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第11話 “リメイク屋桜”繁盛記
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高く澄んだ秋の陽射しが、グレイン村を包んでいた。
桜の小屋の前には、今日もおじいさんたちが数人、手に手に古い道具や家具を抱えてやってくる。
「桜ちゃん、また壊れちまってなあ。釘が抜けてもう座れんのじゃ」
「昨日の籠、取っ手が切れてしもうたんじゃが、直せるかの?」
「もちろん。ちょっと待っててくださいね」
桜は笑顔で受け取り、袖をまくった。
腕に薄くついた木屑が、彼女の日々を物語っている。
いつの間にか、村の人たちは桜を“便利屋”ではなく、“リメイク屋”と呼ぶようになっていた。
壊れた椅子、欠けた陶器、擦り切れた布——桜の手を通すと、どれも生まれ変わるように息を吹き返す。
今日も、窓の外ではおじいさんたちが腰を下ろし、桜の仕事を眺めていた。
「ほれ見てみい、桜ちゃんの手つき。あの木槌の扱い、まるで職人じゃ」
「ほっほ、儂らの中じゃ一番の働き者よ」
そんな声が風に混じり、桜は少し照れくさそうに笑う。
――こんなに笑顔が見られる場所があるなんて、あの頃の私には想像もできなかった。
手のひらの温もりと木の香り。
それだけで、胸の奥がぽっと明るくなる。
「……おまえ、本当に器用だな」
不意に背後から声がして、桜は振り返った。
そこには、いつものように腕を組んだカイが立っていた。
彼の顔には、どこか誇らしげな色が浮かんでいる。
「もう、脅かさないでくださいよ」
「脅かしてねえ。ただ、見てただけだ」
「見てるなら手伝ってください。ほら、ここの釘、少し太いのに変えた方がいいんです」
「おまえ、人使い荒いな」
口ではぶつぶつ言いながらも、カイは器用に釘を選び、手際よく打ち込む。
トン、トン、トン。
ふたりの手が時折ぶつかり、桜は小さく息をのんだ。
――こんなふうに誰かと並んで作業するの、いつ以来だろう。
ひとりじゃないって、こんなに温かいんだ。
修理を終えた椅子を、おじいさんが嬉しそうに抱えて帰っていく。
「ありがとよ、桜ちゃん。これで孫がまた遊びに来ても安心じゃ」
「また壊れたら、いつでも持ってきてくださいね」
人の笑い声と、木屑の香りが小屋に満ちる。
その光景を見ていたカイが、ふと、何かを取り出した。
「……これ、渡しとく」
差し出されたのは、小さな木の板。
表面には、丁寧に彫られた文字が刻まれていた。
『リメイク屋 さくら』
手彫りの文字は、少し歪で、でもどこか温かい。
桜は思わず息をのむ。
「これ……カイさんが?」
「ああ。鍛冶の合間に、ちょっとな。看板くらい、いるだろ」
「……ありがとうございます。うれしいです、すごく」
桜の声が少し震えた。
胸の奥がじんわりと熱くなっていく。
――“ここに居てもいい”って、言ってもらえた気がした。
カイは照れたように頭をかきながら、釘と金槌を取り出した。
「ここでいいか?」
「はい、お願いします」
木槌が打たれる音が、小屋の前に響く。
少しひんやりとした秋風がふたりの髪を揺らし、木の香りを運んでいった。
カイが一歩下がり、看板を見上げる。
「……よし、悪くねぇ」
「うん、とても素敵です」
桜は看板を見上げながら、小さく息を吐いた。
あの日、転生したばかりの自分に伝えたい。
“もう泣かなくていいよ。あなたの居場所は、ちゃんと見つかるから”と。
その横で、カイがぽつりとつぶやいた。
「これから、忙しくなるぞ」
「え?」
「“リメイク屋さくら”ができたって、村中に噂が広まる。俺が保証する」
桜は笑った。
「じゃあ、そのときは……助手、お願いしてもいいですか?」
カイは少しだけ頬をかき、ぼそりと返す。
「考えとく」
けれどその声には、かすかな笑みが混じっていた。
木の看板が赤く色づき始めた葉の影を落とし、
