殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭

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6. とても美味しいお水を召し上がれ


 邸に帰ったアドリエンヌは、眷属であるふくろうのヘルメスに話しかけた。

「はあー……。アレックス様、とても良い匂いがしましたわ。しかも、思ったよりも豪胆な方なのね。私の秘密を知ってからもそこまで驚いた風でもなかったわ。ただ、番いになることはやはり拒否されてしまったけれど。それにしても、私の裸身を見まいと必死にお顔を隠してらして……とてもお可愛らしいこと。」

 赤い顔をしながら目を覆い裸身を見ないようにと気遣ったアレックスに、アドリエンヌはなお一層好感を抱いたのだった。

「優しいお方だし、きっと根気よく説得すれば分かってくださるわ。朝になったらまた会いに行きましょう。」

 早速朝になったらアレックスに会いに行こうと心に決めて、アドリエンヌはヘルメスをひと撫でしてから眠りについた。
 


 翌朝、アドリエンヌは朝食もそこそこに今度は令嬢の姿で昨晩訪れたフルノー伯爵邸に出向いた。
 その際、侯爵家の料理人が作ってくれた焼き菓子を大量に持参したのである。

 馬車が伯爵邸の門前に着くと、庭で作業をしていたアレックスが侯爵家の馬車に気づいた。

「ごきげんよう、アレックス様。朝早くからお疲れ様です。何をしていらしたんですか?」

 アレックスは作業用の服なのか簡素な白いリネンシャツと黒のスラックスを身につけて、手には収穫したばかりの野菜を入れた籠を持っていた。

「……どうも。野菜の収穫ですよ。昨晩お会いしたばかりだったかと思いますが、今日の御用向きは?」

 初めて会った時よりもなお一層不機嫌な様子のアレックスは、それでもアドリエンヌの質問に答えた。

「御用という程のことではありませんのよ。ただ、アレックス様のことをもっと知りたくて。今日は焼き菓子をお持ちしましたの。よろしければ後で一緒に召し上がりませんか?」
「……まだ作業はだいぶかかりますよ。トマトや茄子たちに水やりもしないといけませんし、ハーブの収穫もあります。アドリエンヌ嬢をお待たせするのも申し訳ありませんから、お引き取りいただいてもいいですよ。」

 アレックスはマイペースなアドリエンヌに少々苛立った様子を見せながら作業を続けている。

「あら、構いませんわ。何でしたら私もアレックス様のお手伝いしてもよろしいでしょうか?」
「御令嬢ができることはありません。その高価なドレスが汚れてしまいます。」

 アドリエンヌの方を見ようともせずに作業を黙々と続けるアレックスに、アドリエンヌは暫し思案してから動いた。

「それでは、水やりをお手伝いしますからどこにお野菜があるかだけ教えていただけますか?」
「聞いてたのか?ドレスが汚れると言っただろう。」
「大丈夫です。是非、お願いいたします。」

 少々口調と声を荒らげたアレックスにもアドリエンヌは怯む事なく笑顔で話しかける。

「……こっちです。」

 結局、野菜やハーブがたくさん植えてある場所へとアドリエンヌを誘導し、水道の在処を教えたアレックスはさっさと先程の作業の続きへと戻っていった。

「よし、それではやりますわよ!」

 パンッと手を叩いたアドリエンヌは、ドレスが汚れることも厭わずにアレックスに教えてもらった水道からジョウロに水を汲んで、野菜たちへの水やりを始めた。
 たくさんの野菜やハーブが育った場所は、貴族の庭とは思えないほどに本格的で、まるで農家の畑のように手入れされている。

「やってみれば楽しいものですわね。ほうら、たくさんお飲みなさい。美味しいお水ですよー。」

 アドリエンヌは野菜たちに声をかけながら次々と水やりをこなしていった。

 そんなアドリエンヌを遠くからチラチラと様子を窺っていたアレックスは呆れたため息を吐いた。

「なんだ、あの令嬢。高価なドレスをあんなに泥だらけにして、一体どうやって帰るつもりなんだ?野菜にいちいち話しかけてるし、たかが水やりであんなに嬉しそうにするなんて変な奴。」

 アレックスの実家であるフルノー伯爵家はシャトレ侯爵の言っていた通りの貧乏伯爵家で、タウンハウスで過ごす間もできるだけ野菜やハーブは庭で取れたものを料理していた。
 元々領地は目立った特産品もなく、肥沃な土地でも観光地でもないために収入は少ない。
 その上、フルノー伯爵の意向で領民に課す税も最低限であったから尚のこと贅沢はできなかった。

「なんであんな侯爵家のお嬢様が俺なんかを『番い』とかなんとか言って構うんだろうな。吸血鬼がこんなに身近にいたことも驚きだし、そもそもあんなにすんなりと人間に正体をバラしていいもんなのか?」

 野菜の収穫を終えて、今度は手元の肥料を花の植えてある庭に埋めながら、アレックスはブツブツと独りごちた。


 



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