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第1話 異世界の朝、目覚めたらおじいさんだらけ
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まぶたの裏がやけに明るかった。
どこかで鳥の声がする。
風が木の葉を揺らす音。
——ああ、春の朝か。
そう思った瞬間、桜はぴくりと眉を動かした。
……おかしい。
家の近くに、こんなに自然の音なんてあったっけ。
会社の前は大通りで、車の音と信号の音しか聞こえないはず。
ゆっくりと目を開けると、見知らぬ木の天井が広がっていた。
節目の多い梁、陽に焼けた木の香り、そして隣から聞こえる小さな笑い声。
「お、目ぇが覚めたかのう」
低く柔らかい声に、桜はびくりと体を起こしかけて——やめた。
頭がずきりと痛んで、世界がゆらりと傾く。
「無理せんでええ。寝ておりなさい」
「そうじゃそうじゃ、頭打っとるかもしれん」
「水を持ってきてやれ、ほら」
視界の中に、次々とおじいさんが現れた。
しかも——ひとり、ふたり……いや、七人?
桜は目を瞬かせた。まるで夢の中のようだった。
白い髭、丸い眼鏡、杖をついた人、頬に笑い皺を刻んだ人。
七人とも違う雰囲気なのに、不思議と空気が和やかで。
「……あの……ここは、どこですか?」
掠れた声で問うと、丸顔のおじいさんがにこりと笑った。
「ここはグレイン村。森とともに生きる小さな集落じゃよ。人口の九割はわしらみたいなじいさんじゃ」
「そうそう、通称“じいさん村”って呼ばれとる」
「森のはずれのこの家にわしら七人で暮らしとるんじゃよ」
「七人……」
その数字を聞いた瞬間、桜の頭の中で警鐘が鳴った。
七人、木の家、目覚める女。——これ、まさか。
(まって、まさかこれ……白雪姫じゃない?)
頭の中で記憶が蘇る。
そうだ、昨日——いや、“最後に”覚えているのは、横断歩道の前だった。
信号を待っていたら、飛び出した子どもを見て、反射的に体が動いた。
ブレーキ音。
強い衝撃。
そして——真っ白になった。
(あのとき……私、死んだの?)
背筋が凍る。
けれど、目の前の七人の笑顔はあまりに穏やかで現実的だった。
ふと、おじいさんたちが顔を覗き込む。
「ずいぶん長く眠っとったんじゃぞ。丸一日も」
「よう生きとった。神様に感謝じゃ」
「それにしても、こんな若い娘が森で倒れとるなんてのう」
桜は自分の服を見た。
どこか異国めいた麻布のワンピースのようなものを着ている。
スマホも、バッグも、社員証も——何もない。
(……ほんとに、異世界転生? しかも白雪姫パターン?)
胸の奥で何かがはじけるように混乱した。
けれど、そんな中でもおじいさんたちは優しくタオルで汗を拭き、水を口に含ませてくれる。
温かい……手だ。
「ありがとうございます……」
「礼なんぞいらん。助けたのも縁じゃよ。わしらは毎朝散歩に行くんじゃが、その時に倒れとったんじゃ」
「まるで花のように眠っとったのう」
「ほれ、名前はなんというんじゃ?」
「……山﨑、桜です」
「さくら。いい名じゃなあ」
「春に咲く花みたいじゃ」
「いや、春そのものみたいな娘じゃ」
優しい言葉に、涙が滲みそうになる。
でも次の瞬間、ふと疑問が胸をよぎった。
「えっと、さっき言ってましたよね。七人で暮らしてるって……」
「そうじゃが?」
桜は少し身を起こし、周囲を見回した。
木の家具、暖炉、薪の匂い、壁には花を描いた皿。
どこか温かいのに、現実離れしている。
(七人……白雪姫……ってことは……)
「もしかして、私が目を覚ましたってことは……誰かがキスを?」
沈黙。
おじいさんたちは、ぽかんと口を開けたまま動かない。
次の瞬間、全員が一斉に吹き出した。
「な、なんじゃそりゃ!」
「おぬし、頭を打って妄想しとるんか?」
「わしらの誰がそんな役をできると思っとるんじゃ!」
「おお、わしでもよかったかもしれんがのう、はっはっは!」
最後のおじいさんの冗談に、周りがどっと笑いに包まれる。
桜は顔を真っ赤にして枕に潜り込んだ。
(ちょっと待って、恥ずかしい……!)
「おぬしは倒れておったからな。しばらくここで養生して、元気になったらどうするか考えなさい」
優しい声が、木の壁に反響して心地よい。
桜は胸に手を当てて、深呼吸した。
(……本当に、異世界なんだ)
怖さよりも、どこか不思議な安心感があった。
おじいさんたちの眼差しが、家族みたいにあたたかい。
仕事で疲れた心に、じんわり染みていく。
「ありがとうございます。……でも、私、記憶が曖昧で……帰る場所も思い出せなくて」
「そうかそうか。ならば、ここにおるとええ。助けたのも縁じゃ」
「そうじゃ。食うものはようけあるし、薪割りくらいは手伝ってもらえりゃ助かる」
「それに、女の子の声があると家の中が明るいわい」
「……ほんとに、いいんですか?」
「もちろんじゃ」
七人の笑顔が、春の日差しみたいに柔らかかった。
その瞬間、桜は思った。
——ああ、ここが、いまの私の居場所なんだ。
(いきなり異世界で、しかも“じいさん村”なんて……想定外だけど、悪くないかも)
そんな自嘲まじりの心の声とともに、桜はそっと毛布にくるまった。
外では、風が若葉を揺らし、鳥のさえずりが響く。
不思議と、胸の奥に「これから」が芽吹くような気がした。
こうして——
“七人のおじいさんと暮らす異世界ライフ”が、静かに始まったのだった。
どこかで鳥の声がする。
風が木の葉を揺らす音。
——ああ、春の朝か。
そう思った瞬間、桜はぴくりと眉を動かした。
……おかしい。
家の近くに、こんなに自然の音なんてあったっけ。
会社の前は大通りで、車の音と信号の音しか聞こえないはず。
ゆっくりと目を開けると、見知らぬ木の天井が広がっていた。
節目の多い梁、陽に焼けた木の香り、そして隣から聞こえる小さな笑い声。
「お、目ぇが覚めたかのう」
低く柔らかい声に、桜はびくりと体を起こしかけて——やめた。
頭がずきりと痛んで、世界がゆらりと傾く。
「無理せんでええ。寝ておりなさい」
「そうじゃそうじゃ、頭打っとるかもしれん」
「水を持ってきてやれ、ほら」
視界の中に、次々とおじいさんが現れた。
しかも——ひとり、ふたり……いや、七人?
桜は目を瞬かせた。まるで夢の中のようだった。
白い髭、丸い眼鏡、杖をついた人、頬に笑い皺を刻んだ人。
七人とも違う雰囲気なのに、不思議と空気が和やかで。
「……あの……ここは、どこですか?」
掠れた声で問うと、丸顔のおじいさんがにこりと笑った。
「ここはグレイン村。森とともに生きる小さな集落じゃよ。人口の九割はわしらみたいなじいさんじゃ」
「そうそう、通称“じいさん村”って呼ばれとる」
「森のはずれのこの家にわしら七人で暮らしとるんじゃよ」
「七人……」
その数字を聞いた瞬間、桜の頭の中で警鐘が鳴った。
七人、木の家、目覚める女。——これ、まさか。
(まって、まさかこれ……白雪姫じゃない?)
頭の中で記憶が蘇る。
そうだ、昨日——いや、“最後に”覚えているのは、横断歩道の前だった。
信号を待っていたら、飛び出した子どもを見て、反射的に体が動いた。
ブレーキ音。
強い衝撃。
そして——真っ白になった。
(あのとき……私、死んだの?)
背筋が凍る。
けれど、目の前の七人の笑顔はあまりに穏やかで現実的だった。
ふと、おじいさんたちが顔を覗き込む。
「ずいぶん長く眠っとったんじゃぞ。丸一日も」
「よう生きとった。神様に感謝じゃ」
「それにしても、こんな若い娘が森で倒れとるなんてのう」
桜は自分の服を見た。
どこか異国めいた麻布のワンピースのようなものを着ている。
スマホも、バッグも、社員証も——何もない。
(……ほんとに、異世界転生? しかも白雪姫パターン?)
胸の奥で何かがはじけるように混乱した。
けれど、そんな中でもおじいさんたちは優しくタオルで汗を拭き、水を口に含ませてくれる。
温かい……手だ。
「ありがとうございます……」
「礼なんぞいらん。助けたのも縁じゃよ。わしらは毎朝散歩に行くんじゃが、その時に倒れとったんじゃ」
「まるで花のように眠っとったのう」
「ほれ、名前はなんというんじゃ?」
「……山﨑、桜です」
「さくら。いい名じゃなあ」
「春に咲く花みたいじゃ」
「いや、春そのものみたいな娘じゃ」
優しい言葉に、涙が滲みそうになる。
でも次の瞬間、ふと疑問が胸をよぎった。
「えっと、さっき言ってましたよね。七人で暮らしてるって……」
「そうじゃが?」
桜は少し身を起こし、周囲を見回した。
木の家具、暖炉、薪の匂い、壁には花を描いた皿。
どこか温かいのに、現実離れしている。
(七人……白雪姫……ってことは……)
「もしかして、私が目を覚ましたってことは……誰かがキスを?」
沈黙。
おじいさんたちは、ぽかんと口を開けたまま動かない。
次の瞬間、全員が一斉に吹き出した。
「な、なんじゃそりゃ!」
「おぬし、頭を打って妄想しとるんか?」
「わしらの誰がそんな役をできると思っとるんじゃ!」
「おお、わしでもよかったかもしれんがのう、はっはっは!」
最後のおじいさんの冗談に、周りがどっと笑いに包まれる。
桜は顔を真っ赤にして枕に潜り込んだ。
(ちょっと待って、恥ずかしい……!)
「おぬしは倒れておったからな。しばらくここで養生して、元気になったらどうするか考えなさい」
優しい声が、木の壁に反響して心地よい。
桜は胸に手を当てて、深呼吸した。
(……本当に、異世界なんだ)
怖さよりも、どこか不思議な安心感があった。
おじいさんたちの眼差しが、家族みたいにあたたかい。
仕事で疲れた心に、じんわり染みていく。
「ありがとうございます。……でも、私、記憶が曖昧で……帰る場所も思い出せなくて」
「そうかそうか。ならば、ここにおるとええ。助けたのも縁じゃ」
「そうじゃ。食うものはようけあるし、薪割りくらいは手伝ってもらえりゃ助かる」
「それに、女の子の声があると家の中が明るいわい」
「……ほんとに、いいんですか?」
「もちろんじゃ」
七人の笑顔が、春の日差しみたいに柔らかかった。
その瞬間、桜は思った。
——ああ、ここが、いまの私の居場所なんだ。
(いきなり異世界で、しかも“じいさん村”なんて……想定外だけど、悪くないかも)
そんな自嘲まじりの心の声とともに、桜はそっと毛布にくるまった。
外では、風が若葉を揺らし、鳥のさえずりが響く。
不思議と、胸の奥に「これから」が芽吹くような気がした。
こうして——
“七人のおじいさんと暮らす異世界ライフ”が、静かに始まったのだった。
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