ホライズン 〜影の魔導士〜

かげな

文字の大きさ
1 / 9

魔道帝国学院 入学①

しおりを挟む
   鼻歌を歌いながら、少女が軽い足取りで歩く。
   毛先につれて水色になっていき、緩くカーブのかかった銀髪はハーフアップにされ、青と白で刺繍された黒いリボンで結ばれている。左にかけて長くなっていく前髪の下からは空の色をした目が覗き、胸元には小さな上から下にかけて夕空のように青から赤に変わっていく石の嵌められたネックレスが揺れていた。
   黒を基調としたワンピース型の制服に瞳と同じ青色のリボンを胸元と腰に結び、魔導科の象徴である月光花が描かれたバッジが歩く度に左胸でキラリと光を反射した。
   左手には手のひらと甲しか覆わず、指を隠さない黒い手袋をつけており、人差し指には装飾の無い黒い指輪が嵌められている。
   エミリアンヌ・M・へーヴェル。今日から魔道帝国学院に通う新入生だ。

   彼女は両手で寮に持っていく軽い物を詰めた革製の旅行鞄を大切そうに持ち、服や本などのかさばる物は後で業者が届けてくれるのだと隣を歩く少年に話している。
   少年は旅行鞄を代わりに持とうかと提案したが、エミリアンヌは自分で持ちたいと断った。

   隣を歩く少年はエミリアンヌを微笑ましそうに見守り、制服の上に黒のマントを羽織っている。全国魔道戦の優勝者を示す耳飾りが歩くのに合わせ左耳で揺れている。
   少年の名前はダークライド・ヴァーライヌ・ヴォルフ。
   エミリアンヌの一つ上の学年で、兄と慕われているが、黒髪に赤目で顔立ちもエミリアンヌに似ていなく、血も繋がっていない。
   だが、エミリアンヌを見つめる目には慈愛が見て取れ、絵になる二人が醸し出す家族の雰囲気に、登校している生徒達は注目し、全く似ていない兄妹だと納得してしまう。


「ダーク兄は今日お仕事無いの?この時間に一緒に来ても間に合う?」

   機嫌良く鼻歌を歌っていると、確か案内役になるって言ってたよね?と、ふと気付いたようにエミリアンヌは首を傾げた。

「大丈夫。俺の仕事は皆がホームルームを受けてからだからね。それまでの俺の仕事はエミリーをクラスに送り届ける事だ。」

   にかりと笑ってダークライドは言った。
   髪型を崩さない程度に撫でるとエミリアンヌは花開くようにふわりと笑う。
   それを見ていた登校中の生徒達、特に弟妹のいる生徒はぐぅっと胸を押さえた。「反抗期中の弟のデレを思い出した。」と呟いた男子生徒に周りは同調し、ダークライドに羨ましそうな視線を向ける。
   男女関係なく向けられる羨望と嫉妬にダークライドは苦笑した。
   視線に気付かなかったエミリアンヌは、苦笑するダークライドを不思議そうな目で見ると首を傾げた。


   正門をくぐり抜け、十分ほど歩くと、校舎が見えてきた。
   寮から登校してくる上級生や、家が学院から離れており、寮の来客用の部屋を一時的に借りている新入生も合流して、校舎に着く頃には先程の倍くらいの人数が歩いていた。

「あの棟がエミリーのホームルーム教室がある棟だ。魔法学を教えてるから、魔法学棟。で、反対の左の棟は普通授業を教えてるから、座学棟。」

「おおぅ。安直なネーミングセンス。分かりやすいね。」

「だな。」

   正面は3階まであり、左右は7階まである立派な建物を二人は見上げる。流石大陸随一の魔導帝国学院と言うべきか、城のように大きく、装飾がしっかりとしている。

「授業は選択制なんだっけ?」

   ダークライドが学校生活の話をしていたのを思い出して尋ねた。ダークライドはこくりと頷いてそうだな、と言う。

「魔士、剣士、技士って分けた後に更に魔術科、魔導士だとか分けてるけど、受けられる授業には特に制限はかかってないんだ。
    強いて言うと、例えば錬金術で、上級、中級、下級って分けられてる時に上の級の授業を受けたい時は、先に試験を受けないといけないってところかな?細かいところは更に下級A、下級B、下級Cって分けられてる。
    こういうのは知識や実力が足りないまま受けると危険だからある措置なんだ。ほら、錬金術って爆発する事があるだろう?爆発の可能性を減らすために、試験では授業で使う薬草と混ぜちゃいけないものが分かっているか試すんだ。」