その下でふたりの姿が、そっと寄り添うように重なった。
桜の小屋の前には、今日もおじいさんたちが数人、手に手に古い道具や家具を抱えてやってくる。
「桜ちゃん、また壊れちまってなあ。釘が抜けてもう座れんのじゃ」
「昨日の籠、取っ手が切れてしもうたんじゃが、直せるかの?」
「もちろん。ちょっと待っててくださいね」
桜は笑顔で受け取り、袖をまくった。
腕に薄くついた木屑が、彼女の日々を物語っている。
いつの間にか、村の人たちは桜を“便利屋”ではなく、“リメイク屋”と呼ぶようになっていた。
壊れた椅子、欠けた陶器、擦り切れた布——桜の手を通すと、どれも生まれ変わるように息を吹き返す。
今日も、窓の外ではおじいさんたちが腰を下ろし、桜の仕事を眺めていた。
「ほれ見てみい、桜ちゃんの手つき。あの木槌の扱い、まるで職人じゃ」
「ほっほ、儂らの中じゃ一番の働き者よ」
そんな声が風に混じり、桜は少し照れくさそうに笑う。
――こんなに笑顔が見られる場所があるなんて、あの頃の私には想像もできなかった。
手のひらの温もりと木の香り。
それだけで、胸の奥がぽっと明るくなる。
「……おまえ、本当に器用だな」
不意に背後から声がして、桜は振り返った。
そこには、いつものように腕を組んだカイが立っていた。
彼の顔には、どこか誇らしげな色が浮かんでいる。
「もう、脅かさないでくださいよ」
「脅かしてねえ。ただ、見てただけだ」
「見てるなら手伝ってください。ほら、ここの釘、少し太いのに変えた方がいいんです」
「おまえ、人使い荒いな」
口ではぶつぶつ言いながらも、カイは器用に釘を選び、手際よく打ち込む。
トン、トン、トン。
ふたりの手が時折ぶつかり、桜は小さく息をのんだ。
――こんなふうに誰かと並んで作業するの、いつ以来だろう。
ひとりじゃないって、こんなに温かいんだ。
修理を終えた椅子を、おじいさんが嬉しそうに抱えて帰っていく。
「ありがとよ、桜ちゃん。これで孫がまた遊びに来ても安心じゃ」
「また壊れたら、いつでも持ってきてくださいね」
人の笑い声と、木屑の香りが小屋に満ちる。
その光景を見ていたカイが、ふと、何かを取り出した。
「……これ、渡しとく」
差し出されたのは、小さな木の板。
表面には、丁寧に彫られた文字が刻まれていた。
『リメイク屋 さくら』
手彫りの文字は、少し歪で、でもどこか温かい。
桜は思わず息をのむ。
「これ……カイさんが?」
「ああ。鍛冶の合間に、ちょっとな。看板くらい、いるだろ」
「……ありがとうございます。うれしいです、すごく」
桜の声が少し震えた。
胸の奥がじんわりと熱くなっていく。
――“ここに居てもいい”って、言ってもらえた気がした。
カイは照れたように頭をかきながら、釘と金槌を取り出した。
「ここでいいか?」
「はい、お願いします」
木槌が打たれる音が、小屋の前に響く。
少しひんやりとした秋風がふたりの髪を揺らし、木の香りを運んでいった。
カイが一歩下がり、看板を見上げる。
「……よし、悪くねぇ」
「うん、とても素敵です」
桜は看板を見上げながら、小さく息を吐いた。
あの日、転生したばかりの自分に伝えたい。
“もう泣かなくていいよ。あなたの居場所は、ちゃんと見つかるから”と。
その横で、カイがぽつりとつぶやいた。
「これから、忙しくなるぞ」
「え?」
「“リメイク屋さくら”ができたって、村中に噂が広まる。俺が保証する」
桜は笑った。
「じゃあ、そのときは……助手、お願いしてもいいですか?」
カイは少しだけ頬をかき、ぼそりと返す。
「考えとく」
けれどその声には、かすかな笑みが混じっていた。
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その下でふたりの姿が、そっと寄り添うように重なった。
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