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10. 我が息子は本物の愚者よ
あの生誕記念パーティーの後、アドリエンヌとの面会を終えた国王は王太子を呼びつけ激しく叱責した。
「王太子!お前という奴は何ということをしでかしてくれたのだ!アドリエンヌ嬢との婚約破棄を儂に相談もなく勝手に宣言しおって!事の重大さを理解しておるのか?」
国王は王太子がアドリエンヌとの婚約破棄を勝手に行ったことと、ネリー・ド・ブリアリとの婚約をすぐさま宣言したことに頭を痛めていた。
「父上、お言葉ですがアドリエンヌは常日頃から私のことを立てるということをしませんでした。王太子の婚約者というこの国でも王妃に次ぐ高貴な身分だというのに、常に王太子である私に説教を垂れるのです。
さすがあの強欲な侯爵の娘だけありますね。そのような可愛げのない女よりも、ネリー嬢のように私を励まして元気付けてくれるような慎ましい女の方が相応しいと思うのです。母上も賛成してくれました。何がいけないのでしょう?」
王太子は何も分かっていなかった。
この国には豊かな土地も観光地も少なく、多くの領主たちは己の私腹を肥やすことに忙しい。
その為その領主たちが国へまともに税を収めないことも、シャトレ侯爵家が引き継いだ領地では目覚ましい発展を遂げてこの国一番の税を国へ納めていることも、しかもシャトレ商会の発展によりシャトレ侯爵家の納める税金はこの貧しい国の税収の三分の一にも達するということも王太子は知らないのだ。
しかも最も大切なことは、離れた国ではあるが侯爵のような吸血鬼や魔女、その他人間が戦ってもとても敵うわけもないような怪物たちが住まう異形の国、バリアント国との摩擦を避ける意味もあったのだ。
国王は侯爵から聞いて知っていた。
シャトレ家はバリアント国でも指折りの力を持つ吸血鬼の家系だということ。
元来人間と友好的なシャトレ家は外国に出て商売をしたりと人間と馴染んでいるものの、そうでない者の方がバリアント国には圧倒的に多いこと。
しかも彼らの同族に対する結びつきは強く、仲間に何かあれば害を及ぼした人間または国を滅ぼすなど造作もないことだと。
国王はシャトレ侯爵がこのガンブラン王国へ渡った時に、手広く商会をするには有利になる侯爵位を与える代わりに侯爵の長女を王太子の婚約者へと定めた。
それはこの有能な侯爵を他国へ渡らせないことと、バリアント国との友好関係を築くこと、王家への忠誠をよりしっかりと誓わせ、更なる税収に繋げようという国王の謀りごとだったのだ。
つまり、アドリエンヌと王太子の婚約は侯爵家から望んできたわけではなく国王の方から侯爵に打診した話であったのだ。
そんなこととは知らず、強欲な商売人の侯爵が娘を高貴な血筋へ嫁がせようと画策したのだと王太子は考えていたのだった。
「愚か者め。ユベールよ、お前は何も分かっとらん。もう良い、そんなにネリー・ド・ブリアリと婚姻を結びたいならば勝手にするがいい。その代わり、その際にはお前の王太子としての地位を剥奪するということはしっかりと頭に入れておけ。」
「な……っ!何故ですか?何故私がネリーと婚姻を結べば王太子の地位を失うのです?そのようなことは到底許されることではありません。」
王太子は訳が分からず、それでも王太子としての地位を奪われることなど耐えがたいと抗議した。
「儂はお前のやらかした事の後始末をしなければならん。暫く愚か者のお前とは会わんからそのつもりでいるように。」
そう言って、国王は謁見の間から去った。
残された王太子は、訳が分からず呆然としている。
「何故……何故だ。とりあえず、父上のお怒りが鎮まるまではネリーとの婚姻は延期することとしよう。王太子の地位を奪うなどと、きっと脅しに違いない。暫くすれば父上も頭が冷えるだろう。」
そう独りごちた王太子は、甘やかされて育っただけあって本物の愚か者であった。
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