「へえ。」

   詳しくは学校のしおりに書いてあるから読んでみるといいよ、とダークライドは付け足した。
   新入生に配られるしおりには全学科の授業が一覧になって載っている。ダークライドも昨年はお世話になった。
   それに加え、しおりには学園の地図や教室の説明、図書室や闘技場の利用方法なども載っているので、最初の数ヶ月は新入生は必ず持ち歩いている。

   エミリアンヌは分かった。後で読むね、と頷いて頬を緩める。
   そして、これからは同じ学校に通うんだよね?と目を輝かせて今日だけで何回もした質問をするエミリアンヌにダークライドは微笑み、楽しみだなと答える。
   こくこくとエミリアンヌは嬉しそうに頷いた。
   立派な玄関を通り二人は校舎に足を踏み入れた。


「はい、到着。魔導科の教室だよ。」

   ダークライドに案内されて着いたのは、魔法学棟の2階にある教室。入り口には『魔術21』の札が掛かっていた。

「教室にはそれぞれ名前が付いていて、基本的には魔術、技術、そして武術の3種類の教室があるんだ。魔術の教室には魔法耐性がかかっていたりして、授業が受けやすいようにそれぞれ造りが違う。
    番号は十の位に階の数、一の位は見分けるために適当に数字が振られてる。」

   一階あたり最大で9つの教室があるって事だな、と言いながらダークライドは扉をガラリと開けた。
   教室は黒板を背後にした教卓を中心に弧を描くように60個ほど机が並べられ、後ろの列に行くにつれて高い位置になっていき、黒板が見やすくなっている。


「わぁ、広いね。」

   魔導科は魔術科などの他の科より人が少ないが、他の科はいくつかの教室に生徒を分けている為、結果的に魔導科の教室が一番生徒数が多くなる。
   そして一の位の数は部屋が大きい教室に“1”の数字が振られる事が多いため、これから学年が変わっても魔導科は6年間“1”の数字のついた教室でホームルームを受ける事になる。
   そう説明したダークライドだったが、別にそこまで重要じゃないから忘れても良いと数ヶ月前に話していた事をエミリアンヌは思い出した。

「これが2階で一番大きい教室って事かな?」

   ダークライドはよく知ってるな、と驚いていたが、エミリアンヌはダーク兄から聞いたんだよ、と答えた。

   既に6人程ちらほらと座っていた。ホームルームまでの過ごし方はそれぞれで、机に置いてある学校のしおりを読む人も居れば、しおりに手を触れずに本を読む人や、きょろきょろと周りを見回す人もいる。

「席が黒板に書かれてるから、確認しよう。」

   そう促されてエミリアンヌは教卓に近づき自分の名前を探した。
   どうやら席は名前順では無いようで、エミリアンヌは一つずつ四角に囲まれた名前を確認していった。

「んーっと...あった。」

   先に声をあげたのはダークライドだった。ダークライドは指を窓側の列の方へ指した。
   一番窓側の、後ろから3つ目の席だった。

   席に着いたエミリアンヌは持っていた旅行鞄を机の横に置いた。

「じゃあ、俺は行くよ。また後でな。」

   軽くエミリアンヌの頭を撫でて教室から出て行ったダークライドを見送り、エミリアンヌは席に着いた。

   窓の外を見ると、登校している生徒達が歩いている姿が見えた。
   エミリアンヌは机に置いてあったしおりを開き、これからの学校生活に思いを馳せた。
新しい学校、新しい生活。楽しみだと思いながらエミリアンヌは口元を緩めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...