28 / 29
28. あれからのあの人は
しおりを挟む「いらっしゃい!」
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしますか?」
「えーっと、かけの大とワカメの小ください。」
「はい。かけ大、ワカメ小でーす!」
「はいよっ!」
あの日私がヴェルケ王国を出てから三年が経ち、この国で讃岐うどん専門店『元祖うどん屋』を開店して二年目。
二年前から空前の『讃岐うどんブーム』もあって、この店はとても繁盛している。
「ソフィアちゃん。俺のとこにぶっかけの大お願いね。それにしても、今日も可愛いねー。あんなオッサンじゃなくて、俺とうどん屋しようよ。」
常連客のケインさんはいつもこうやって私と夫であるロルフを揶揄う。
「おい!ケイン!さりげなく俺の嫁を口説こうとすんな!そいつは俺ンだぞ!」
厨房の中から常にホールを見張っている?ロルフはたまにこんな風に揶揄ってくるお客さんに本気で返すから余計に揶揄われてるんだと思うけど……。
「はい、ぶっかけの大ですね。ケインさん、この前は随分とお箸が上手に使えてましたね。もうフォークを付けなくてもいけそうですか?」
「そうだなー。もう箸でいけるかもな。今日は箸でいいよ。頼むね!」
「はい。ではお待ちくださいね。ぶっかけ大でーす!」
「……クッソ。はいよッ!」
なんだかんだ言ってもちゃんと『はいよ。』って返してくれるロルフは何だか可愛く思えるけど、それは惚れた弱みなのかも知れない。
この国ではうどん屋はまだ数軒だけど、私がうどん屋を始めたヴェルケ王国のアラゴンの街では、街中に色んな讃岐うどん屋が多く出来たらしい。
空前の讃岐うどんブームもアラゴンの街発祥で、アラゴンの街は『讃岐うどんの街』として世界でも有名になって観光客も訪れる一大観光地となったそうだ。
そしてアラゴンの街で讃岐うどんがブームになることで、うどん屋が多くなりそこの雇用も促進されて孤児や路上生活者が減ったというので、私はこの意図せぬ作用にも感謝した。
私の両親は酒場を引退して従業員に譲り、今では悠々自適に暮らしている。
そのうちこの国に移住してくると言うが、いつのことやら……。
隣の肉屋はトーマスの代になって、何と『肉うどん専門店』になったらしく、トーマスの作る甘辛い肉の乗った『肉うどん』は街中でも特に人気らしい。
フィリップさんのゴルダン領は讃岐うどんブームによって大量の小麦粉と大豆をアラゴンの街へ出荷し、国の中でも稀に見るとても豊かな領地となった。
領民たちは領主であるフィリップさん指導のもと、大豆を使った『醤油』作りにも励んで、より一層生活が安定するようになったという。
ちなみにこの『元祖うどん屋』でもゴルダン領から小麦粉と醤油を送ってもらっている。
アントン騎士団長さんは、一大観光地となったアラゴンの街の治安悪化を防ぐため、騎士団の増員を国に要請したそうだ。
そして希望する平民からも騎士を募って、今まで貴族しかなれなかった『騎士』という職が広く開かれることとなる足掛かりを作ったそう。
それに、あの大規模な奴隷売買を摘発してからは奴隷売買が死刑を含む重罪に処されることとなり、貴族たちも罪を犯すことを躊躇って、結果的に奴隷として攫われる人たちがいなくなったと言うから、あの日ロルフがしたことがこのように良い方向へ進んだことに私はとても喜んでいる。
0
あなたにおすすめの小説
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。
「甘酒って甘くないんだ!」
ピュアで、
「さ、さお…ふしゅうう」
私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。
だけど、
「し、しゅ…ふしゅうう」
それは私も同じで。
不器用な2人による優しい恋愛物語。
果たして私たちは
「さ…ふしゅぅぅ」
下の名前で呼び合えるのでしょうか?
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
乙女ゲームの中の≪喫茶店の店長≫というモブに転生したら、推しが来店しました。
千見るくら
恋愛
社畜OL、乙女ゲームの世界に転生!?
でも私が転生したのは――女主人公でも攻略対象でもなく、ただの喫茶店の店長(モブ)だった。
舞台は大人気乙女ゲーム『ときめき☆青春学園~キミの隣は空いてますか?~』。
放課後、女主人公と攻略キャラがデートにやってくるこの店は、いわば恋愛イベントスポット。
そんな場所で私は、「選択肢C.おまかせメニュー」を選んでくる女主人公のため、飲料メーカーで培った知識を駆使して「魂の一杯」を提供する。
すると――攻略キャラ(推し)の様子が、なんかおかしい。
見覚えのないメッセージウインドウが見えるのですが……いやいや、そんな、私モブですが!?
転生モブ女子×攻略キャラの恋愛フラグが立ちすぎる喫茶店、ここに開店!
※20260116執筆中の連載作品のショート版です。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる