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5. いや、来なくていいです
「はあ?アドリエンヌ嬢?」
薄暗い室内で必死に目を凝らしてアドリエンヌを見つめるアレックスは、寝ぼけて回っていない頭をフル回転しているのか暫くは呆然としていたが、そのうち状況を理解して顔を赤らめたり青ざめたりしている。
「ごきげんよう、アレックス様。実はアレックス様にお話したいことがございますの。それで、夜明けを待ちきれずにお邪魔した私の失礼をどうかお赦しくださいませね。全ては貴方への深い愛が故なのですわ。」
アレックスは目を両手で塞ぐようにしながらアドリエンヌに答えた。
「何故!何故服を着ていないのですか!」
アレックスの部屋にあった掛布だけを身に纏ったアドリエンヌの方をまともに見るまいとする番いの男を、アドリエンヌは妖艶な笑みを浮かべて見つめている。
「失礼いたしました。アレックス様は私の運命の番いですから、私の秘密からお話しなければなりませんわね。」
「はあ?運命の番い?」
「仰る通り、番いですわ。私の秘密に関しては口で言うより見た方が早いですわね。」
そう言ってアドリエンヌは再び蝙蝠へと姿を変えて、アレックスの周りをパタパタと飛翔してみせた。
「人間が……蝙蝠に……。」
アレックスは信じられないものを目にして口をポカンと開けたまま、その視線は飛翔する蝙蝠を追っていた。
そのうちアドリエンヌは蝙蝠から人の姿へと戻ると、その裸身にさっと掛布を纏った。
「……ということで、私実は吸血鬼なんですの。ですから姿を自由に変えられますし、割と凄い能力もたくさん持ってますのよ。」
「そ、それで……僕の自室にアドリエンヌ嬢が忍び込んだ理由は?」
アレックスは頬を染め目を覆いながらアドリエンヌの方は見ないようにして、ひとまず疑問に思ったことを口にする。
「私たち吸血鬼には、『番い』を持つ者達もいるのですわ。番いを持った吸血鬼は匂いで自分の番いを見つけるのです。そしてまさにアレックス様は私の番いなのですわ。」
「……吸血鬼という種族がこの国に居たとは知りませんでした。他国には吸血鬼やら狼男やら魔女やら、様々な種族が集う国もあるとは聞いたことがあります。しかし、番いというのは聞いたことがありません。」
もっと狼狽えるかと思えば意外にも冷静に受け止めた様子のアレックスに、アドリエンヌはホッと肩の力を抜いたのであった。
「その通りですわ。私たちシャトレ家はお父様の代からこの国に渡ってきましたの。そしてご存知かも知れませんが没落した領地を再興し、その功績が讃えられて国王陛下から侯爵の位を賜りましたのよ。そして、番いを持つ吸血鬼は種族の中でもごく一部なのです。ですから、人間であるアレックス様がご存知なくとも仕方がないことですわ。」
「それで、僕が貴女の番いであるからどうしろと言うのですか?」
思いの外すんなりと事が運びそうな展開となり、アドリエンヌは満足気に微笑んでから答えた。
「アレックス様は私の番い。ですから私と婚約を結んでいただきたいのです。そして、いずれは同じ吸血鬼として私と共に生きていただくことを切に望んでおります。」
アレックスはアドリエンヌの話す言葉を最後までじっと聞いてから、即答した。
「ごめんなさい。嫌です。」
即刻の拒絶にアドリエンヌは暫し動きを止めたが、しかし怯む事はなかった。
元々すぐに手に入れられるとは思っていない。
いくらアドリエンヌが『貴方が番いだから』とどれほど熱く語っても、人間であるアレックスがアドリエンヌのことを番いだと認識することはないのだから。
「まあまあ、そんなにすぐ答えを出さなくてもよろしいのですよ。これから徐々に距離を縮めていけば良いのですから。今日は出来ればご挨拶までと思いまして。また参ります。」
「いや、来なくていいです。」
アレックスは自分の気持ちを他所にどんどんと話を進めるアドリエンヌに遠慮なく拒否の言葉を投げかけた。
「それでは、また近々お会いする日まで。ご機嫌よろしゅうございます。」
アレックスの拒否はアドリエンヌには聞こえたのか聞こえなかったのか、どこか上機嫌な様子のアドリエンヌはパッとまた蝙蝠に姿を変えて屋根裏へ、そして外へと飛び出していった。
「何だったんだ……一体……。」
すっかり目が冴えたアレックスは、蝙蝠に姿を変えたアドリエンヌが通った天井の穴をじっと見つめるのであった。
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