【完結】異世界リメイク日和〜おじいさん村で第二の人生はじめます〜

天音蝶子(あまねちょうこ)

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第7話 新しい居場所

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 療養のために寝込んでから、もう数日が過ぎた。
 窓辺に差し込む春の光が、部屋の中をやさしく照らしている。
 ベッドの傍らでは、毎日のようにおじいさんたちが顔を出してくれた。

「桜ちゃん、薬草茶を煮出してきたぞ」

「こっちはハチミツ入りじゃ、喉にいいぞい」

「うちの孫が焼いたクッキーも食べてってくれ」

 差し出される湯気と笑顔に、桜は胸が温かくなった。

「ありがとうございます。……みなさん、本当に優しいですね」

 そう言うと、おじいさんのひとりが笑い皺を深くして答えた。

「そりゃあ、桜ちゃんがよう働いてくれたからじゃよ。今度は、わしらの番じゃ」

 ——誰かに世話をされることに、こんなにも救われるなんて。

 最初のころは、何かをしていないと落ち着かなかった。
 けれど今は、少しずつ心に余白が生まれている。

(私、本当は……何がしたかったんだろう)

 そんな問いが、いつのまにか頭の中で芽を出していた。
 夕方、風が冷たくなり始めたころ。
 カイが静かに扉を開けて入ってきた。

「起きてたか」

「はい。今日はもうずいぶん元気です」

 桜が笑うと、カイは小さく頷いて近づいた。
 手には、錆びた鉄の鍵がひとつ。

「……これ、あんたに渡そうと思って」

 桜は目を瞬いた。

「鍵? どこのですか?」

「村の外れにある小屋だ。昔、木工をやってたじいさんの持ち物でな。今は空き家になってる」

 カイは少し言いにくそうに頭をかいた。

「おまえの店にすればいい」

「えっ……私の?」

「修理だの細工だの、あんたの手があると助かる。けどな、他人の頼みばっかり聞くのは違ぇだろ。あんたが“やりたいこと”をやる場所にしてみりゃいい」

 その言葉が、胸の奥にまっすぐ刺さった。

(やりたいこと……)

 それは、ずっと考えていた問い。
 でも答えは見つからなかった。

「私の……やりたいこと」

 小さく呟くと、カイが肩をすくめた。

「焦んなくていい。使いたくなったら使えばいい。それだけだ」

 不器用な言葉なのに、なぜか涙が出そうだった。

「カイさん……ありがとうございます」

「礼はいらねぇ。ただ……無理だけはするな」

 その背中が扉の向こうに消えたあと、桜は手の中の鍵をじっと見つめた。
 古びていて、少し冷たい。
 けれど、不思議とあたたかさを感じる。

(この鍵は、たぶん“新しい扉”の鍵なんだ)

 翌朝、桜はゆっくりと村の外れへ足を運んだ。
 草の生い茂った道を抜けると、小屋が現れた。
 木の壁はところどころ剥がれ、窓にはほこりが積もっている。
 それでも、どこか懐かしい気配があった。

「ここが……私の場所、なのかな」

 鍵を差し込み、そっと回す。
 錆びた音が鳴って、扉が開いた。
 中は陽の光に満ち、木の香りが漂っていた。

(リメイク屋桜、か……悪くないかも)

 思わず笑みがこぼれる。
 工具を置く台の跡、乾いた木の床、壁に残る釘穴。
 ひとつひとつが、これから始まる物語の予感のようだった。

「よし、やってみよう」

 声に出すと、不思議と力が湧いてくる。
 誰かのためだけじゃなく、自分のためにも。
 この世界で生きる理由を、自分の手でつくっていくために——。

 桜は鍵を胸に抱きしめ、穏やかな風の中に立っていた。
 その頬を撫でる風は、まるで「おかえり」と囁いているようだった。
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