殿下、真実の愛を見つけられたのはお互い様ですわ!吸血鬼の私は番いを見つけましたので全力で堕としにかかりますから悪しからず

蓮恭

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14. 初めての吸血行為は素敵でした


「アドリエンヌ嬢!どうしたのですか?どこか具合が悪いのですか?」

 驚いた顔でアドリエンヌの肩に触れて声をかけるアレックスは、覗き込んだアドリエンヌの表情が恍惚としていて壮絶な色香を撒き散らしていることに気づく。

「アレックス様……。ハア……っ。申し訳ありませんが、少し……離れていただけませんか?」
「何を……。」

 そんなアドリエンヌの表情を見てアレックスは戸惑ったが、苦し気な呼吸をしながら離れてくれと懇願するアドリエンヌを放っておくことはできなかった。

「お願いします……。はあ……。このままでは、貴方の首筋に噛み付いてしまいそうなのです……。ハァ……ッ。ずっと吸血衝動を堪えてきたのですが……貴方が愛しいことを仰るから……。耐えられそうにないのです。離れて……お願い……。」

 アドリエンヌは潤んだ紅い宝石眼をアレックスへと向けて懇願する。
 
「もし……、僕が貴女に吸血されればどうなるのですか?すぐに吸血鬼になってしまうのですか?」

 アレックスは座り込んだアドリエンヌを支えるようにしながら問うた。

「……すぐには……吸血鬼になることはありません。生命抵抗せいめいていこうがありますから……少なくとも二度以上は吸血しなければ……。」

 表情は相変わらず壮絶な色香を漂わせながらも、苦し気に答えるアドリエンヌを前にアレックスは思案した。

「貴女は今、随分と苦しいのですよね?」

 突然のアレックスの問いにアドリエンヌはすぐに返事ができないでいた。

「アドリエンヌ嬢、その衝動に抗うことは随分と苦しいのでしょう?」
「……はい。苦しいのです。でも……。」

 アドリエンヌは、アレックスが何を言いたいのか分からないでいたから不思議そうに目の前の番いを見つめていた。

「それでは、一度吸血を許します。それで貴女が楽になるのであれば……。」
「アレックス様?……そのようなこと、宜しいのですか?貴方の望まない吸血は……したくありません。ハア……はあッ……。」

 番いの思わぬ誘惑に、アドリエンヌは吸血衝動がなお一層強くなり抗うことにももう辛くなってきていた。
 しかし、アレックスが望まぬことはしたくないと懸命に堪えていた。

「貴女は私の手伝いをしてくれていますが、貧乏伯爵家嫡男の私には貴女に対価を支払う術がありません。ですから、貴女が楽になるのであれば私の血液を渡します。あっ!でもなるべく痛くないようにしてくださいね!さあどうぞ!」

 ギュッと目を閉じて首筋を差し出すように首を傾げたアレックスに、アドリエンヌは愛しさが溢れて吸血衝動はますます強くなった。

「アレックス様……。決して痛くはしませんわ。安心してくださいませ。」

 そう言ってひやりとしたアドリエンヌの手がアレックスの首筋に触れ、やがてその牙を剥き出しの首筋へ埋めた。

「うっ……!」

 アレックスはその瞬間に思わず呻いて眉間に皺を寄せたが、その後の表情から見るに痛みは感じなかったようだ。

「あの、まだですか?」

 いつまでも首筋に顔を埋めるアドリエンヌに、アレックスは問いかけた。

「失礼いたしました。あまりに嬉しくて……。アレックス様、痛くはないでしょう?吸血行為では痛みとは逆にお互いに快楽を得られるような仕組みになっていますから辛くはないはずですわ。」

 スッと牙を抜いたアドリエンヌは、やはり恍惚とした表情と悩まし気な雰囲気を醸し出している。
 アレックスの方も頬を赤く染めて吐息が熱く荒い。

「楽に……なりましたか?」

 呼吸すら苦し気に言葉を紡いだアレックスに、アドリエンヌは渾身の笑みで答えた。

「アレックス様、愛しています。貴方のその優しさに私は途方もなく惹かれてしまうのです。貴方が私の伴侶となる決心がついた時は教えてくださいませ。その時は共に吸血鬼として生きましょう。」

 アレックスは何も答えなかった。
 ただ、この吸血鬼令嬢の愛の深さにはやっと気づかされた。
 番いを否定するアレックスのことを思い、これ程までに激しい吸血衝動を抑えていたのだ。

「……考えておきます。」

 アレックスの今までと違った反応にアドリエンヌは驚いたが、すぐにその目を細めて口元に弧を描いたのだった。

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