【完結】あなたと語る未来 〜言葉を失った少女と、理屈しか知らない少年〜

天音蝶子(あまねちょうこ)

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第3話 言葉のない告白

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 学園の空気がざわついていた。

 《言力装置の誤作動》

 午前のホームルームで流れたその通達に、生徒たちはどよめいた。
 言葉のエネルギーを可視化するシステムが、一時的に暴走したという。

「一部の教室では、発声が封じられる症状も出ているらしい」

 ミナトの言葉に、零は眉をひそめた。
 
「発声が……封じられる?」
 
 その言葉に、胸の奥がざらつく。

  ——凛花。

 嫌な予感が、理屈より先に心を突き動かした。
 
 昼休み。

 零は迷うことなく、凛花のいる特別教室へ向かった。
 そこは、発声障害や言葉力不安定者が集められる静かな区画。

 扉を開けると、青白い光が薄く揺れていた。
 教室の中央に、凛花がいた。
 苦しげに喉を押さえ、床に片膝をついている。
 周囲の装置が赤く点滅していた。

「凛花!」

 零は駆け寄った。
 彼女の喉にかざした端末が、異常値を示す。

 〈言力暴走:過剰共鳴〉

「……どうして」

 零は呟いた。

「君は言葉を出さないようにしてきたのに、今さら暴走なんて」

 凛花の指が、震えながらノートを開く。

 《怖いの。話したら、誰かを傷つける気がして》

 その筆跡を見た瞬間、零の胸に刺さるような痛みが走った。

 ——俺だ。

 俺が、君をそうさせた。
 沈黙を弱さと決めつけ、言葉の刃で切りつけたのは、俺だった。

「凛花、聞け」

 零は手を伸ばし、彼女の肩を支えた。

「怖がるな。君の言葉は、誰も傷つけない」

 凛花はかすかに首を振る。
 涙が頬を伝う。
 零は、その涙の意味を、頭ではなく心で理解した。 

 ——もう、理屈じゃない。

「言葉の力なんて、俺が壊してやる」

 その瞬間、零の〈言力〉が激しく光を放った。
 装置が唸りを上げ、空気が震える。
 彼は手を伸ばし、暴走していた共鳴波を吸収するように装置に触れた。

「零、だめ——!」

 凛花の声が、震える空気の中で響いた。
 初めて聞く、彼女の“声”。
 細くて、透きとおっていて、それでも確かに彼の名を呼んでいた。
 零はその声に目を見開いた。
 世界のざわめきが、音もなく消えていく。
 そして、静寂の中にその一言だけが残った。

「……凛花」

 彼女は泣きながら微笑んでいた。
 光に包まれるように、装置の波動が穏やかに静まっていく。

 ——沈黙が、壊れた。

 けれど、それは終わりではなかった。
 彼女が取り戻した“声”は、戦うための武器ではなく、
 誰かを呼ぶための、優しい音だった。
 零はそっと彼女の肩を抱き寄せる。

「君の声は、俺の中でいちばん綺麗に響く」

 その言葉に、凛花はわずかに息を呑んだ。
 彼の胸に顔を寄せ、微かに囁く。

「……ありがとう。あなたの“理屈”に、救われたの」

 零は小さく笑う。

「いや、君が俺の理屈を壊したんだ」

 夕暮れの光が二人を包む。
 かつて冷たい論理でできていた世界に、初めてあたたかい音が生まれていた。
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