヤトの後方へ。
背後から渾身の打撃を叩き込もうと──
「見えてるよ」
振り返るよりも速く、アヤトの肘が逆に突き出され、クラウスの脇腹を打ち抜いた。
爆音。血飛沫。
クラウスの顔が一瞬だけ歪む。
「……ほぉ」
次の瞬間、クラウスの掌から黒い波動が放たれた。ウツロの力を内包したその奔流がアヤトを呑み込む。
しかし──
「“幻”だよ」
アヤトの姿が消え、次に現れたのは空中。宙を舞いながら、両腕に赤熱の力を込めていた。
「喰らえ!!」
十重二十重の連撃。すべてが燃焼し、衝撃と熱で空気が断絶する。
地面が割れ、建物が倒壊し、世界そのものが燃え尽きるかのような凄まじさだった。
クラウスは、ようやく膝をつく。
「……この俺が、ここまで……ッ!」
しかし、まだ倒れない。
体内で蠢く“ウツロの力”が、肉体を無理やり保っていた。
「……だが、いい。ようやく滾ってきた……!」
クラウスが咆哮する。
次の瞬間、闇が爆ぜた。空間そのものが震えるような咆哮──世界が、割れる。
「“これ以上”は……やらせねぇ!!」
アヤトが、力を解放する。
もはや、幻装は限界を超えていた。足は崩れ、視界が滲み、吐く息に血が混じる。
(──あと、一撃)
これで決める。
「すべてを背負って、全部終わらせるッ!」
アヤトの周囲に炎が渦を巻く。幻の角が白光に染まり、鬼神の鎧が燃え尽きる覚悟で、その力を集中させる。
「喰らいやがれッ!!!」
拳が、クラウスの胸元を穿った。
叫びが、爆音が、光が──世界を切り裂いた。
ウツロの力を帯びた肉体が、ついに崩れる。
クラウスの顔がゆっくりと歪み──笑った。
「……ようやく……皆んなに会える……」
崩れゆく中、確かに満足げに微笑んだ。
「──これで、終われる……」
クラウスは、塵となって風に溶けていった。
⸻
──勝った。
アヤトの膝が崩れた。
幻装はすでに霧散していた。
全身が焼け、骨は砕け、感覚はほとんど残っていない。
(やりきった……)
目を閉じる。
浮かんだのは、あの金の髪と──十三本の尾。
──師匠。
(……見てたか。俺、ちゃんと……やれたよ)
口元が、わずかに綻ぶ。
「……好きだったぜ……師匠」
その声を最後に──アヤトの身体が光を放ち、風に、塵に、溶けていった。
⸻
ここまでお付き合いくださった読者の皆さま、心より感謝申し上げます。
この物語は、ひとまずここで幕を下ろします。
ありがとう──そして、さようなら。
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