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27. コトの顛末
しおりを挟む夜の闇の中、月と星を反射してキラキラと光る海面がとても神秘的で美しいアキン港に私はいた。
望遠鏡で海上を見ると、随分前から遠くの方に大きな白い帆船が停まっていて、甲板辺りが所々チカチカと火花が散ったように光っている。
そのうち大きな白い帆船の影からそれより小さい黒の帆船が現れて、こちらの港の方へと向かっていた。
それと同時に大きな白い帆船の方へと、まだ離れたところではあるが海軍の船が少しずつ近づいているのが見える。
そのうち望遠鏡で見れないくらいに大きくなった黒の帆船は、私の目の前の桟橋につけた。
「ソフィア!準備できたか?」
「うん。大丈夫。皆怪我はないの?」
「当たり前だろ。そんなヤワじゃねぇよ。さ、行くぞ!」
黒の帆船から飛び降りた彼は、私の手を引いて船に乗せた。
そのまま船はアキン港を離れ、うっすらと小さな光が煌めくアラゴンの街が遠くなってゆき、望遠鏡で先程の白い帆船の方を見れば既に海軍の船が横付けされていた。
この黒い船は見た目よりも早く海面を進み、風だけでなくパワーのあるエンジンで進んでいるそうだ。
みるみるうちにアラゴンの街の光は見えなくなり、周りは真っ黒な海だけになっている。
どんどん私の生まれ育ったヴェルケ王国が遠のいて行く。
「もう寂しいのか?」
「うん。決心したはずなのに、なんだかちょっとだけ寂しくなっちゃって。」
「生まれ育った場所だからな。離れるのは寂しくて当然だ。俺もそうだったからな。」
甲板から遠くを見つめる私の隣には、いつもと違って黒の衣服で全身を包んだロルフ船長がいる。
「ロルフ船長の生まれ故郷は遠いの?」
「まあ、ここからは随分と遠いな。」
「そう。いつか連れてってくれない?」
ロルフ船長が孤児として辛い思いをした場所だけど、どんな場所なのか出来ることなら知っておきたい。
そして出来るなら楽しい思い出で上書きできたらいいのにと自分勝手かも知れない願いを持った。
「そうだな……いつかあそこにもうどん屋開くか。」
フッと笑って後ろから抱きすくめたロルフ船長は、わざと私の耳元でそう囁いたから、吐息のかかった耳が熱くなって思わず身体を硬くした。
「や、やめてよ。いきなりそういう事しないで。」
「そういう事ってどういう事だ?」
私を抱きすくめたままで、可笑しそうに揶揄うロルフ船長に、恥ずかしさも限界になった私は誤魔化すように話しかけた。
「ねえ、前にフォンドールの店でアントン騎士団長さんに何か話しかけてたでしょ?あれ、何を話してたの?」
「ん?ああ……今日のことをな、あの騎士団長サンには前もって伝えてたんだよ。」
「え?あんなに前から?」
「今日俺らが襲った船は今までで一番規模の大きい奴隷売買をしていた船でな。さっきの船には孤児や、若い路上生活者がパッと見ただけで数十人は乗ってたぞ。」
ロルフ船長が言うには、船長たちがこの街に来てから『名もなき義賊』と呼ばれる海賊行為をしている時にも、情報屋から仕入れた情報を元に襲う船を決めていたという。
犯罪を犯している貴族はあの国にはたくさんいたから、襲う船には困らなかったらしい。
その情報屋の話しで、まさに今日大規模な奴隷売買が行われると知ったロルフ船長たちは際限なく罪を犯す貴族に鉄槌を下す為にあの船を襲ったという。
そしてロルフ船長たちがあの白い帆船を襲って足止めをしている間に、海上に待機した騎士団と海軍は『海賊に襲われた貴族の船を救助するという名目で船に乗り込み、たまたま多くの奴隷たちを発見した』という手筈になっていると言う。
流石に奴隷売買の現場を騎士団と海軍が見たとあってはいくら貴族であっても言い逃れはできない。
「それでも、何故アントン騎士団長さんには情報を流したの?ロルフ船長たちが捕まる恐れもあるのに。」
「あの騎士団長サンは、個人的にあの街の孤児や路上生活者を匿名で支援していたんだよ。ただの貴族としてできる範囲だろうが、それでも他の貴族とは違ったところがあったからな。」
ロルフ船長はアントン騎士団長さんが貴族の名前も使わずに匿名で支援していることを、孤児院の院長や情報屋からの話で知ったと言う。
「それで、あの日俺は騎士団長サンに今日行われる予定の奴隷売買の話と、船乗りたちの噂では海賊がその時船を狙うらしいって話をしたんだよ。奴隷売買はたくさんの金が動くからな。」
「でも、それならアントン騎士団長さんはロルフ船長の正体に気づいたんじゃないの?」
騎士団長を務めるくらい優秀な人だから、ロルフ船長のことを疑ってもおかしくないのに。
「まあ気づいたら気づいたで、今までの事で捕まるような証拠も残してねぇし、当日捕まえるしか方法はないだろうからな。どっちにしてもあの場に来るしかないってことだ。」
「……じゃあもし騎士団長さんがもう少しでも早くあの場に来てたら、ロルフ船長たちも危なかったんじゃないの?」
「まあ……そうだな。だけど、アイツは何となくそうしない予感がしてたからな。」
呑気なことを言ってるけど、かなり危ない橋を渡って今日という日を迎えたロルフ船長に私は苛立ちを隠せなかった。
たまたま捕まらなかっただけで、一歩間違えたら捕まっちゃうのに。
「馬鹿。」
「何?何で怒ってんだよ?」
このいつも飄々として、本心ではどんなことを考えているかなんて私には想像もできないような自由な彼に、心配させられることもこれから多いんだろう。
「おーい。ソフィアちゃん。怒るなよ。分かった!心配したんだな?大丈夫だって!俺らの船はアイツらの馬鹿でかい船より早えから絶対捕まったりしねぇしよ。」
「……もうこんなこと心配するのはヤダ。」
これからは、乗組員の方たちもロルフ船長も海賊は廃業して堅気になると決めている。
「分かってるって。これからはソフィアと美味い讃岐うどん作って、『うどん屋』するんだろ。俺だってこれから子どもも欲しいし、何より可愛い嫁さんの為に大人しくするさ。な?」
そう言ってグルンと私の向きを変えて向かい合う格好にした彼は、少しだけ海風で冷たくなった私の唇に口付けを落とした。
「つめた……。お前冷えすぎだろ!そんなに寒かったか?」
「大丈夫。これからしっかり温めてくれるんでしょ?ダンナ様?」
「じゃ、寝心地の良い船長室までご案内しましょうか。奥様。」
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